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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第三章 -永遠の契約-
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第八話 振るわない剣の理由

 俺の呼びかけに答えるように姿を現したレイは、小さな笑みを浮かべながらこちらに歩いてくる。俺のすぐそばに辿り着くと、そのまま口を開く。


「すまないね、妹の特訓に毎日付き合ってもらって」


「……わざわざそんなこと言ってくるくらいなら、お前が教えてやればいいだろ」


 言いながら、手に持つ剣をレイに向け放り投げる。

 彼は流れるような手の動きで柄を掴むと、刃を照明に反射させるように翳す。


「残念だけど、そういうわけにもいかない事情があってね」


 軽く、本当に軽く、レイはその剣を真っ直ぐ振るう。

 ほとんど力を入れていないにも関わらず、その剣撃によって生じた旋風はリーシャの比ではない。

 続けて剣の調子を確かめるように数度振るうと、静かに切っ先を下ろしこちらを向く。


「君に言うべき話ではないかもしれないけど、残念ながら僕とリーシャの仲はそこまでよくないんだ。この城で共に暮らすことになったのもたった三年前からでね。昔から、帝城に滞在することが出来るのは皇位継承権第二位までと定められているんだ。それに加え、僕と彼女が腹違いの兄妹ということもある」


 レイから語られるのは彼とリーシャが不仲の理由。

 ここ数日の様子を見る限り、そういった関係には思えなかったが。

 俺の知らぬところで様々な事情があるのだろう。


「皇族ならではの事情ってことか」


「まあ、そういうことになるのかな」


 非情に簡潔にまとめた俺の言葉にレイは首肯する。

 これ以上踏み込むべき事ではないのかもしれない。


 沈黙が、俺達の間に広がる。

 俺からレイに話しかけるべきことはない。

 用事があるとすれば、わざわざここまでやってきた彼の方にだろう。


「そういえば、君は明日ルミナリア王国に戻るんだったね?」


 おもむろに繰り出された話題を聞き、俺は頷く。


「ああ。元々の目的だった魔物は倒せたわけだし、これ以上ここに滞在する理由もないからな」


 それは事前に決めていたことだった。

 俺がエルトリア帝国にやってきたのは、あくまで協力関係である彼の国を脅威から守ること。

 それさえ成し遂げれたなら、俺がここにいる理由はなくなる。

 だから俺は、ルミナリア王国に帰還する。


 そう考えていたからこそ、次にレイが発した言葉を聞いた時、少しだけ動揺してしまった。


「ということは、彼女達と顔を合わせるための気持ちの整理はついたのかい?」


「――――」


 反射的に、俺は睨むようにレイに鋭い視線を向ける。

 レイは相も変わらないにこやかな表情で、俺の強い意志を受け止める。


「お前……」


 意識せずとも俺の喉から生み出された低く重い声すら、彼の表情を変えることはできない。


「魔王軍幹部アトロスの討伐、ならびにリリス第一王女の奪還を終えて戻ってきた時の君の様子を窺えば、そのくらいの推測はつくよ」


 悔しいことに、レイの言葉の通りだった。

 俺とソラがリリスを救出しスアレルに帰還した後も、あの時交わした幾つかの会話が俺達の関係に少なくない亀裂を生み出していた。


 一つ目が俺とソラの関係だ。あの夜、彼女は俺に世界を壊したいと願う理由を尋ね、その答えに不満を抱いたように、俺を嘘つきと呼んだ。俺の想いを聞き彼女が心の中に抱いた感情が何なのかは分からない。それでも、その出来事はお互いに向ける意識を変えるには十分すぎる出来事だった。以前の様な気軽な会話を、どちらともなく控えるようになった。


 二つ目が、俺とリリスの関係だ。商業都市サンリアラで購入していたプレゼントも渡し、一見関係は良好のように思えるかもしれない。けどそれは、アトロスに連れ去られた彼女の心の傷を癒すには到底足りないはずで。それどころか、どうしてか俺はこの手でアトロスを殺したと、言わなくていいことまでリリスに告げた。その時のリリスの複雑な表情がどうしても脳裏から離れない。ソラとは違い、スアレルに帰還してからも彼女は積極的に俺に話しかけようとしていたが、言葉に出来ない感情に捕らわれた俺の方から距離を開けていたため、気まずい雰囲気が生じるようになったのだ。


 表面上は魔王軍討伐に協力する立場ではないと主張する俺が、レイの勇者を一人借り受けたいという要請を受け入れ、逃げるようにエルトリア帝国にやってきた理由に、それらの事柄が含まれていることは否定できなかった。


 尤も、それを外部から眺めるだけで勘付くとは、レイの洞察力は異常だ。最近になって異世界という、この世界と関わりのないはずの場所から割り込んできた俺達とは違い、長年勇者としてあり続けた経験からそういった力を得たのだろうか。


