第十四話 分岐点
あれから三十分後。
対応は速やかに行われていった。
まず、フィス、フレクト、若者二人の両手を手錠型の魔道具で封じる。
次に治療を施し、この町の衛兵を呼んだ。
ちなみに治療も魔道具も両方ソラによるものだ。
治療はともかく、どうして魔道具まで持っているのかと尋ねれば。
『がんばった、えっへん』
と、胸(無い)を張って自信満々に答えた。
がんばったのなら納得せざるを得ない。
魔道具を入れる袋なども持っていなかったが、とにかく納得なのだ。
閑話休題。
兵士達がこれまでギルドの要請に応えなかったのは、犯罪歴のある者が多いギルドであるからだけではなかったらしい。
ここ最近、サンリアラと他の都市を結ぶ街道などで発生する大小様々な事件。
それらは魔王軍によって引き起こされているのではないかと予想されていた。
兵士達の人手はそちらに割かれ、町中の小さないざこざに対処していられなかったのだとか。
そんな折、衛兵達は今回の情報を聞き、すぐさまギルドに駆けつけた。
まさかフィスが魔王軍との繋がりがあるとは思ってもいなかったらしい。
詳しい尋問はこれから行うとして四人を連れて行った。
感謝の言葉と、報奨を与えるため後日、本部に来るようにと言い残し。
そんな訳で。
とりあえずは、万事解決となった。
「飲め飲めー! 今日は祝いだぁ!」
「フィスの野郎ったらざまあねぇぜ! あのフレクトとかいう奴が一撃でやられた瞬間の無様な表情ったらなぁ! ぐびっ。もう一杯だ!」
ギルド内は活気に満ちていた。
彼らの安寧を奪う存在が消えてくれたからだろう。
「ほらっ、兄ちゃんたち、受け取ってくれ!」
そろそろ別邸に戻ろうか。
そうソラと話し合っていると、グドラルは二つの金貨袋をそれぞれに差し伸べる。
くれるつもりなのだろう。
「別にそんなもん渡さなくていいぞ」
今回、彼らを助けた理由の半分以上は暇潰しかつ興味本位だ。
そもそもリリスからもらった金もある。
今から戻るのにこれ以上は必要ない。
「そう言わずに受け取ってくれ! せめてもの感謝だよ。どうせ後から、フィスやフレクトを捕まえた褒美も貰えるんだ。遠慮する必要なんてねぇよ」
彼の言葉に合わせ、向こうから男達が賛同の声をあげる。
まあ、そうだな、金はいくらあっても困らないか。
ソラに視線を送ると、彼女も小さく頷いた。
「じゃあ、もらっとくよ」
「私も」
俺とソラは金貨袋を受け取る。
「あ、あの……!」
今度こそ去ろうとした瞬間、一人の女性が飛び出してきた。
メリアだ。彼女は少しだけ興奮した表情のまま口を開く。
「助けていただき、本当にありがとうございました! ずっと怖くて……けど、あなた達に救われました。それに!」
彼女はそのまま勢いよく一歩を踏み出すと、柔らかい両手で右手を握り、紅潮した顔のまま上目遣いで言った。
「あの、その……彼から守ってくれた時のあなたの姿がとってもかっこよかったです! だからそのお礼をさせてもらえませんか――――」
その真摯な表情を見て、俺は。
「――――ソラさん!」
冷めた目で、目の前で繰り広げられる百合劇を眺めていた。
……普通、こういう時に彼女が飛びつくのは男、つまり俺ではないのだろうか。
しかし、思い返せばメリアが見ていたのはソラがフィス達を倒す場面だけだ。メリアには裏に控えていてもらったため、建物の外での俺の活躍など視界にすら入っていなかったのだろう。
いや、別に悲しくなんかないけどな。
なんて考えている間にも、場面は転換する。
「大丈夫。私は、当然のことをしただけ」
ソラはそう言い残すと、颯爽と身を翻す。
そのまま小さな歩幅で悠然と歩いていく。
少しかっこいい。
「ああ、ソラ様……」
恍惚の表情を浮かべるメリアを尻目に、俺も逃げるようにしてギルドから出ていくのだった。
「んじゃ、戻るか」
ギルドの外に出た後、ソラにそう投げかける。
しかし彼女は首を横に振った。
「少し寄りたいところがある。だから、一旦お別れ」
「ん? ああ、分かった」
何に興味を持ったのかは少しだけ気になったが、俺はそれを問わずに頷いた。
それを見た後ソラは駆け足気味に去っていく。
一人になってしまった。
まあいいや、俺も適当に散策しつつ城に戻ろう。
◇
帰る途中。
俺は一つの店を見つける。
アクセサリーなどを扱っているようだ。
俺は何気なく入店し、店内をうろつく。
女向けのペンダントや男向けのブレスレットなど商品は多岐にわたる。
カウンターのショーケースには値段が高めの物が揃えられる。
その中で、俺は二つの商品に目がいった。
一つは銀色の宝石のネックレス。
一つは蒼色の宝石が填め込まれた指輪。
