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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第二章 -壊す願いと創造者-
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第二十三話 救出への活路

「……リーベ?」


 突如として現れた紅髪の女性に、俺は眉を顰めながらも彼女の名を呟いた。

 どうして彼女がここにいるのだろうか。

 両手には魔道具が付けられたままだし。


「ええ、数日ぶりね、勇者さん。そんなに情熱的な視線を向けられると、照れてしまうのだけれど」


「爆ぜろ。で、なんでお前がここに……いや、それは後でいい。早く奴を追わないとリリスが――」


「私なら彼女がどこにいるか分かる。そう言ったとしても、貴方は同じことを思うのかしら?」


「――は?」


 いま、こいつはなんて言った?

 なんでこいつがリリスのいる場所を知っているんだ。


「落ち着け、シラサキ」


 その疑問を口に出そうとした瞬間、左から俺の名前を呼ぶ声がする。

 顔をそちらに向けると、そこには脇腹を手で押さえながら、ゆっくりと歩いてくるラルクがいた。

 自分の娘が連れ去られたというのに、彼も他の人と同じく冷静なままだった。

 ふと、ラルクの目が俺ではなくレイの方を向く。


「彼の言う通りだ……リリスは、無事のはずだ」


 そして彼も、レイと同じことを言った。


「…………」


 何故、こいつらはそう断言できるのだろう。

 リリスに危害を与えない理由を考えてみる。

 真っ先に思いつくのは人質か。

 リリスを人質にすることで、何か大きなことを要求するつもりなのかもしれない。


 だけど、思い直す。

 リリスの持つ祝福は、異世界から人間を召喚するほどに強力なものだ。

 人質としての価値もあるだろうが、それ以前に殺してしまおうと考えるのが自然な気がする。

 ……いや、そう思うのは早計か。

 彼女を生かしたままにしておく理由。

 その可能性は、他に存在するのだろうか――――

  

「あら、何かしら、兵士さん。無力な貴方達が私をどうするつもりなのかしら?」


「……ん?」


 リーベの呆れたような声を聞き、俺はふと視線をあげた。

 そこには、各国の騎士から槍を向けられるリーベの姿があった。

 この一瞬で何があった。


「魔王軍幹部リーベ、貴様は地下で囚われていたはずだ! いったい誰の許可を得てここに! ――――え?」


 リーベを囲む中の、エルトリア帝国の騎士の一人が声をあげる。

 しかし、急にその言葉は途切れる。

 いつの間にかリーベの横には一人の男がいた。

 白い髪に金色の眼を持つ、精悍な顔つき。

 白と金の豪奢なマントに身を包む、貫禄のある五十台程度の男。

 それはエルトリア帝国の皇帝、フリードだった。


「此奴をここに呼んだのは我等だ」


「――――ッ、申し訳ありません!」


 フリードの言葉を聞き、純白の鎧を纏う者達は膝を床につけ頭を下げる。

 どうやら、彼らは意識せず自らの主の行為を否定してしまったようだ。


「許す。否、元よりこの度の件は我等のみで共有していた情報だ。其方達は初めから何も知らず、故に現在の対応は間違っていない。顔を上げ立ち上がり、後ろへ控えよ」


「はっ!」


 フリードの言葉に力強く返事をした騎士達は、指示通り立ち上がると半分になった部屋の端にまで下がっていった。フリードはそれを見て力強く頷いたあと、視線をラルクの方へ向ける。


