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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第一章 -二人の少女の歪な誓い-
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第二話 理不尽なのに自然な要求

 石造りの巨大な通路の先には、見上げるほど大きな両開きの扉が存在していた、外からでも中の荘厳さが想像できてしまう。


 扉の傍にいた衛兵とリリス達が数度言葉を交わすと、衛兵によってその扉は重々しい音を立てながら開かれていく。


「第一王女リリス様に勇者の皆様です!」


 兵士の声と共に、扉の中からは眩いほどの光が飛び込んでくる。


「……なるほど」


 想像を遥かに超える風景。

 いや、ここが本当に大国家の王城の一室、玉座の間であるというのなら納得せざるを得ない光景が広がっていた。


 赤い絨毯が敷き詰められた広大な空間。室内は煌びやかな装飾が施されていた。

 部屋の左右には鎧を纏った兵士や法衣を纏った者たちがいる。

 前方に視線を向けると段差の上に複数の貴族らしき者達と、玉座に座る一人の男がいた。


「む……二人、か。まあいい、よくぞ来てくれた」


 年齢は三十半ば程度か。深い茶色の髪を持つその男性は見るからに豪傑たる雰囲気を醸し出していた。少し気になるところは俺達二人の姿を見るや訝しげに目を細めたことくらいだろうか。

 

 リリスに連れられ中央まで進むと、彼女は歩みを止め跪き下を向く。

 それに倣うように逢ヶ瀬も続く。

 俺は続かない。

 

「貴様! 王の前でなんたる不敬か!」


 その様子を見た貴族の中から非難の声が上がる。

 ということはあれか、俺も真似して跪けというのだろうか。

 無理無理アンド無理。こっちは勝手に異世界に呼び出された被害者なんだけど。てか逢ヶ瀬が普通に従ってるのが俺からすれば異常だ。いや、確かにさっきそうするように頼まれたけどさ。


「構わん。此方の都合で呼び出したのだ。彼にとって私はいち人間でしかないのだからな」


「……へえ」


 しかし玉座に座る王様は俺に対する怒りを見せることなく冷静に対処する。

 自国のために無関係な人物を異世界から召喚するくらいだ。もっと身勝手な王様を想像していたがどうやら思い違いだったらしい。


 だとしても、俺が彼に抱く人物像がほんの少しだけプラスに転じただけだが。


「そちらの彼女とリリスもだ。面を上げてくれて構わん」


 リリスと逢ヶ瀬は静かに面を上げる。


「うむ、それでよい。

 私の名はラルク・ジオ・ルミナリア。このルミナリア王国の国王だ。汝等の名を尋ねても良いだろうか」


 王様・ラルクは命令ではなくあくまで懇願の態度を見せる。


「逢ヶ瀬 伶奈です」


「白崎 修」


 もう一度は伝えた名だ。抵抗することもなく素直に教える。


「うむ、しかと心得た。

 まず初めに此度の勇者召喚に応えてくれたことに対する感謝を。事情のほとんどは既に娘から聞いているとは思うが」


「ん?」


「む? いかなことか?」


「いや、応えてくれたって言ってたけど、特にまだ協力するとは言っていないかなーと」


 焦る焦る。気づかないうちに俺達の答えを決めつけられるのはよろしくない。


「……どういうことだ、リリス」


「申し訳ありませんお父様。この世界の事情についての説明に時間を取られ、まだ魔王討伐の要請に対する返答を頂けてはいないのです」


「む、そうか。まあそれならばよい。

 では改めてこの場にて、我がルミナリアの名の元に、汝等に協力を仰ぎたい。この世界の脅威を退けるには、汝等の力が必要不可欠なのだ。どうか頼む」


 ラルクの言葉に、彼の周りにいた貴族たちから小さくない悲鳴のようなものが聞こえる。大国の王たるものが、異世界から呼び出した者とはいえ一般人のような存在に対し下手に出ることが許せないみたいだ。


 それでも事態の把握に努め冷静さを保っている者達からの真剣な眼差しはなかなかに効く。

 協力したくないと感じていたとしても、この空気の中ならばついうっかりと頷いてしまいそうになる。


 だけど、俺の答えは初めから決まっている。

 リリスが勇者を呼び出したと言った瞬間から既にその答えの一歩手前に辿り着き、

 祝福という英雄の力を持つ者を召喚したと告げた瞬間にはもう決定していた。


 彼女の、その悲しげな表情を見た瞬間から思っていた。


 二人の少女から離れるように数歩前出て俺は告げた。


「いやだ、断る」


 俺の答えが静かな室内に響き渡る。

 まるで俺が何を言ったのか分からないような様子で、世界を静寂が包み込んだ。


「おい貴様! 先ほどといい何のつもりだ!」

「王が自ら頼んでいるのだぞ 不届き者にも程がある!」

「拒否する権限など、初めから存在しないに決まっているだろう!」


 怒りが爆発したのか、貴族達は次々と俺に対する非難をぶつけてくる。


 何を言っているんだろうか、こいつらは。

 今の台詞を本気で言っているのであればドン引き通り越してもはや同じ人間として捉えたくないレベル。


 こんな奴らの頂点に立つ王は何かと大変だろう。魔王とやらに侵略されているのも、ちゃんとした対応が取れないのもこいつらが原因なんじゃないのかと思う。


 騒ぎ続ける者達に視線を向けると、彼らは言葉に詰まったかのように静かになる。だけどそれも一瞬だ。


「我が国に協力しない勇者など無価値だ! 兵士よ! その不届き者を捕らえよ!」


 本当に馬鹿だ。馬鹿すぎる。

 お前達は、自分が誰を召喚したつもりなのか覚えていないのだろうか。

 魔王とやらの力が強大で、それに対抗できる者を呼んだんじゃなかったのか。


「はっ、はい!」


 貴族の言葉に強制されるように、壁に立っていた数十人の中から十人弱の兵士が槍を手に全力で駆けてくる!