高い、とは言っても常識の範囲。
商業都市の大通りに面した店なだけあって、財布と相談すれば手の出る程度の値段だ。
宝石もそこまで高価な物ではないのだろう。
ふと、俺は先ほど貰った金貨袋の中身を覗く。
そこにあった額は、ショーケースの中のアクセサリーの一つ分よりも少しだけ多いくらいだった。
それなりの額をくれたんだな。
「…………ふむ」
いつの日か考えたことを思い出す。
誰かから貰った金で、その誰かにプレゼントする。
その行為はださすぎるといった内容だ。
しかし今手にするこの金は、自分自身の手で入手したといってもよいだろう。
この金でプレゼントをしたとしても恥ずべき行為ではない。
だとするなら、俺はどちらを買うべきなのだろう。
この金額で買えるのは片方のみ。
ネックレスか、それとも指輪か。
何故か、脳裏に浮かぶ二人の姿があった。
そして。
「なあ、おっちゃん、これを――――」
思考すること数分。
俺は店主に呼びかけるのだった。
◇
翌日。
「そんなことがあったんですか……」
商業都市サンリアラを出発。
馬車の中で、俺はリリスに昨日の出来事に関して話していた。
此方の馬車には俺とリリス。
向こうには逢ヶ瀬、ソラ、リーベ。
向こうがどんな空気になっているのかは少し気になるが、スルーの方向でいこう。
リーベの力は封じられてるし、特に問題もないだろう。
「ということは、魔王軍を捕まえたのはシュウさん達だったんですね」
俺の話を聞いたリリスは、納得したように頷く。
昨日の出来事に関して既に聞いていたみたいな言い方だ。
「知っていたのか?」
「はい。この都市を治める領主宅にお邪魔している際に、魔王軍の者を捕らえたという伝令が届きましたから。同席していた私達も事情は聞かせて頂きました。確か、魔王軍幹部を名乗るフレクトという方でしたね……もっとも、実際は幹部ではなかったそうですが」
「は? あいつ、幹部じゃなかったのか?」
「はい、自分で名乗っていただけのようです」
どうしてわざわざそのようなことをしたのか。
そんな疑問を浮かべる俺に対し、リリスは詳細に説明してくれた。
魔王軍という存在について。
魔王軍。
所属する人間の数は約五千。
ジオ・ストラルダの総人口が約一億人程度らしいので、割合的には非常に小さい。
たったそれだけの数で、世界に恐怖を与えている。
これもまた魔法が強力であるからだろう。
魔王軍の頂点に立つのは当然だが魔王。
そして、その配下としてまず幹部が存在する。
残りのメンバーは、各々が崇拝する魔王や幹部に仕えるか、自分の信じる意思の元に活動。
詳しいことは分かっていないが、指示系統とかは案外テキトーらしい。
魔王が掲げる信念と志を同じくするものが集まった集団でしかないのだ。
中でもリリスが事細かに教えてくれたのは魔王軍幹部について。
魔王に認められた存在が、必ずしも幹部になれる訳ではないらしい。
幹部の数は十三と定められ、増減することはないからだ。
幹部が死んだ時のみ、別の誰かがその座を手にする。
十年以上、その幹部の座が代わることはなかった。
しかしその事情はここ数年で代わる。
“勇者”の登場だ。
その存在によって魔王軍幹部は討伐され、その空いた座を巡って魔王軍の一部が自分の存在を主張する。
先のフレクトによる名乗りは、そういった事情によるものらしい。
「………………」
“勇者”。
それは俺や逢ヶ瀬、ソラのことではない。
俺が倒したリーベも。
ソラが遠征で討伐した二人の魔王軍幹部も。
全員が生きたまま捕らえられているため、未だ幹部のままなのだ。
であるならば。
その“勇者”とは誰か。
リリスやラルクからではない。
どこかで俺は、その単語を聞いたことがある。
その答えを、リリスは告げる。
「エルトリア帝国の皇太子――――彼こそが五人の魔王軍幹部を討伐した、この世界の勇者です」
そして、俺は。
◇
煌びやかな装飾が施された一室。
謁見の間のように荘厳で格式高い空間。
天井より落ちる光が辺りを華やかに彩る。
そこに、彼はいた。
輝きを纏う白銀の髪。
強い意志が刻まれた金色の瞳。
その身を包むは穢れなき純白の鎧。
一振りの剣を腰に携えていた。
その青年は。
小さく微笑みながら、言った。
「初めまして。僕の名前はレイ・ジオ・エルトリア。この世界を救う勇者――――そして、英雄だ」
エルトリア帝国皇太子。
世界最強の祝福者。
レイ・ジオ・エルトリア。
俺はその日、その存在と出会った。
いや。
出会ってしまった。
・ソラのキャラ定着。
・修が王国以外から金を貰う。
・お買い物。
サンリアラ編の目的はこの三つでした。
無駄に長くなった。