「状況が状況、仕方なかろう。先刻の条件通り、此奴の言を聞くとする」


「……ああ、だからこそ、わざわざ彼女をここまで連れてきたのだからな」


 二人は視線を交わしながら、お互いにしか通じない内容を言い合う。

 何の話をしているのか、蚊帳の外にいる俺達には分からない。

 ……いや、アドルフ国王とレイの二人だけは、心当たりのあるような表情を浮かべていた。


「なんなんだ、結局」


 そんな光景を見て、我慢の限界に達しかけていた俺は吐き捨てるようにそう呟く。


「初めから、そういった条件だったのよ」


 誰に尋ねるでもない言葉に応えたのは、すぐ近くにいるリーベだった。


「条件?」


「ええ。今回のような重大な式典に、わざわざ私のような存在を連れてくる理由について、貴方も少しは疑問に思っていたはずよ……違うかしら?」


「……まあ、多少は」


「その答えが、今のこの状況よ。元々、今回の一件を魔王軍の誰かが妨害してくる可能性は高かったのよ。その際に私が知っている情報を教える代わりに、今後ある程度の自由を約束してもらう。そういうことなのだけれど、理解は出来たかしら?」


「ああ」


 リリスから聞いた話とは随分違うが、そういった事情があったのか。

 リリスは、その本当の理由を知っていたのだろうか。


 簡単にラルクに問いかけてみると、リリスには本当の理由を話していなかったらしい。

 ということは、リリスは俺に説明したことをそのまま信じていたことになるのか。


「すまない、シラサキ。結果的に魔王軍の襲撃がなかったのならば、この話はなかったことになるはずだったのだ。リーベの自由を約束する……むろん監視下には置くが、それでも他の者達がそう聞けば反対意見の方が多く出るだろう。故に、必要になるときまでは伏せておくべき情報だったのだ」


 ラルクは小さく頭を下げながら、俺に向け謝罪する。

 別に俺は、情報を隠されていたことを怒っているわけじゃないんだが。


「そういった込み入った事情はどうでもいい。結局のところ、そうまでしてでもコイツを連れてきたってことは……それだけ、コイツの持っている情報が重要だってことなんだな」


「ああ、そういうことになる」


「そうか」


 そこまでを聞き、俺は再度リーベに向き直る。


「で、お前が知っている情報ってのは何なんだ? それは、リリスを救出するために必要なものなんだろうな」


「ええ、もちろん。そもそも私がいなければ、貴方達は彼女の下にすら辿り着けないでしょう? それと、襲撃してきた彼らに関する情報も、少しは持っていた方がいいんではなくて?」


「……そうだな」


 アトロス、奴は強かった。

 リリスを救出する際には、まず奴と戦うことになるだろう。

 そうなると厄介なことになる。

 あれほどの実力者を、リリスを守りつつ倒せるとは思えない。

 ……たしかに、情報は必要だ。


「けど、それを俺達に教えていいのか? お前からしたら、魔王軍を裏切る形になるんじゃ」


「構わないわ。私の知っている情報を貴方達に伝えたところで、魔王様から見ればほんの僅かな痛手にもならないもの。それにそもそも、私は彼を……アトロスのことは嫌いだし、進んで協力させてもらうわ」


