第十一話 異世界冒険ファンタジー感
冒険者ギルドと名乗るにはふさわしくない暗い雰囲気。
はたして何があったのだろうか。
疑問を抱いたまま辺りを見渡すと、ふと俺は見覚えのある顔を見つける。
「……ん? うおっ、さっきの兄ちゃんか!?」
向こうも気付いたらしく、大きく目を開き驚きを露わにする。
あのツンツン頭のおっさんは、さっき町中でぶつかった人だ。
随分と急いでいるように見えたが、ここに向かっていたのか。
「ああ、そうだけど」
お互いに顔を見たのはほんの一瞬だったのに、よく両方とも覚えてるもんだと思いながら首肯する。感動の再開、という訳でもなく、彼は少し顔を顰めると言い辛そうに口を開いた。
「兄ちゃんとそこの嬢ちゃん、悪いことは言わねぇ。今はここにいない方がいい」
「……どうして?」
その忠告に返答したのはソラだった。
「どうしてもこうしてもねえよ。事情を説明するには時間がねぇんだ。どうせお前達は旅人かなんかだろ? そんなガキ達を、このギルドの問題に付き合わせる訳には」
「大丈夫、私強いから」
「いやそういうことでは……」
問答無用と、ソラはおっさんの静止の声も聞かず颯爽と歩いていく。
ソラは女性の店員を見つけ話しかけていた。
「どこ、座ればいい?」
「え、えっと、こちらにどうぞ」
茶色の髪を二つおさげにした可愛らしいウェイトレス姿の店員は、ソラの言葉に戸惑いつつもテーブルに案内する。まだ新米なのだろうか、とてもぎこちない気がする。
その光景を眺めていたおっさんは、諦めたかのように大きく溜め息をつく。
「はぁ、どうなっても知らねぇからな……」
元気出せ、おっさん。
俺は心の中でそう呟いた後、ソラのいるテーブルに続いて座る。
「さて、これからどうするか」
無事入店することには成功したが、まだギルド内は険悪な空気のままである。
食べ物や飲み物を口にする人もいることはいるが、楽しんでいる様子ではない。
受付所で依頼を受けるような冒険者も見当たらない。
なんてことを考えていると、カランカランという音がギルド内に飛び込んでくる。
その音につられるように、誰もが扉の方を向く。
そこにいたのは三人組だった。
冒険者とは思えない豪奢な恰好。しかし腰には剣を携えている。
白色の髪と髭が特徴的なおっさんと、その後ろにいる二人の若い男性。
怪しさ満点である。
彼らが現れた瞬間、ピシッとギルド全体の空気が引き締まる。
なるほどなるほど、アイツらが問題の発端なのか。
なんだか既視感のある展開になってきた。
主に漫画とかで。
内心少しわくわくしていると、リーダーっぽいおっさん、白髪野郎が口を開く。
「おい、今週の取り分をさっさと持って来い!」
低く重く渋い声。
その声を聴いた瞬間、冒険者たちは嫌気に満ちた様相に変わる。
その中で動いたのは、さっき俺達に色々と忠告していたおっさんだった。
手には巨大な袋が掴まれている。
「これが、今週の分だ」
苦渋を噛み締めた様子のまま、おっさんはその袋を渡す。
「おい、お前達」
「「はい!」」
白髪野郎の後ろに控えていた奴らがその袋を奪うと、その場で中身を確かめる。
中にはどうやらこの世界の金が入ってるみたいだ。
数十秒後、中身を確かめ終えたのか若者は白髪野郎に小さく耳打ちする。
「少ねぇなぁ!」
ドンッ、と。
地面に置かれていた袋を全力で蹴り払う。
硬貨や紙幣が音を鳴らしながら辺りに散らばる。
女性の店員の中からは、ヒッと、恐れるような悲鳴も聞こえる。
「あの、ここのオススメ、一つ」
そんな中で普通に料理を注文するソラは、ひとまずこの場では放っておくとしよう。
注文された店員さんが動揺してるから止めてあげて欲しい。
「あっ、じゃあ俺も同じの一つ」
けどもう動揺から回復しつつあるしいいだろ、みたいな気分で俺も頼んでみた。
育ち盛りだから仕方ない。
何故か店員さんは驚いていた。
「きゃぁぁぁあ!」
とかなんとかしていると、重大なシーンを見忘れていた。
