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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第二章 -壊す願いと創造者-
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第三十話 中途半端で空虚な願望

 水色の勇者と、金色の王女の二人が荒れ地の中心にいた。

 向かい合い、お互いに怪我がないかなどを確かめる。


 その確認が終わった後、リリスはソラの後ろにある“それ”に視線を向ける。


「ソラさん……彼は」


 それは、四肢が消滅したアトロスの死体だった。

 うつ伏せの状態で地に転がっている。


「見ない方がいい」


 遅れて、ソラは急いでリリスの両目を手で覆った。

 残酷な光景、十二歳の少女が見るには刺激が強すぎる。


「だ、大丈夫です」


 しかし、リリスはその手を掴みよけると、もう一度アトロスの死体を見る。

 それを見て吐き気を催すような素振りは見せないが、何故わざわざ必要のないものを見ようと思うのか。

 その理由だけは、ソラには分からなかった。


 と、そんなことを考えている余裕はない。

 ソラは、修を置いてここまでやってきた。

 敵を倒し次第追ってくると明言していた修がまだ来ていないのは、つまりそういう訳だ。


 今もまだ、戦っているのだろう。

 仕方ない、助けに行かなければ。


「リリ――――」


「――――え?」


 そんなときだった。

 アトロスを見ていたはずのリリスが、驚愕の声を漏らすのは。

 リリスは大きく目を見開き後ずさっていた。


 彼女が何を見て、そんな反応を見せたのか。

 ソラはその理由を、目ではなく身体全体で感じ取る。


「これ、は……」


 身震いが止まらない。

 圧倒的な濃度の魔力が、背後から立ち上る、

 悪意と殺意の入り混じった禍々しい何かが、そこにはある。


 その正体を確かめるべく、ソラは振り返る。

 そしてそれを見た。


 濁った灰色の長髪は空を靡く。

 闇を閉じ込めた漆黒のコートは地に垂れる。

 両の足はしかと地面を踏み締め、その体躯を支える。

 そこには傷一つ、血の跡一つ存在しない。


 これまでの戦闘が偽りであったかのように、出会った時の姿のままのアトロスが、そこにいた。


(再生……? いや、これは)


 ソラは瞬時に思考を加速させる。

 胸を穿ち命を奪い、四肢も破損させたはず。

 なのに今、こうして五体満足のアトロスがそこにいる。

 何らかの手段で再生したのだとしても、破けたコートが元通りに、血の跡まで消えていることに対する理由にはならない。


 ――――いや、そんなことよりも。


 ソラは目を細め、アトロスの身体を射抜く。

 蘇った理由はともかく、それより重要なことがあった。

 アトロスの纏う魔力……いや、もっと大まかに、雰囲気に至るまで。

 何もかもが、先程までとは一線を画していた。


「……このタイミングで、“これ”を使いたくはなかったのだがな」


 不意に、視線を足元に向けたままのアトロスが言を零す。

 ただそれだけで、ソラの背筋に激しい悪寒が走った。

 これは、まずい。


「まあ、仕方あるまい。敵を侮った俺に対する天罰だ、甘んじて受け入れよう」


 自分の中で、何らかの結論に至ったのだろうか。

 アトロスはそう言うと、ソラにその冷たい目を向ける。


「悪いが、ここからは本気でいかせてもらう」


 灰色の濃霧が発現し、アトロスの身体を纏う。

 それは、先程まで繰り広げられていた戦闘でも目にした光景。

 だけど、どこかが違っていた。

 何が違うかまでは、今のソラでは計り知れないけれど。


 とにもかくにも。

 まだ、戦いは終わっていないのだ。


「リリス、下がって」


「えっ、ですが」


「早く」


「……はい、分かりました」


 ソラの言葉に納得のいってないような素振りを見せたリリスも、ソラの緊迫した声に促されるように、後方へ下がっていく。

 それでいい。少女を一人守りながら、あの化け物を相手にするのはふかの――――


「――――は?」


 そして、ソラの思考は突如として寸断されることになる。

 そう、いつの間にかソラの腹部には拳が減り込んでいた。

 一瞬でソラの目の前にまで移動してみせた、灰色の男によって放たれた拳が。


「ぐぎゅ、ごっ……!」


 言葉にならない嗚咽と共に、ソラの身体は大地に沿う様に猛烈な勢いで吹き飛ばされていく。

 早く対処を。体勢を整え直して、反撃をしなければ。


「なっ」


 前を見ると、既にどこにもアトロスの姿はなかった。

 百メートル先に、ポツンとリリスが一人立ち尽くすのみ――――


「のろいぞ」


「が、はっ!」


 瞬間、何故か背後に激しい衝撃が襲来する。

 背骨が粉砕され、ソラの口から血反吐が噴き出した。

 そのまま地面に叩き付けられ、胸骨が圧迫される。


 大地を揺らす馬鹿げた振動音と共に、ソラが叩き付けられた地面は周囲二十メートルに至るまで陥没する。何が起きているのか、頭で理解することは出来ない。


 分かるのはただ一つ。

 このまま這い蹲っていてはいけないということだけ。


「滅べ」


 消滅の力が迫る。

 灰色の濃霧が、無防備なソラの背部に迫る。

 が――


「――ほう」


 純粋な魔力の放射による推進力で、前方に飛び避難したソラの鼓膜が捉えたのは、アトロスの感心したかのような声だった。

 十分に距離を取ったと確信し振り向くと、そこには最深部が見えないほどの大穴が発生していた。

 その大穴の中心に、どういうことかアトロスは浮いていた。

 身体の負傷を治すソラに対し追撃もせず、僅かに口角をあげながら言葉を零す。


「まさか今のを躱すとはな。反射速度といい、対応手段の選択の正確性といい、個人的な力量も十分というわけか。それに加え、創造などという強力な祝福。なるほど、たしかに勇者と呼ばれるに相応しい実力だ」


