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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第二章 -壊す願いと創造者-
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第八話 写真と指輪

 ソラと名乗った少女について。

 やはり、どれだけ考えても答えは同じ。


「見覚え、ないよなぁ」


 記憶を掘り探ろうとしても該当する人物はいない。そもそも水色の髪を持つ存在に会ったことすらない。となると、いきなり殴られた理由がますます分からなくなるが、アイツが此方を注意深く見ていたということに関してはやはり。


「なあ逢ヶ瀬、やっぱりお前の気のせいなんじゃ……ん?」


 そう言おうとして隣を見るが、いつの間にか逢ヶ瀬の姿は無くなっていた。

 どこに行ったのだろうか。見渡すとすぐに見つかる。

 大通りの向こう側の焼き鳥屋に並んでやがった。


「何してんのお前」


 勇者としての活動に対する報酬で貰ったお金で焼き鳥を五本くらい買ってきた、どこかホクホク顔の逢ヶ瀬に対しそう投げかける。


「すみません、買い食いが趣味なんです」


 誰もそんなこと聞いてない。


「おいしいですよ」


 知るか。


「一本食べますか?」


「食べる」


 使い捨ての紙皿の上から一本頂くとそのままぱくり。

 ほう。なかなか旨い。


 結局、何故か俺達はそのまま王都を散策し続ける。

 何でこんなデートみたいなことになってるんだか。


「……む」


 これまでは食べ物屋台ばかりが立ち並ぶ通りを歩いていたのだろう。

 少し道脇に逸れると、見栄えのいい装身具店を見つける。


「おい逢ヶ瀬。お前も女子なんだからこういう店の方が好きなんだろ?」


「凄まじい偏見ですね。もぐもぐ。そういうのは今時流行りませんよ。もぐもぐ。反省してください」


「おいちょっと待て、いつの間にそんなに買った?」


 少し意識を逸らしてる間に、彼女の両手は色々な食べ物でいっぱいになっていた。

 本当に美味しい物には目がないらしい。

 そういや、記憶にある中だけでも、こいつが食事してるシーンでは嬉しそうにしていたかもしれない。

 どうでもいいけど。


「それで、白崎さんは何か欲しい物でもあるんですか? 自分用ではないでしょうし……ああ、リリスさんやソラさんにプレゼントするんですか? はっ、相変わらずですね」


「おいお前、いい加減俺を年下好きっぽく扱うの止めてくれない?」


「別にそういうつもりで言ってません。貴方がそう感じたのなら、そういった行為をしていたという自覚があるのでは?」


「何でそんな穴だらけの理論を自信満々に言えるのかが、俺にはよく分からない」


 相手をしても仕方ない。

 俺は逢ヶ瀬から視線を逸らすと、店の外から中を眺める。

 ネックレス、イアリング、指輪。煌びやかな装身具がずらりと並ぶ。


 特にそんなつもりもなかったのだが、逢ヶ瀬に言われたせいで少しだけリリス達にプレゼントすることを考慮する。

 幸い金自体は大量にある。ほんの数回しか戦闘で活躍してなくともこの国の救いになったと言われ、報奨金を貰っているのだ。だから買おうと思えば買える。


 けど、その金は結局のところリリスから貰ったと言っても大して相違ない。

 年下の女の子から貰ったお金でプレゼントを買って、そのまま張本人に渡すとか、ちょっとださすぎるだろう。

 却下却下。買うのは止めだ。


 と思ったのだが、さっきは否定していたはずの逢ヶ瀬が真剣に中の様子を眺めていた。あれは銀色の宝石のネックレスか。宝石には詳しくないため種類は分からないが。


「なんだ、結局欲しいのか」


「いえ、別に、そういう訳じゃ」


「あ、そう」


 決して俺は、ここで買ってやろうか? なんて言わない。

 当然だ。俺達はそんな関係じゃない。そもそも今こうして二人でいること自体がおかしいくらいだ。


「じゃ、行くぞ」


「……はい」


 だから俺は、何事もなかったかのように歩を進める。

 数歩遅れて彼女がしっかりと付いてくるのを感じながら。



 ◇



「シュウさん、お時間を頂かせてもらい、申し訳ございません」


「いや、別にそれはいいんだけど」


 その日の夜間、場所はリリスの部屋。

 王女が暮らすには少し質素な感じがする部屋(それでも必要なだけの装飾は施されている)に、俺とリリスの二人がいた。

 俺とリリスは椅子に座り向かい合っている。


 夕食時、重要な話があると言われ、俺はここまで呼び出された。

 まだ本題には入っていないため、どんな理由なのかは不明だ。


「シュウさんをお呼びしたのは他でもありません。一つだけ言っておかなければならないことが、頼みたいことがあるのです」


「逢ヶ瀬やソラには言わなくていいのか?」


「彼女達には後に伝えます。ですがまずはシュウさんにと」


 俺だけが呼び出されたのには理由があるらしい。

 小さく頷くと、リリスは小さな口を開く。


「本日話したように、私達は二週間後スアレルに向け出発します。その際に、魔王軍幹部リーベにも同行して頂く予定なのです」


「ッ、本気か?」


「はい。彼女は魔王軍幹部の中でも優れた実力を誇ります。ソラさんが今回の遠征で捕らえた魔王軍の者達は、その地域の監獄で十分に逃走を防ぐことが出来る程度の実力なので問題はありませんが、リーベに関しては話が別です」


