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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第一章 -二人の少女の歪な誓い-
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第四話 勇者召喚の諸事情

 客室を出て通路を歩きながら俺は少しだけ居心地の悪さを感じていた。


 巨大な通路の壁際にいる兵士達が不思議そうな表情で俺とリリスの方を見ている。彼女が勇者を召喚したという情報自体は知っていたのだろう。彼らが俺達に声をかけてくることはなかったが、それでも警戒心に満ちた視線を此方に送っていた。


「それで、何について話すんだ?」


 気にしても仕方ないと意識を切り替えた上で、俺は目の前にいる小さな少女にそう投げかけた。向かっている場所も不明だが、そもそも話の内容自体もまだ聞いてはいなかった。


 リリスは軽く此方を一瞥すると、すぐに顔の向きを前に戻しその問いに答える。


「貴方は先刻、ここが異世界である理由を教えろと言っていましたね」


「ああ、言ったな」


「その確かな証拠になるとは言えませんが、信じる材料の一つとして王都の光景を見てもらおうと思ったのです。上階には王都を見渡せるバルコニーがあります。先日召喚した勇者の方に見てもらった時も効果はありましたから」


「へー、そんなことがあったのか」


 俺の相槌で話が終わったと判断したのかリリスは口を閉じる。

 場所を移動する理由を説明したことだし、特にこれ以上話すこともないのだろう。

 あと何分程度で目的地に到着するのかなーと俺は考え始め、


「はいすとーーーーっぷ!!」


「きゃあっ!」


 俺は彼我の距離三メートルを0.01秒くらいで詰めると華奢な両肩を全力で捕まえた。リリスは突然自分に襲い掛かった圧力に驚いたのか可愛らしい叫び声をあげる。


「き、貴様! リリス様に何をするつもりだ!」


 そしてリリスの状態の把握に努めていたら、いつの間にか俺の周りには四人の兵士がいて四つの穂先が俺の喉元に突き付けられていた。先程の貴族さんに命令され反射的に行動に移していた兵士とは違い、ここにいる者達からは自分が使える国の王女を傷つけさせないという強い意志を感じる。


「よし、落ち着こう」


 眼が怖い。俺が今この瞬間に肩揉みでも始めたらその瞬間に一気に突き刺されそう。


 うん、どうしよう。言葉で説得しても全然聞いてくれそうにない。

 正直この程度の攻撃を食らおうが俺からしたら蚊に刺される程度のもんなんだが、その後の気まずい空気は苦手なんだよなぁ。


「私は大丈夫です、引きなさい」


「ッ!? しかしリリス様!」


「構いません。彼に私をどうこうするつもりはありませんから」


 そんな状況を打破してくれたのは他ならぬリリス本人だった。

 彼女に強く言われては従うしかなかったのか、彼らは不満げな表情を見せながら槍を引く。


「勇者様、大変な無礼をお許しください」


「お、おう」


 そしてその表情を一切崩さないまま彼らはそう言うと元の持ち場に戻っていく。すげぇこいつら、俺に対する嫌悪感と警戒心を全く隠す気ねぁ!


「……あの、シラサキさん、そろそろ手を」


「ん? ああ、悪い」


 そう言えばまだリリスの肩に手を置いていたままだった。

 俺は離れていく兵士を見ながら、リリスを掴んでいた手を放す。

 すると彼女は振り返り、碧色の美しい瞳を俺に向ける。


「申し訳ありませんシラサキさん、先刻の玉座の間でのことといい、二度も続けて貴方に対する不徳を」


「いいな、あいつら」


「……ふぇ?」


 無表情を貫いていたリリスが何故かこのタイミングで僅かに間抜けな表情を見せるが、特にそれには触れず俺は言葉を紡ぐ。


「俺がお前の肩を掴んでからの行動も早かったし、俺を睨み付ける目にもお前を守ろうっていう意思を感じた……王様の部屋にいた奴らに比べても断然あいつらの方が優れてるだろ」


 だけど彼らの役職は俺の思うところとはきっと違う。玉座の間で控える兵士と城内を巡回する兵士、どちらの方が高い権限が与えられてるかなど想像に容易い。


「仕方ありません」


 その俺の言葉に対するリリスの答えは、どこか悲しげだった。


「ガドリア公爵は我が国の元老院の中でも特別大きな権力を持つ一人です。当然あの場にも公爵の配下である騎士団員が配置されていました。彼らにとっては国王の命令よりも直属の主に従ってしまうものなのです」


