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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第二章 -壊す願いと創造者-
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第二十六話 涙を流した魔法使い

「私は――――世界を守りたいとか、べつにそんなこと思ってない」


「…………」


 ソラは視線を逸らし地面に向ける。

 自嘲気味な笑みを浮かべながら、話を続ける。


「私は呼ばれた。助けてって言われた。必要なことだって分かった。だから戦うの」


「それは断ることも出来たんじゃないか?」


「ううん、できない。そんなこと、できるわけない」


「どうして……」


「それが、私に与えられた役目だから」


 要領を得ない主張。

 俺は素直に、そうかと頷くことは出来なかった。

 

「役目って、ラルクやリリスに頼まれたことか? だからお前は戦うっていうのか?」


「違う、そうじゃない」


「……なら、なんで」


 ソラは何に対して義務感を抱いているのだろう。

 ここまでの会話から、彼女に戦う理由があるように思えなかった。


 ……それとも、ソラもまた逢ヶ瀬と同じように、特別な力を持つ者の責任だとでも考えているのだろうか。


 そんな俺の予想は、次の瞬間に否定されることになる。


「想いに応えるには、そうするしかないから」


「……想い」


「そう、そしてそれこそが、全てを失くした私に唯一残された繋がりだから」


 唯一残された繋がり。

 その言葉を聞いた瞬間、俺は不意にリリスの言葉を思い出した。



『そ、そうなんですか? ですが一人目の勇者は泣きながら何度も頷いてましたよ『うん、ここは異世界だ』って』

『はい。というか召喚された瞬間から泣いてました』

『私もそう思い尋ねたのですが、『そんな存在はいない』とも仰られていましたよ』



 この世界に召喚された日、俺は既にリリスからソラに関する話を聞いていた。

 大切な存在はいないと断言したソラの話。

 彼女はその日、涙を流していたらしい。


 どうして今、俺はそのことを思い出したのだろうか。

 残された繋がりはたった一つだと、大切な存在はいないと断言した少女。

 その二つの事象が、俺の思考の中で絡み合う。


 そんなふうに考えている間にも、ソラは言葉を紡ぐ。


「私が戦うのは、私の役目を果たすため。それ以外に選択肢がないから。だから、どうしてこの世界を守りたいのかと訊かれても、私には答えることはできない。だって、分からないから。私がこの世界に対してどう思ってるかなんて、考えたこともないから」