「俺達がいない間に、封印魔道具を壊して暴れるかもしれない。ってことか?」


「その通りです。ですから彼女は今回、私達に同行させ常に抑止力となる人物の傍で見張ります。それで、その、やっぱりその抑止力となる人物の第一候補が、彼女を倒したシュウさん、ということになりまして……もちろん、状況によってはアイガセさんやソラさんにその役目が回ることになると思いますが」


 申し訳なさそうに頼み込むリリスを一瞥した後、俺はゆっくりと思考する。

 別に彼女が望むことをしてやることは構わない。

 だけど……いや、今はいいか。


 考えをまとめた後、俺は真っ正面からリリスの青い眼に向き合う。

 そして、不安そうに此方を見つめる彼女に言う。


「分かった。その程度なら大した重荷にもならんしな」


「っ、ありがとうございます、シュウさん」


 俺の答えを聞いたリリスは、満面の笑みを浮かべて嬉しそうに感謝を告げる。

 その双眸の曇りなき視線に耐え切れず、俺は避けるようにして横を向いた。


「……ん?」


 そこに備え付けられた机の上に、一つの写真を見つけた。


 いや、正確には写真とは違う。

 多分あれは魔術による投影技術を利用したものだろう。

 それでも遠目から見れば何も差異は感じないが。

 とりあえずは写真と呼んでも問題ないだろう。


 そして、何より重要なのは。

 俺の意識を奪ったのは、その写真に写る人物だった。


 艶があり輝きを纏う美しい金色の長髪。

 深海の清き蒼を閉じ込めた優しい双眸。

 にこりと笑うその容貌はとても魅力的で……リリスがあと十も年を取ればあんな風になるだろうか。


 とても綺麗な女性の写真。

 その写真の前には、何故か銀色の指輪が剥き出しのまま置かれていた。


「あっ……それは」


 俺の視線が行く先に気付いたのだろう。

 リリスは気まずそうな声を漏らすと、苦笑を浮かべる。


 ……果たして俺は。

 踏み込んでも、いいのだろうか。


「それは、私のお母様です」


 決断するよりも早く。

 リリスはその真実を告げる。


「そうか」


「はい。もう亡くなっちゃいましたけど」


 そう言ってリリスは悲しそうに微笑む。十二歳の子供が浮かべるには、どこか大人びている笑みの形。だからと言って、俺から彼女に言えることなどどこにもなかった。


 ただ静かに、彼女の言葉を待つのみ。


 彼女はゆっくりと立ち上がると、その写真の傍にまで歩く。


「お母様は、私を産んだその日に亡くなったらしいです。だから直接会ったことはなくて。生前は祝福者として、魔王軍の脅威から人々を守るすごい人だったそうです。そして……この指輪は、そんなお母様が私に残してくれた形見なんです」


「……特別な物なのか?」


「……はい。この指輪をどうしてお母様が持っていたのかはお父様も知らないそうで、なんでお母様がこれを私に残したのかも分かりません……それでも、私にとってこの指輪はとっても大切な物なんです。今は付けてもすべり落ちちゃうので、ここに置いているんですけど、えへへ」


「…………」


「……? どうかしましたか、シュウさん?」


 リリスの微笑みを眺めるしか出来なかった俺の意識を、彼女の言葉が現実にまで引き戻す。

 つい、リリスの語る内容に集中し過ぎていたみたいだ。


 俺は右手で頭を掻いて少しの冷静さを取り戻した後、リリスに向けて言う。


「俺はそろそろ戻るよ」


 リリスはこくりと頷く。


「そうですか。分かりました。今日は本当にありがとうございました」


「別に礼を言われるようなことはしてないぞ?」


「そうなんですか? でも、私がお礼を言いたくなるようなことはしてくれましたから」


「……なら、それでいいか」


「はい、それでいいんです」


 話し合いながら、俺達は扉にまで歩く。

 けどその外までは、彼女が付いてくることはない。


「おやすみなさい、シュウさん」


「ああ、おやすみ」


 だからこれが、別れの挨拶。


 リリスの小さな笑みを見てから、俺は一人自室に戻る。


 今、胸に湧き上がるこの感情に名前を付けるなら、はたして何がぴったりだろうか。


 そんなことは、分からないけれど。

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