「ああ、そういう」


 面倒くさいことになっているもんだ。


「ですから玉座の間における騎士団員の行動には対応が遅れてしまい……私からも謝罪させてください。シラサキさんを危険な目にあわせてしまい本当に申し訳ありません」


「そういや、確かお前が守ったんだっけ」


「……僭越ながら、魔術を使用しシラサキさんの身を守らせていただきました」


「いや、お前」


 リリスは、それを本気で言ってるのだろうか。


「…………」


 俺から零れそうになった言葉は、彼女の真っ直ぐな瞳によって遮られる。

 そこからは口に出さずとも、確かな真意を感じることを出来た。

 さらに付け加えるなら、それ以上を言う必要はないという警告を。


 彼女が守ったのは俺ではなく、俺を襲った兵士達であるということを。


「まあ、そういうことにしておくか」


「はい、そういうことにしておきましょう」


 お互いがその事実を認識した上で、偽りの結論に至る。

 俺としては別にどっちでもいい。ならばリリスの無言の提案を断る理由もないという訳だ。


「余計な時間を過ごしてしまいましたね。それでは改めて目的地に向かいましょう」


 そう言うとリリスは俺に背を向け、前に歩き始め――――


「だからすとーーーーぷ!!!」


「ふみゃぁあ!!」


 彼我の距離一メートルを0.001秒で詰め、今度は肩ではなく両脇を掴むと全力で持ち上げた。


「な、ななな何をしてるんですか!?」


 リリスも驚きのあまり全力で叫ぶ。

 一度は控えた兵士達の視線が痛い、というか全力で此方に向かって来ている。


 再度厄介事に巻き込まれないよう素早くリリスを床に下すと、彼女の半回転させ真正面から向き合う。


「シ、シラサキさん!? は、犯罪ですよこれは!」


 顔を真っ赤にしたリリスは俺に向けてそう叫ぶ。

 先程までの無表情など嘘のように、今の彼女は人間味に溢れていた。

 この方が間違いなく可愛いと断言できる。

 いやだから俺はロリコンじゃない。

 ていうかそんなことはどうでもいい。


「リリス」


「は、はい!?」


 動揺が未だ収まらないのか、リリスは目を丸くしながら俺の呼びかけに返答する。

 そんな彼女に俺は疑問に思ったところを訊く。


「お前さっき、先日召喚した勇者って言わなかったか?」


「……え?」


 そう、リリスは間違いなくその単語を口にした。

 そもそも俺はその部分を疑問に思ったため彼女を呼び止めたのだ。


 この世界に召喚されたのは俺と逢ヶ瀬二人だけだと思っていた。しかしそれ以外にもう一人いるというのなら、彼女に尋ねたい事柄が増加する。


 そう思い投げかけた質問に、リリスは呆気なく頷いた。


「はい、言いました。今から半年前にも、私は勇者をこの世界に召喚したんです」


「……なら、何で俺達を呼び出したんだ?」


 世界を救う勇者は既に存在している。

 だとしたら俺達を召喚する理由はなくなるように思う。


「お伝えした通り、この世界を救ってもらうためにです」


 リリスはそこで俺の質問の意味に気づいたのだろう。続けて詳しい事情を教えてくれる。


「魔王軍の存在が確認されたのは百年以上前からで、本格的な侵攻が始まったのは十年と少し前からです。そしてとうとう半年と少し前、我が国の国境沿いの砦に魔王軍が現れ、敵軍を食い止めようとした騎士団の精鋭を撃退されました。そこで私達は初めて異世界からの勇者召喚を試みたのです。


 協力を受け入れてくれた勇者の力もあり、王都にまで攻め入ってきた魔王軍の撃退には成功します。国内における脅威を退けたことを確認すると、その侵攻から二ヶ月の期間を開けその勇者は騎士団の精鋭と共にこの国を旅立ちました。同盟国や従属国に訪れる魔王軍の脅威を――ひいては世界を救うために、です」


 リリスはそこまでの説明を一気に言い終えると、息が切れたのかゆっくりと深呼吸する。俺は彼女に対し無言で続きを促せた。


「予定では勇者が率いる騎士団の遠征は一月後まで。その頃には我が国の精鋭達は帰還します。しかしその予定日よりも早く、再びこの国に脅威が訪れたんです」


「魔王軍が、攻めてきたのか?」


「はい。それも皮肉なことに、前回と同じ国境沿いの砦からです。前回の侵攻から危険性が指摘され、砦を建て直した今では前よりも数倍の兵士を滞在させていました。そのおかげで十日という日にちが経ってなお、何とか魔王軍を食い止めることには成功しています。ですが、それも時間の問題なのです。騎士団が戻るまで耐えきることは不可能、であるならば別の場所から援軍を呼ぶしかありません。そこで私達たちは……」


「もう一度、勇者を呼び出したって訳か」


「はい、そういうことになります」


 なるほど、想像以上に切羽詰まった状況らしい。

 王都に滞在している戦力全てを一ヵ所に向ける訳にもいかない。だからこその勇者召喚という訳だ。


「あの、シラサキさん……そのことに関して、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「ん? なんだ?」


 一人納得している俺だったが、何故かリリスは訝しげな表情のまま俺にそう告げた。彼女が知らなくて俺が知っている何かがあると考えたのだろうか。


「先程申した通り、私は魔王軍の侵攻に対して、再度の勇者召喚を行おうとしました」


「ああ、それは聞いたけど」


「はい。ですが私が言いたいのは勇者を召喚しようという事実ではありません……私は前回と同様、“一人”の勇者を異世界から呼び出そうとしたのです」


「……ひとり?」


「そうです。私の力は異世界に干渉できる強力なものですが、それでも一度に発動できる魔術陣の規模には限度があります。ですから私は今回も一人だけを呼ぶつもりでした……しかし異世界から祝福の力を持った者を見つけ、いざ実行しようとしたとき、何故か干渉できる範囲内にいたのは一人ではなく“二人”だったんです」


 一度言葉を区切ると、「だけど」と言ってリリスは続ける。


「本来ならそれでも、たまたま魔術陣の範囲内にいた無関係な人物を巻き込まないよう召喚されるのは予定していた一名だけです。しかし今回に限っては何故かその二人共が召喚がされました。つまりこれは私が自分の祝福を制御出来なかったということなんです。


 となると何らかのイレギュラーが働いたと考えるのが自然。ですが此方ではそのようなことは何も起きなかった。ですから貴方が呼び出されることになった瞬間の様子を……せめてシラサキさんとアイガセさんのどちらを中心に魔術陣が現れたかだけでも、私に教えていただけないでしょうか?」


「…………」


 真剣な目で俺を見つめるリリスに対し、俺は思わず息を詰まらせた。


 やべぇ。

 全然覚えてねぇ。

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