「ッ、いかん! 止めよ!」


 ラルクの叫び響くが、もはや彼らの勢いは止まらない。


 十の穂先が俺に向け放たれる。

 寸止めして動きを止めるつもりか、それとも普通に攻撃してくるつもりなのか。

 まあどっちでもいい。関係ない。

 その全てを、俺は――――



「シウォール」



 小さな少女の呟きと共に、突如として俺の周りに透明の壁が出現する。

 その壁が俺に迫る穂先の全てを遮ると同時に、静かに消え去っていく。


 その現象は日本で普段見るようなそれとは完全に違う、まさしく魔術と呼ぶに相応しい結果だった。


 そして、その透明の壁を作り出した者こそ、俺の後にいる金色の少女。


「……リリス」


 壁が出現する直前、呟いたのは確かに彼女だった。

 目上の存在の命令に従うしかなかった兵士達を止めたのは、他ならぬこの国の第一王女である彼女だったのだ。


「だからだよ」


 俺は前に向き直すと、ゆっくりと歩を進めていく。

 目の前にいた兵士達は何故か恐れをなすように左右に割れ道を開けてくれる。


「な、なんだその目は!」


 貴族の中の一人が俺に向かって叫ぶ。

 ただ見てただけだというのに。


「だから断ったんだ。何で理不尽に異世界に呼び出された上で、命を懸ける戦いに協力すると思ったんだ? 馬鹿だろお前ら」


「ッ! 黙れ! 貴様を勇者として召喚したのは私達だ! 貴様の力は私達に使役される為にあるのだぞ!? であるならば、私達に協力するのは当然であろう!」


「……力ある者は世界のために使い尽くされるのが当然だと、そう言うのか?」


「当たり前だ! 世界を救うことがどれだけの名誉になることか! その資格を得ておきながら実行に移さぬなど大罪に等しい!」


「……へえ」


 本気で言ってるのか。

 こいつらは本気で、力ある者が世界の犠牲になるべきだと考えているのか。

 気に食わない。本当に。

 世界が変わったとしても、人間の性根は変わらないというのか。


 ならやっぱり。

 きっと、どんな世界だって終わるべきだ。


「下がれ、ガドリア」


 と、思ったが。

 緊迫した空気に割って入ったのはラルクだった。


「なっ! 国王様、なぜ私が!?」


「理由を言う必要があるのか。彼の言う通り、私達の身勝手によって彼らは今ここに来てもらっているのだ。例え要請を拒否されたとしても、責める権利など初めから私達にはない」


「ッ、それではこの世界は誰が救うと!」


「それを話し合うためのこの場だ。お前が今我が騎士達に命じたのはこの世界を救うためでも罪人を罰するためのものでもない。ただ気に入らない相手を排除したいという私情に過ぎない。冷静になるまでは別室で待機していろ。ガドリアだけではない、彼に非難の声を上げたものたちは一旦下がっていろ」


「くっ!」


 ラルクの力強い言葉にとうとう逆らうことが出来なくなったのか、数名の貴族は立ち上がると俺たちの横を通り外に向かう。


「…………」


 その際に恨みを込めたガドリアの視線が俺に突き刺さるのを感じたので笑顔でウィンクを返しておいた。


「ッ!」


 怒りに満ちたその表情を見るのがまた心地よい。と、そんなふうに歓喜が生まれると思ったがそもそもガドリアはおっさんで、そんな奴の顔を見たところで楽しめる訳がなかった激萎え。俺は視線を真っ直ぐに戻す。


「シラサキと言ったか。まるで汝が道具であるかのような発現をした彼らの非礼を私が詫びよう。本当に、申し訳ない」


「まあ、いいけど」


 臣下の罪に対して王様自ら謝罪の言葉を投げかけるとは驚きだ。おっさんとの一連のやり取りも含め熱は完全に冷めてしまう。


 振り向くとそこには俺を襲おうとしたばかりの兵士が何人も恐れを含んだ表情で立ち尽くしている。

 別にこいつらに興味もない。結果的に無傷で済んだ訳だし。


 だからただ、俺の脳裏に焼き付いたのは。

 俺から彼らを守ってくれたはずの少女が、真剣な様相の奥に悲しげな感情を見せていることだけだ。


 ただ自然に彼女は、最悪の状況を回避してみせた。

 だというのにそれを誇るのではなく一人沈んで立ち尽くす。


 そんな姿が、どこまでも俺の心を掻き毟った。


 見ていられなくなり、俺はラルクのもとに向き直る。


「まあ、あれだ。なんだか面倒なことになったけど、とりあえず俺は自ら進んで協力するつもりはない。元の世界に帰るまでは好きにやらせてもらうよ」


「そうか……了承した。此方の事情で汝等を呼び出したのだ、生活などの不安は責任を持って解消させてもらう。王城の客室は汝等の召喚に備え整えられている。王都を出るにしろ、まだこの世界の知識も旅の準備も不十分であろう。どの道を選ぶにしろ、一先ずはそこで体を休めてくれ」


「案外あっさりなんだな……まあそっちの方が楽だからいいけど」


 これにて、俺の意思表示は終了。


 断りやすい空気を作ったうえで、振り返ると元の位置に戻るべく歩を進める。


 兵士の間を通り、リリスの横を通り。

 最後に黒髪の少女の横を通り過ぎたところで。



「――――私は協力します。いいえ、ぜひ協力させてください」



「ん?」


 あろうことか、これまで存在感の消えていた逢ヶ瀬は彼らの要請に応える意思を表した。


 マジかよこいつ。

 思春期ってこえぇ。

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