「まあ、ある程度はな」


 刹那の内に途方もない広がりを見せた思考を無理やり断ち切り、俺はそう答えた。本当のところがどうなのかは、自分にも分からないけれど。


「そうかい」


 複雑な感情が込められた俺の返答を、レイは頷き一つで受け止める。

 するとふと、彼は手に持った剣を俺に差し出す。


「せっかくだ。妹のついでに、僕の修練にも付き合ってくれないかな」


 要するに、剣の立ち合いということだろうか。


「いや俺、剣とか使ったことないんだけど」


「構わないさ。君ほどの身体能力を持つ相手なら、剣の素人でも十分タメになる。君にとっても、剣士の戦い方をその身で実感するのはいい経験になると思うよ」


「そうか? ……まあ別にいいけど」


 乗り気ではないながらも、剣を受け取る。


 経験上、過去に剣士と戦うことはあっても自分が剣を使うことはなかった。理由の一つとしては、俺が全力で振るうと大概の剣は一瞬で壊れるからだ。思い出す限りでは、元の世界には一振りだけ俺が扱えそうな剣があったが……いや、それについてはいいか。もう存在しない剣の話だ。


 俺は両手に剣を持ち正眼に、初心者丸出しの構えで立つ。

 目の前には腰から騎士剣を抜いたレイの姿がある。


「それじゃあ、始めようか」


「ああ」


 同時に、地を蹴り前方に跳んだ。



 そして、それから俺達は暫くの間、剣を交わし合った。

 機動力を駆使し善戦はしたものの、普段剣を扱わない俺が敵うこともなく敗北。

 終えた時の感想としては、やはり素手の方が戦いやすいというものだった。


 ……それに、レイほどの実力者と戦うと、やはり俺が剣を使い辛いと感じる一番の理由を実感する。

 対等な実力者を相手にすると剣では手加減が出来ない。素手とは違い、剣の結果は斬れたか斬れなかったかしか存在しない。頭や首、心臓にまともな一撃を喰らわせれば、それだけで呆気なく命を摘み取ることになる。


 結局、この立ち合いで得たものは、俺の臆病な心の再認識くらいだった。



 ◇



 翌日、早朝。


 アートレアルから出発するのは昼過ぎの予定だが、妙に寝覚めがよかったため何気なく城内をうろつく。しかし、あくまで他国の勇者である俺が立ち入ることを許可された区域は限られている。


 個人的にも、特に見ておきたい所があるわけではない。

 早々に城内に用をなくした俺は、一階にまで降りるとそのまま外に出る。

 少し歩を進めると、城の側に広がる庭園にまで辿り着く。


 数日前に一度だけ足を踏み入れた、時には首都に滞在する貴族を招待することもあるという庭園。

 その空間には木々が生え茂り、広大な空間の外側に置かれた花壇も含め、季節ごとに色彩豊かな花々を咲かせるらしい。

 尤も、今に限っては花々よりも赤く色づいた葉に意識を奪われる。


 上空からひらりと落ちてくる落葉を、手の平を空に向け受け止める。

 そして親指と人差し指で掴み、撫でるように眺める。

 その行為にさしたる意味はない。これもまた気紛れの様なもの。


「何してるのよ」


 などと上流階級っぽいことをしていると、背後からここ数日で聞き慣れた、鋭利さを持つ声が俺の鼓膜を刺す。それが誰か予想しつつ振り向くと、やはりそこには護衛を二人後ろに連れたリーシャが立っていた。


 ただ、普段見慣れたのと違う点として、現在リーシャは穢れのない純白のドレスに身を包んでいた。青色の刺繍で花の紋様が施され、淑女に相応しい恰好をしている彼女と、普段の勝気な姿が俺の脳内ではどうしても上手く噛み合わない。加え、昨日の喧嘩別れのような出来事も脳裏に残っている。それらの理由によって、俺は思わず投げかけるべき言葉を探すまでに数秒を費やした。


 そんな無意味な時間をリーシャがただ待つ訳もなく、彼女は庭園に備え付けられた――花を観賞する際に寛ぐためであろう、木製の丸机の横に置かれた椅子に勢いよく座る。その際に地面の土がはねドレスにぶつかるが、当たった箇所から微かな魔力が生み出されたかと思うと、土は付着せず落ちていく。汚れを防止する術式を付与しているのだろう。リリスも使用していたため覚えがある。


「シラサキも座りなさいよ」


 いつまで経っても返答がないことに痺れを切らしたように、少し機嫌が悪そうな表情を浮かべながら、リーシャは顎でひょいと俺の行動を促す。やはりドレスを纏った彼女の姿から感じる落ち着いた雰囲気は気のせいだったのだろう。


「はいはい」


 内心、普段と変わりない態度を有難く思いながら、気乗りしないと思わせるような態度で俺は机を挟み彼女の前に座る。

 その間にもリーシャは護衛の兵士に何かを頼み、兵士もまた近くにいた給仕にそれを伝えている。どうやら飲み物でも持ってくるように指示しているらしい。


 そして、何故か俺とリーシャのティータイムが始まった。

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