「あ、そう」


 聞き流すように、俺は頷いた。




 そして、俺達はいつ崩れてもおかしくない王城から、庭園にまで移動した。

 色鮮やかな花々が咲き乱れる中に、俺、逢ヶ瀬、ソラ、レイ、ラルク、フリード、アドルフ、そしてリーベがいた。

 騎士達は少し離れた場所に控えている。


 そして、先の襲撃について、リーベは知っている内容を話し始めた。


 ――――魔王軍最強の幹部、アトロス。


 あの灰髪の男には、そう言った通り名が付けられているらしい。

 そして彼は、名実ともにその力を証明し続けた。


 魔王軍の動きが活発になり始めた二十年前ほどに、アトロスは初めて姿を現した。

 同時に、大国に呼ばれるに値する国家を、あっという間に滅ぼした。

 国王を含めた、有力な貴族達を皆殺しにすることで。


 それから、アトロスは度々と姿を現すことになる。

 現れる度に、彼はありとあらゆる国家を壊し、人々を殺した。

 間接的に死んだ者を含めれば、数百万に至るらしい。

 総人口が一億人の世界で、数百万人を殺す。

 これがどれだけ異常なことなのかについては、説明するまでもないだろう。


 そしてその過程において、名のある実力者が何度もアトロスと戦うことになる。

 が、その全てをアトロスは真っ向から跳ね返した。

 誰一人として、アトロスを倒すことは叶わなかったのだ。


 非常に簡潔な、しかし濃密な戦歴の数々。

 アトロスに関するこの情報は、この世界にいる人々ならば誰でも知っているらしい。


 そんな彼の魔法の名は――【消滅】。

 ラルク達はこの情報を知らず、リーベだけが知っていた。

 名の通り、何かを消滅させる力なのは間違いない。

 しかし、その先にある可能性までは、リーベも聞き及んではいなかった。

 十分に注意する必要があるだろう。


 そしてもう一人、スパーダ。

 コイツのことはリーベ以外誰も知らなかった。

 曰く、普段は表舞台に出ることのない魔王軍幹部。

 【切断】の名を冠する魔法使い。


 先程の戦闘にも、その男は大きく関わっていたらしい。


「で、そいつがこの城を真っ二つにしたのか?」


「ええ、そうよ。魔法の名の通り、彼は自分の視界に届くものを全て切断することができるのよ。透明な魔力の刃に襲われたと言うのなら、きっと遠く離れた場所から斬撃を飛ばしたのでしょう」


「なるほど……けど、俺は無事だったぞ」


「それは、やはり貴方の祝福によるものではないかしら」


「まあ、そうか」


 そして、スパーダに関する話は終わる。

 無事は無事だが、俺の身体に傷をつけたのは事実。

 油断の出来る相手ではないだろう。


 アトロスとスパーダ。

 さらに、その配下には魔王軍の者達が何百人もいるらしい。

 それだけの大人数と戦う可能性もあるとのことだ。


 そして、ここまでの情報は前座だった。


「ここからが本題よ。貴方達が一番気になっているのは彼らの居場所でしょう? さて、それを教える前にこの手錠を外してくれないかしら」


 手錠とは、リーベの力を抑える魔道具のことだ。

 ラルクは俺やソラの方を向き頷く。

 外してもいいということだろう。


「私がやる」


 終始無言を貫いていたソラは一歩まえに進むと、その魔道具に触れる。

 すると、途端に呆気なく魔道具は外れた。

 外すための術式でも教えてもらっていたのだろうか。

 まあ、それについてはいい。


「それで、どうするつもりなんですか?」


 逢ヶ瀬の言葉に対し、リーベは口元をにやりと歪めると、胸元からピンポン玉くらいの小さな黒色の球を取り出した。


「私たち魔王軍に、指示系統はほとんど存在しないわ」


 すると、リーベは何故か逢ヶ瀬の質問と関係なさそうな話を始める。


「魔王軍に入る条件は、魔王様の掲げる意思に共鳴し、幾つかの禁忌を侵さないと誓うことだけ。普段は皆が自分の思うように活動しているの。魔王様から直属の命令が下る機会なんてほとんど存在せず、誰もが自分のために動いている。そんな烏合の衆が魔王軍という集団。

 けれど、それでも連絡が必要な時は少なからず存在する。そんなときのために、魔王軍幹部と、それに付随する一部のメンバーには、この魔道具が渡されるのよ――さっそく彼の魔力を辿るわ」


 リーベはそう言うと、目を瞑り集中力を高める。

 紅色の髪が浮かび、彼女の身体を同色の魔力が纏う。

 そして、その現象は起きる。


 黒色の球体から上空に魔力が溢れる。

 それは平面に広がると、直径二メートルほどの正方形となる。

 その正方形に、様々な色が現れる。


 ……いや、これは。

 色が現れると言うよりも。


「……映像?」


 逢ヶ瀬の呟きを聞き、俺も一人頷く。

 テレビの画面のような映像が、その正方形に映し出されていた。


 そして、そこには。


「――――アトロス」


 深い緑の木々の中、リリスを抱えたアトロスの姿があった。

 奴はゆっくりと、此方を向いた。

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