 ソラは悲しげな表情のまま、彼女の想いを語っていく。

 俺は、ただ茫然とその姿を眺めるしかできない。

 言うべき言葉が見つからなかった。


 そして、ソラは最後に言った。


「私だって、本当は――――」



 ◇



 歩く、歩く、歩く。

 道無き森を分け入って、歩いていく。

 高い木々が生えているため視界も不鮮明。

 赤茶色の土にも足を取られそうになる。

 それでも、一歩一歩進んでいく。


「…………」


「…………」


 緊張感に満ちた沈黙。

 俺とソラはお互いに言葉を投げかけることもなく、前にいるリーベの背中だけを見て進んでいく。


 あの後。

 ソラと幾つかの言葉を交わした後、俺達は合流したリーベと共に村を発った。

 村の出口にある関門からではなく、村を大きく回り込むようにして。

 今揃っている面子が面子だし、俺達がルミナリア王国に協力している人間だと信じてもらうには時間がかかると考えたからだ。


 村を出てから数分は、再び空を蹴り高速度で駆けた。

 しかしある地点でリーベに制止され、ここからは歩くようにと指示されたため、地面に降りた。

 どうやら、アトロスがいるはずの場所はすぐ近くらしい。


「なあ、リーベ」


 そこで、俺はすぐ前にいるリーベの名を呼ぶ。


「何かしら?」


 振り返る彼女に俺は尋ねる。


「お前があまりにも自信満々だったから詳しくは聞かなかったけど、そもそも本当にアイツの居場所知ってるのか? 黒塗りの場所だって相当な広さだったしさ」


 リーベが地図上で指し示した黒塗りの部分。

 曰く、かつてのクルトリアード公国の跡地。

 スアレル王国よりも面積は格段に大きい。

 既に俺達はその中に入っている。


 その中で、リーベがどうして真っ直ぐ迷わず突き進むことが出来るのか。

 奴らと遭遇する前に確認しておきたいと思った。


「ええ、もちろんよ」


 そして、やはりリーベは自信ありげな表情で頷いた。


「そう断定できる理由は?」


「そんなの決まっているでしょう。彼が過去の後悔の置き場にしているのが、今から向かう場所だからよ」


「過去の後悔?」


「ええ」


 言い切ると、リーベは前を向き力強く進み始める。

 これ以上を話すつもりはないと言いたげに。

 ……なんとなく、誤魔化されたようだ。

 脅したら言ってくれないかな。

 べつに実行には移さないけど。


「…………」


 ……過去の後悔の置き場、か。


 脳裏に過るのは、灰色の男。

 俺と奴とは過去に一切の関わり合いはなく、別段興味もない。

 リリスを連れ去られたことに対する負の感情はあるが、だからといって――



『――――貴様が、敵か』



 ――俺が奴に、あの冷たい眼を向けられる理由があるのだろうか。


「ふー」


 落ち着こう、余計なことを考えている余裕はない。

 身体強化で五感は強くなっているが、俺は決して感知能力が高いわけじゃない。

 気を引き締めていかないと、隙を突かれる可能性がある。


 ソラの動きがぴたりと止まったのは、そう思った瞬間だった。


「くる」


 何を? と尋ねる間もない。

 “それ”は瞬く間に俺達に降り注いだ。


 透明の刃。

 先刻、堅固な王城を真っ二つにした一撃。

 純然たる魔法の刃。

 その斬撃の数は、優に五十を超えていた。


「――――ッ!」


 樹齢百年を超える大木を、その刃は次々と切り落としていく。

 縦、横、斜め、まさしく縦横無尽に閃撃が駆け巡る。

 まともに喰らえば、身体強化をしてもなおダメージを与えてくる一撃だとは理解している。


 故に、俺は神経を張り詰め、魔力の流れを読み回避に専念した。


 空を切り裂き、大地を割り、瞬く間に周囲一帯が“切断”されていく。

 紙一重のタイミングで躱す、躱す、躱す。


 そして、ようやくその脅威に終わりがくる。


「ふー」


 全ての斬撃が通り過ぎたこの場は、まさしく惨状だった。

 不鮮明だった視界は、木々が切り落とされたことによって晴れ、眩しい陽光が降り注ぐ。

 斬撃の影響は地面においても例外ではない。

 地中の奥深くまで切り刻まれた痕がある。

 その上に大木だった破片が、無造作に転がっていた。


 静かに辺りを見渡す。

 いち早く危険を察したソラは、リーベの身体を掴みながら回避していたらしく、両名共に無事のようだった。


「大丈夫か?」


「うん」


「死ぬかと思ったわ」


 軽く頷くソラ。

 リーベは笑みを浮かべながらも、表情には焦燥が張り付いていた。

 さすがにリーベでは、あの速度に対応できないか。


「シュウ、前」


「ああ――分かってる」


 ソラに促され、前方数百メートル先に視線を送る。

 そこには、これまで気配がなかったはずの人間たちがいた。

 その数は少なく見積もっても優に百を超えていた。


「アイツらが敵か」


「そうよ。彼らはスパーダの直属の配下。魔王軍に所属していても、崇拝しているのは魔王様ではなくスパーダだという、クズみたいな奴らよ」


「……そうか」


 私情が入ってそうなリーベの言を聞きながら、強化された目でそいつらを観察する。


