ば閑話 激闘のにらめっこ
時系列
第二章『第十九話 笑顔に陰り』直前
思いつくままに綴りました。タイトルは誤字じゃないです。
メタ発言も入れていますので、苦手な方はご注意を。
この世界は嫌いだ。
いつだって思い通りに事は回らない。
何気ない幸せを、不条理が容易く俺から奪っていく。
「ふざけるなよ……」
喉から低く怒りに包まれた声が漏れる。
それは誰にともなく呟いた言葉だったのだが、目の前にいる少女は目ざとく反応する。
「ふざけてるのはそっち。意味不明な自分ルールを押し付けたのは、シュウの方」
「……なんだと?」
透き通る水色の髪に深い蒼眸を持つソラは、冷たく俺を睨み付けるだけ。
俺とソラの視線が交わされ、お互いに納得のいかない感情をぶつけ合う。
そして。
「あ、あの~。もう始めてもよろしいでしょうか?」
そんな俺達の横で少し呆れたような表情を浮かべるリリスがいた。
「いいよ」
「おーけー」
リリスの言葉に、俺達は同時に頷く。
「それでは、なんかもう適当に始めてください!」
かくして。
選手:白崎修・ソラ
審判:リリス・ジオ・ルミナリア
第一回にらめっこ対戦が行われることとなった。
何故このような状況になったのか。
まずはそこからご覧ください。
◇
それは俺がスアレル王国に辿り着き、レイ・ジオ・エルトリアと模擬戦を繰り広げた翌日のことである。
「腹が減った」
普段通り、正午前に目覚めた俺は食堂に向かっていた。
「あっ、シュウさん!」
「……シュウ」
すると、そこにはリリスとソラの二人がいた。
二人仲良くテーブルに並んでおり、どうやら料理が運ばれてくるのを待っているようだ。
「おはようさん」
「もうお昼ですよ? あと、こんにちはです」
「俺にとっては目覚めた時が朝だ」
リリスの横に座りながらそんな会話を交わす。奥からソラ、リリス、俺の順番だ。
そのまま食堂にいる給仕さんに俺の分の昼食も持ってきてほしいと頼む。
「そういえば、逢ヶ瀬はまだいないんだな」
「アイガセさんですか? 先程起こしにいったら、あと五分、いや五時間だけ……と言っていました。まあ本日は特に用事もないようですし、別にいいかと思いまして」
「おいおいこんな時間にまだ寝てるなんて、だらしねぇなぁ」
「たった今起きてきたシュウさんがそんな台詞を!?」
何故かリリスが驚いている中、俺は逢ヶ瀬について考えていた。
出会った時からどこか高圧的な態度で人と距離を取ろうとする奴だが、ところどころポンコ……お茶目なところがある奴だ。思えばルミナダにいるときも用事がないときは基本自室に引きこもってたし、なんならご飯時になっても起きてこない時は何度かあった。色々と不思議な少女である。
まあ、アイツのことはいい。
ちょうど料理も運ばれてきた。
パン、スープ、サラダがそれぞれに。
そして最後にメインの、鶏肉を揚げた、要するに唐揚げが三人の中心にどんと置かれる。
部活をしている男子高校生かよ、とツッコミたくなるようなドカ盛りだ。
「ソラ、箸」
「ん」
目の前に置かれたフォークなどをよそに、リリスの頭上でソラから箸を受け取る。
ルミナダにいたころから、何故かソラに頼めば箸を渡してくれるのだ。
どこから入手しているかは分からないし、多分聞いても答えてくれなさそう。
そのまま唐揚げを摘みぱくり。
「うまい」
カリッと揚げられた衣に、ぷりぷりなもも肉。歯で切った瞬間に、ジューシーな肉汁が口の中いっぱいに広がる。米だ、米が欲しい!
「ソラ、米!」
「それはむり」
米は無理らしい。
その割にソラの前にお茶碗と白いつやつやとした粒があるのは気のせいだろうか。
まあいい、ないものはないのだ。
「お二人とも、よくその二本の棒で器用に食べれますね。ん、おいしいです」
給仕さんに頼んで自分の分を数個お皿に取ってもらったリリスは、一つずつナイフとフォークで食べていた。いやこの形状の物をそんな風に食べる方がむずかしいと思うんだが。
それにしても本当に旨い。
ただ、俺は美味しい物を最後に食うタイプなのだ。
まずはサラダやスープを食し、また食べるとしよう。
そう、この時俺がこう考えてしまったのが、悲劇の始まりだった。
「おい待てこらソラ」
「もぐもぐ……ひゃに?」
「口の中の物を呑み込んでから話しなさい」
「ごくん。分かった」
「って違う」
うっかり行儀の注意だけで終わりそうになったが、本題はそこじゃない。
「お前、一人でどんだけ食ってやがんだ」
俺達の前に置かれた大皿の上には、既に唐揚げが数個しか残っていなかった。
まだ数個しか食べてないんだけど。
決して大食いなわけではないけれど、これだけじゃ全然食い足りない。
なんて考えている間も、ほいほいとソラは唐揚げを口の中に放り込んでいく。
「ステイ」
最後の一つで箸でつまんだところで、俺はなんとかソラの腕を捕まえる。
「ふざけるなよ貴様。それは俺のだ、てかこれまで食った俺の分を返せ」
「むり。そもそも一人何個だとか、そんなルールはなかった。自分で食べたい分は、リリスのように取っておくべきだった」
「いや、普通は他の人の分まで残しとくもんだろ」
「は?」