 そう言いながら、アトロスは灰色の濃霧を灯した自身の右手を眺める。

 その行為にどのような意味があるのかは分からないが、その間にソラは先程の攻防を分析していた。

 

 アトロスは、気づいた時にはソラの目の前にいて拳を振るった。

 全く目で捉えることは出来なかった。

 続く、猛烈な勢いで飛ばされたソラの背後に回り込み攻撃してきたことについてもそう。

 動きが速すぎる。


 思い出す。

 今ではなく、王城での戦闘。

 確かあの時も、アトロスがリリスを連れ去る際に同様のことが起きたような覚えがある。


「ふー」


 その原理は分からない。

 けれど、分からないなら分からないなりに戦うしかない。


「【創造】」


 まず、アトロスの魔法を模倣し、ソラは灰色の濃霧を纏う。

 アトロスの異常な動きが魔法によるものならば、これでいくらかは防御できるはず。


 準備は出来た。

 アトロスはまだ追撃してこない。

 ならば、自分から仕掛けるッ!


 地を蹴り、空を蹴り、加速加速加速。

 消滅の力を纏い、ソラはアトロスに接近し――――



「無駄だ」



 今度は、右から横腹を殴られた。


「……っ!」


 また、見えなかった。

 気付いた時には、アトロスに殴られていた。

 濃霧の鎧は容易く貫かれ、衝撃がソラの身体の芯に響く。

 だが、諦めるにはまだ早い。


「ハアッ!」


 油断していた先刻とは違い、今回は最大限の身体強化を施していた。

 ダメージがないわけではないが、一撃やそこらでやられる程ではない。

 右腕を薙ぎ払い、アトロスの顔面を叩き割るッ!


零隔れいかく


「……え?」


 そして、その腕は虚空を断ち切った。

 既にそこに、アトロスはいなかった。


「喰らえ」


「っ!?」


 そしてまたもや、いつの間にか背後にいたアトロスによる殴打が背を襲撃する。

 血反吐こそ吐かなかったものの、相当なダメージを負い体勢は崩された。


「なるほど、やはり目に見えんものまでは模倣できんか」


 その光景を見て、ソラの力を見切ったかのような発言をするアトロス。

 その言葉が何を指し示すのか、ソラには理解できない。

 ただ、その言葉が二人の戦いにおける最後の皮切りとなった。


 前方後方右方左方上方。

 縦横無尽にアトロスは駆け巡り、たった一撃で山を崩す殴打を、一分の休符もなくソラの身体に叩き込んでいく。

 眼で追うことも出来ず、濃霧の鎧は容易く穿たれ、ただ為す術もなく蹂躙されていく。


 身体強化と灰色の濃霧だけでは対応できない。

 そう思い咄嗟に創造した武具ですら、アトロスの身体に掠ることなく空を切り裂くのみ。

 ソラの思いつく限りの全てを、アトロスは真っ向から叩き潰す。


 そしてとうとう、何千発目になるか分からない殴打がソラの鳩尾に減り込み、錐揉み状に吹き飛ばしていった。


 ボロボロになったソラの身体が、何度も執拗に地面に叩き付けられ跳ね上がる。

 六度目の落下の際に、ようやく地面を数メートル滑ると彼女の身体は止まった。



 ◆



 空中でソラに最後の一撃を浴びせたアトロス。

 ゆっくりと降下しながら、彼は仰向けになったソラの姿を見ていた。


「…………はあっ、はあっ」


 息も絶え絶えに、ソラはなんとか立ち上がろうとしていた。

 しかし、地面を掴む手が身体を支えることは出来ず、何度も力が抜け地面に倒れるのみ。

 それも当然。意識があることが――死んでいないことが、奇跡だと思えるほどの攻撃を浴びたのだ。


 そんなソラから十メートル程離れた場所に、アトロスはゆっくりと着地する。


「無駄だ、諦めろ。生半可な攻撃で身体を破壊したところで、再生されるのは理解している。故に、内部の魔力に至るまでを“消滅”させた。もう、貴様には立ち上がる余力すら残っていないはずだ。貴様の負けだ」


「ま、け?」


「そうだ、貴様の負けだ。だが悲観することはない。貴様は俺が想像していた以上の実力で、俺の全力を引き出した。更に言うなら、俺は戦う力を持たない貴様に興味はない。これより行われる戦闘の間、ただそこで這い蹲っていろ。それで、命だけは助けてや」



「――――――いやだ」



「……なに?」


 思わず、アトロスは素で驚きの声を漏らした。

 ソラの心から漏れたかのような、強い意志を秘めた否定の言葉に。

 そして、アトロスの目の前で繰り広げられる光景に。


 意識がある理由が分からないほど傷だらけなソラの身体が、ゆっくりと起き上がっていく。

 傷を癒したわけではない。ボロボロな状態のまま、苦痛に満ちた表情で。


「私は、変えるんだ。だって、このままじゃ、また……」


「貴様、何を言って……」


 ソラの発言の真意が、アトロスには分からなかった。

 ただ、目の前にいる少女を見過ごすわけにはいかないと直感した。


 消滅の力を、手に宿す。


「悪いが、見逃すのはやめだ」


 そのまま、それをソラに向ける。

 抗う術を持たない少女に、ここにきて最大級の威力を込めた一撃を。


「――――トドメだ」


 アトロスは、放った。



「……わた、しは」


 そして、ソラは。

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