 人数は二百人弱。ほとんどが鎧を身に着けているが、非常に軽装の者もいる。

 武器を持つ者もいれば、素手の者もいる。魔術師も多く含まれているみたいだ。

 そして何より、一人一人が烏合の衆とは思えないほどの力量を感じさせた。


 平均的には第二級災害指定妖魔相当。

 が、複数名、第一級災害指定妖魔に相当する者が紛れている。

 王国騎士団の団長に匹敵しそうな実力者が揃っていた。


 そして、何より。

 その集団の戦闘にいる、濁った金髪の男。

 身の丈を優に超える大剣を持つ男は、強い。

 間違いなくリーベを超える実力者。



 ――――魔法使いだ。



 この距離で、目が合った。


「躱すたぁ、やるじゃねえか」


 強化された聴覚が、彼の言葉を捉える。

 口調とは違い落ち着きのある声だった。

 ニヤリと笑いながら、集団と共に歩行を開始する。


 ……奴の剣が斬撃を飛ばせるというのなら、わざわざ接近する必要はないはず。

 なのに何故近づいてくるのか。

 疑問に思いながらも、俺はソラと目配せし、距離を詰めることを選んだ。

 ソラはともかく、俺は接近戦の方が得意だからその方が都合がいい。


「言わずとも分かっていると思うけれど、彼がスパーダよ」


「ああ」


 リーベの説明を聞きながら進む。

 そして、両者の距離は五十メートルにまで迫る。

 自然と皆の足は止まった。


「三人、か。アトロスの野郎からは聞いてた人数とちと違うな……まさかてめぇが来るとはなぁ、リーベよぉ」


「あら、そんなに不思議かしら?」


「ああ、てめぇなら、協力するにしたって情報を渡しておしまいだろう。てめぇは弱いが、その分自分の実力を把握している……オレ達を相手にしたら殺されるだけだって分かってるはずなんだがなぁ」


「思ったより私のことを評価してくれているようね……まあ、貴方にどう思われようが興味はないのだけれど。そもそも、今回私は戦う気はないわ。彼らがいるもの」


 そう言って、リーベは俺とソラを見た。

 入れ替わるように、俺達は前に出る。


「アトロスはどこだ」


 開口一番、俺はそう言った。

 これ以上茶番に付き合うつもりはなかった。


「……この面子を前にして、言うことがそれたぁな。さすがは勇者様、舐められたもんだな」


 茶色の目を細め、憤慨したようにスパーダは零す。

 素直に答えてくれる様子ではなさそうだ。

 尤も、どうしても答えて欲しいわけではなかったが。


 振り向くと、今の質問の答えを持っている奴がいた。


「リーベ、アトロスのいるところはもう少しなんだよな?」


「ええ、あと十キロほど進んだ先にいるはずよ。スパーダたちがこの場にいるのが、何よりの証拠でしょう」


「……そうだな」


 頷き、もう一度スパーダたちの戦力を分析する。

 ……仕方ない。


「ソラ、先に行け」


「……え?」


 俺の言葉に、ソラは驚いたように目を見開いた。

 こんなにも彼女の表情が崩れるのは珍しい。


「二人がかりでコイツ等を相手にするのは時間の無駄だ。どいつもこいつもリリスは無事だって根拠もなく言ってるけど、助けるなら少しでも早い方がいい……だから、お前だけでも先に行け」


 ソラの実力なら、アトロスにも対抗できるはずだ。

 それに感知能力もソラの方が高いみたいだし、奴の詳しい場所も分かるだろう。

 だからこそ俺はそう提案した。


 暫し動揺したような表情を見せた後、ソラは意を決したように頷いた。


「……分かった」


「頼む、すぐ追いつく」


 言い残し、ソラは強く地を蹴る。

 目の前の集団を避け回り込むように。

 邪魔するようなら、虚無で援護しよう――


 そう思っていたのだが、何故かスパーダたちは誰一人としてソラを止めようとはしなかった。

 呆気なく見逃した。


「何のつもりだ?」


 その行為に対する疑問をぶつける。

 わざわざ見逃す理由があるというのか。


「いやぁな、元からアトロスの奴からは、一人だけは通してもいいって言われてたんだよ……まさかあっちの嬢ちゃんが行くとは思ってなかったけどなぁ」


「……は?」


 一人だけは通してもいい。

 何故、アトロスはそう言ったのだろう。


 まさか、奴は一対一でこそ真価を発揮するとでもいうのか?

 それとも、純粋に二人以上を相手にするのが難しいと考えたのだろうか。

 ……いくら推測を重ねたところで答えは出ない。

 コイツらを倒して、ソラの後を追うことにしよう。

 原点回帰だ。


「はっ、まぁそんなこたぁいいさ、そろそろ戦おうぜ! ――やるぞ、テメェら!」


 スパーダの掛け声に、後ろに控えていた者達が大音量で応える。

 大気を震わせ、その振動が俺の身体を叩く。


 元の世界では、序列二桁に入れる程の実力を持つ者が百名。

 残りの百名も、それに準ずる実力を持っている。

 そして――“剣”にまつわる魔法使いが、一人。


「よし――いくぞ」


 かつてない規模の戦闘を前に、俺は黒の焔を纏った。

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