いつの間にか白髪野郎の手が、茶髪の二つおさげ、ソラをテーブルまで案内した店員の右腕を掴んでいた。
「言っておいただろうがぁ! テメェ等が貰った収入分の一割を俺達に献上するようにとよぉ! このギルドの報奨金の一割が、この程度な訳ねぇだろ! 嘗めてやがんのか!」
「ち、違う! 今週については、たまたま稼げる依頼が少なくてッ!」
「うるせぇ! 言い訳なんて聞いてねぇんだ! 文句を言うってんなら、この嬢ちゃんがどうなんても良いってんだな!?」
「ッ、それだけは、メリアに手を出すのだけは止めろ!」
……ふむ、なるほど。
大体状況は掴めてきた。
要するに、あの白髪野郎がメリアと呼ばれた女を盾に金銭を無理やり要求しているのか。
確かにあの白髪野郎は、この中ではとびぬけて強そうだしな。実力的にも逆らえないのだろう。
「や、やめてください……」
二人のおっさんの言い合いの中、言葉を挟んだのはメリアだった。
「わ、私になら、何をしても構いません……で、ですが、冒険者の方々に手を出すのはやめてください!」
その言葉を聞き、白髪野郎は微笑む。
「ハハッ、良いこと言うじゃねぇか嬢ちゃん! いいぞ、その潔さは嫌いじゃねぇ! けどな、俺は別にそれでもいいんだが、コイツ等は違うみたいだなぁ」
彼の目の前にあるのは、憤怒に満ちたおっさんの容貌。
「いいさ! 嬢ちゃんの真摯さに俺は心打たれた! 今日だけは期限を延ばしてやる……そうだな、あと三時間ってところか。その間に、この倍の金を集めろ」
「ッ! そんなこと、不可能に決まって!」
「不可能ってんなら、その時は嬢ちゃんが犠牲になるだけだ! お前達のような犯罪者どもを想ってくれる奴を見捨てるってんなら、俺もそれでいいけどよぉ! あっはっは!」
そう吐き捨てると白髪野郎はメリアを投げ捨てる。
そしてそのまま身を翻し、出口に向かう。
「じゃあな、あとの三時間、精々金集めに奔走してくれ。なぁに、この程度、金貸しにでも頼めばすぐ集まるさ! はっはっはっは!」
最後にそう言い残すと、彼ら三人はそのまま外に出ていった。
いきなりここでドロップキックでもかませば面白いかもしれない。
残されたギルドには、どこまでも暗い空気が漂っていた。
「料理、まだかな。わくわく」
ソラ、少し黙ろう。
◇
十分ほど、誰一人として口を開かない時間は続いた。
いや、俺とソラは料理を食べるために開いてたけどそれはノーカンだ。
全員が俯き悲壮感を漂わせるギルド内。
今のは彼らにとってそれだけ重要な問題なのか。
俺にとっては取るに足らない、善意悪意の概念以前の出来事にしか思えないが。
……けど、まあ。
こういうのは、冒険ファンタジーの定番というヤツだろう。
だから。
「おい、おっさん。今のはなんだ、事情を教えろ」
散らばった金の前で佇むそのおっさんに、俺はそう言葉をかけた。
おっさんは顔を此方に向けると、逡巡したような表情を見せた後、口を開いた。
「いや、お前達には関係ない、俺達ギルドのメンバーの問題だ。それによわっちぃガキなんかに話したところで……」
予想は出来ていたことだが、すぐには教えてくれない。
その意思を懐柔するため、俺は一つの有益な情報を教えてみた。
「複雑な事情が絡み合ってるってんなら話は別だけど、もしあんたらがあの白髪のおっさんに実力で敵わなくて困ってるんだったら、それについては解決できると思うぞ。あの程度、俺やソラからしたら雑魚も同然だ」
リリスやラルクの力も借りれば、どんな問題でも解決できるとは思うが、さすがにそこまでして助けるつもりはない。
だが俺が告げた内容だけでも、彼らにとっては十分救いになるものだったのだろうか。
先程まではまともに取り合う気もなかったおっさんの表情に希望が生まれる。
「それは、本当か?」
「まあ、うん」
リーベとかに比べたら全然弱い。
強いとは言っても、精々が第二級災害指定妖魔に敵うかどうかだ。
デコピンで倒せる。
なんてことを詳しく説明した訳ではないが、おっさんは暫しの迷いの後、このギルドの問題について語り始めてくれた。