「あぁん?」
俺とソラはガンを飛ばし合いお互いの考えを主張する。
しかしどれだけの時間が経とうと、俺もソラも引くことはない。
「いいだろう、残り一つを賭けて勝負だ、ソラ」
「望む、ところっ!」
こんな風にして、俺とソラの決闘が火蓋を切った。
「あの、お二人の言い合いに挟まれた私はどうすればよいのでしょうか……?」
「リリス、お前は審判だ」
「ええっ!?」
◇
という訳である。
そういう深い事情があるんだ。
分かってくれ。
ちなみにこの場にいるのは俺、ソラ、リリスだけではない。
「あ、僕はただの観客だから気にしないで」
テーブルの奥には、白銀の髪を持つレイがにっこりと微笑みながら此方を眺めていた。普通に食事を取ろうと思い来たらしい。ちなみに逢ヶ瀬はいない。アイツは多分まだ部屋で死んでいる。
そんな状況の中、勝負は始まっていた。
ルールは簡単。相手を笑わせればいい。
通常と違う部分に関しては、言葉も有りという点くらいか。
言葉なしだと描写が難しいから仕方ない。
そして開始してから数十秒、俺とソラは睨み合うばかりで当然どちらとも笑う気配はない。
仕方ない、先手は俺だ。
ソラだけでなく他の二人にも見られた状況なのが恥ずかしいが、早速勝負を仕掛ける。
残像、という現象がある。
本来は光などの強い刺激を見た後、光が消えてもその光景が暫く見え続けることを指す。
しかし創作物などでは、あまりに早く動くために人間の姿などがその場に残っているかのように見えるという意味もあるのだ。
俺はその現象を利用する。
人が笑うのは、予想していなかったシュールな光景が突如として目の前に現れた時!
超人的な身体能力と、残像という現象を利用すればそれは可能となる。
――――強化、からのッ!
「千手観音」
自分でもちょっと理解できないくらいの速度で両手を動かす!
そしてその結果! まるで俺の背には数十数百の腕が生えたかのような光景が浮かび――――
ビリっ。
「あっ」
その動きに耐えられなかったのか俺の上着が爆散し、見事に上半身裸となった。
「ぶふぉっ!」
しかし名誉の負傷というべきか。
服が破けたことが新たなシュールさを生み出したらしい。
俺は見事笑わせることに成功した――――
「しゅしゅしゅシュウさん!? なんて恰好してるんですか!?」
――――審判であるリリスを。
笑っちゃうのお前なのかよ。
てかめちゃくちゃ見てくる。
鍛えておいてよかった!
リリス、脱落!
しかしリリスが笑ったところで、肝心のソラは今の光景を見てもなんとピクリともしない。
くそっ、恥を忍んだ一撃が無駄に終わったか。
さあ、次はどんな策で挑も――――
「ッ!」
瞬間、悪寒が走る。
殺気にも似た何かが俺に襲い掛かる。
これはいった――ッ!?
「しまっ」
そこで俺は悪寒の正体に気付く。
おもむろに、俺の前でソラの両腕が動き始めているのだ。
思い出す。
人が笑うにはシュールさが重要だと俺は考えた。
だけど通常の傾向として、人は緊張感から解き放たれ安堵した瞬間に笑いやすくなるのだ。
そして今の俺は、渾身のネタがすべり落ち込みつつも次のネタを考え始め、少しリラックスしている状態――見事に一致する。
(まさか、このタイミングを狙っていたというのか!?)
ソラが後手に回った理由を、俺はようやく理解した。
まさかコイツがこんな天才だったとは!
けどもう手遅れだ。
俺が身構えるよりも早く、ソラの攻撃が放たれる!
そしてソラは両手で自分の顔を挟み込むようにして、唇を突き出しながら言った。
「ひょっとこ」
まさしくひょっとこだった。
「ぶふっ!」
「くっ」
その結果、ソラは見事笑わせることに成功する。
リリスとレイの両名を。
ていうかなんなのこいつら。さっきから千手観音やひょっとこの意味を分かった上で笑っているのだろうか?
いやまあそれについてはいい。とにかくわかることが一つ。
リリス、レイ、脱落!(リリス二回目)
「…………」
しかし、当の俺はなんとも言えない表情でソラを見つめていた。
いや、だってこれ、何というか。
「おもしろいっていうか、ただ可愛いだけだぞ」
「てれる」
率直な俺の感想に、ソラは少し顔を赤らめていた。
美少女が変顔しても、個人的にはそう思う。
レイやリリスにとっては俺の考えとは違ったみたいだが。
こうして一度目の攻防が終わる
結果として俺とソラはまだ笑ってはいない。
手で小さく口元を抑えるレイと、腹を押さえながら笑いを耐えるリリスがいるだけである。
というかどうしよう。
レイはともかく、リリスが本格的に笑い始め到底審判を出来る状況ではない。
俺も裸になっちゃったし、ここは痛み分けにしておくべきだろうか。
「何をしているんですか、皆さん……うわっ」
聞き慣れた少女の声が聞こえてきたのは、俺がそう考えた瞬間だった。
黒髪の長髪を靡かせあっ寝癖が……とにもかくにも、そこには逢ヶ瀬が眠そうな顔で立っていた。俺の方を見ながら超嫌そうな顔をしている。ごめんなさいね裸で。
まあいい。
「早速だが逢ヶ瀬、次の審判はお前だ」
「……は?」
まさかの続く!!!
続きの内容は明日考えます。




