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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第二章 -壊す願いと創造者-
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第一話 誰かが願った世界のお話

 この世界はとても生きづらい。

 僕たちの様な社会の爪弾き者が出来るのは、精々が愚痴を吐きながら無益な日々を過ごすのみ。

 少しずつ足元に迫る恐怖に耐えるように、死にゆく未来を見つめている。


 そんな世界に生きている僕だからこそ。

 こことは違う、痛みのない世界を求めた。


 誰かはそれを悪だと言った。

 誰かはそれを逃げだと言った。

 誰かはそれを……幸せの形なんだと言った。


 そのどれが、本当に正しいものなのかは分からないけれど。

 それでもきっと、僕が願った世界はたった一つで。


 こことは違うどこか遠い、空間も時間も異なった場所に。

 僕は、永遠に幸福でいるための歪な世界を創った――――――



 ◆



 もう何十周目になるだろうか。

 ベッドに横たわりながら読み終えた漫画を枕元に置きながら、俺――白崎しらさき しゅうは静かに目を瞑る。


 世界に嫌われ、世界を嫌った人々の話。

 自分の居場所を違う世界に求めた、途方もない無秩序と無根拠に溢れた世界。


 それは、見知らぬ誰かの物語。

 フィクションでしかない創作の物語。

 だけどいつからか、ずっと心を捕らえ続ける物語。


「……風呂、行くか」



 ◇



「あっ」


「……うわっ」


 風呂場に向かう回廊の途中、見慣れた二つの人影を見つけてしまう。


 一人は艶のある黒い長髪を靡かせる、大きく理知的な瞳には可愛らしさと美しさが同居し、綺麗に整えられた容貌は見る者の注意を引くこと間違いない――そんな少女の名は逢ヶ瀬(あいがせ) 伶奈れな。俺と共にこの世界ジオ・ストラルダに呼び出された勇者の一人だ。


 彼女は俺と目が合うや否や、物凄く嫌そうな目で此方を見つめる。

 そう、何を隠そう俺と彼女の仲はあまり良くないのである。


 着替えとバスタオルを手にした彼女は、猛烈に機嫌が悪そうだった。

 まあ、その理由は俺と会ったからなんだろうが。


「えっ……あ、シュウさん!」


 もう一人は、きらきらと輝く鮮麗な金色をさらりと床にまで垂らす(聞いたところによると、魔術で汚れなどは付かないんだとか)。透き通る海を閉じ込めた双眸に見つめられた者は呼吸を止め思わず見とれてしまうだろう。成長すれば絶世の美女になるだろう彼女は、まだ幼いせいか可愛らしいという印象が強い――そんな少女の名はリリス・ジオ・ルミナリア。ここルミナリア王国における第一王女だ。いやだから俺はロリコンではない。


 彼女は一拍遅れ俺の存在に気が付いたようで、嬉しそうに微笑みながら駆け寄ってくる。

 おい見ろ逢ヶ瀬、これがお前との違いだよ。

 ……いや、別に逢ヶ瀬に笑顔を向けられたところで困るだろうけど。


「こんなところでどうなされたんですか?」


「風呂に行こうと思ってな」


「そうですか……なら、途中まで一緒に行きませんか?」


「お、おう……」


 やけに積極的なリリスに対し、少しだけ物怖じするように同意する。

 まあ男女の浴室は別階だし、途中くらいまでなら……ん?


「そういや、何でお前達一緒にいんの? 向かう場所違うだろ」


 二人とも着替えなどを持っているため自然と受け入れていたが、少しの疑問が生じたため尋ねる。


 王城に備え付けられた浴室は全部で四種……男女別にも考えるなら八種。水魔術や炎魔術などを利用すれば簡単に用意を整えることが出来る。


 王族。

 上位貴族。

 客人。

 騎士、使用人。


 ある程度の例外は存在するが概ねこんな感じ。

 無論、俺や逢ヶ瀬は客人用で、リリスは王族用……共に風呂場に向かう理由は存在しないように思える。


 そんな俺の問いを聞いたリリスは、得心がいったのかしっかりと頷いた後に口を開く。


「今日は少しだけアイガセさんと話したいことがありまして……だから私がアイガセさんの入浴に付き合う形で、ご一緒させてもらうんです」


「ああ、そういうこと」


 納得した俺は首肯と共にもう一度黒髪の少女を一瞥する。


 此方に背を向けながらゆっくりと歩を進める逢ヶ瀬。彼女とリリスの会話か……正直、あまり想像が出来ない。何か話のタネは存在しているのだろうか。まあ、あまり気にしすぎても仕方ないな。一緒の風呂に入る訳でもないし、その話に俺が関わっていることもないだろう。一緒の風呂に入る訳でもないしな。


「それでは、私達はこの辺りで」


「ああ」


 階段を下る途中、リリスは俺にそう告げる。


「……さよなら」


 ついでに彼女の奥から発された緩やかな挨拶も、俺の耳に届く。


「……おう」


 だから俺も小さく応える。

 それにしてもアイツ、別れの挨拶だけは自ら進んでするのかよ。



 ◇



 翌日。


 カツンカツンと、俺の靴が石段に落とされ鼓膜を刺激する音が響く。

 王城の一階に辿り着いた俺は、止まることなくそのまま地下に下っていた。

 両側に立ちはだかる本来は真っ暗なはずの石壁は、高く備え付けられた照明魔道具によって淡く照らされる。


 螺旋階段を十数メートル下り続け、とうとう俺はその扉の前に着く。

 厳かに通路を塞ぐ巨大で強固な石扉は、創作物に登場する禁断の部屋に入るための扉かの如く存在感を発していた。ついでに言うなら強力な魔力封印も施されている。


「っと、確かこれを開ける鍵は……」


 別にぶん殴れば開けられることは開けられるが、それは後が面倒くさい。

 俺はラルクから受け取っていた鍵型の魔道具を取り出すと扉に翳す。

 瞬間的に弱い光が鍵から発し、次の瞬間には扉を覆う。

 扉に施された封印が一時的に解ける。


「おっじゃまっしまーす」


 ギギギという煩い音を鳴らしながら、俺は力強く扉を押し開ける。

 身に感じるのは、この空間に広がる魔力の希薄さ。大気中の百分の一程度だろう。

 触覚だけではなく、次は視覚や嗅覚にも頼ることにする。


 三十畳程の思いのほか大きな室内には埃が舞い、ついでにかび臭かった。

 暗闇に支配された空間はほんの少しの弱い光に包まれ、全体的に薄暗く視界もおぼつかない。


 それでも、俺はその先に“彼女”を見つけることが出来た。


 視線の先。部屋の奥深く。

 血に染まる紅髪を床に散らす、色白の美貌を持つ女性。

 黒ローブに包まれた起伏に富んだ体は扇情的な空気を醸し出している。


「……あらあら、お久しぶりね。勇者さん」


 鎖を用い、柱に両手両足を縛り付けられた魔王軍幹部リーベは、俺を見るなり舌をぺろりと出し、艶めかしく微笑んだ。



 なんかエロかった。

第二章、開幕。

よろしくお願いします。

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