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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第一章 -二人の少女の歪な誓い-
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第十九話 冥纏う少女


 ◆


「……」


 鮮血を纏う紅髪を靡かせる肌白の美女、魔王軍幹部リーベは静かに目の前の彼女に注目していた。

 間違いなく殺したと確信したにも拘わらず、あっさりとその身を立ち上がらせる少女。


『――――ああ、また、殺してしまった』


 小さく呟かれた声は低く、彼女ほどの美貌の持ち主から発されたとは到底信じられない。


 そもそも様子からさっきまでとは変わっていた。

 顔にかかる髪によって表情を窺うことは出来ず、その少女は逢ヶ瀬でありながら、まるで違う生き物のような、そんな歪な雰囲気を醸し出していた。


「まさかあれだけの魔力を注がれて生きているとはね……じゃあ、これはどうかしら?」


 その光景を見て驚愕はした。

 だからこそ瞬時に対応が必要となる。

 逢ヶ瀬が攻撃に移るよりも早く、リーベが大理石の床に触れた。すると床は大きく脈動し、次の瞬間には激しく跳ね上がった。


 床から削り取られたそれは十の柱に姿を変え、空を切り裂きリリスと逢ヶ瀬に向かって飛んでいく。


「……シウォール」


 そしてその全てが、一瞬で透明な壁によって壊された。

 上位の魔物を容易く貫く攻撃を、単なる中級魔術によって。


「…………なるほど、ね」


 一人状況を分析するリーベ。

 しかし敵はそれを待たない。


 ゆらりと、逢ヶ瀬の体が前に落ちる。

 リリスの先に出た彼女は静かに攻撃の意思を露わにする。


「フレイム・ゼクス」


 瞬間、純然たる蒼の破壊の炎が彼女の右手から放たれる。

 空間を焦がし、周囲一帯すら燃やし尽くす灼熱の蒼炎は、そのエネルギーを一線に凝縮しリーベに迫る。


 思考する時間はなかった。

 最早まともに蒼炎を知覚する暇すらなかった。

 それが自身を滅ぼし得る力だと認識した瞬間、リーベは反射的に地を蹴り飛び躱していた。


 一瞬の空白を置き、先程までリーベの背後にあった強固な壁と扉は、耳を劈くような激しい轟音と共に破壊されていた。床や壁を黒い焦げ跡に染め上げ、鼻に刺激的な臭いが襲来する。奥の廊下に至るまでが完全焼失し、あまりにも次元が違う破壊力に、思わずリーベも困惑したように小さく口の端を上げる。


「な、なななっ! なんなのですかこれはっ!」


 運よくその攻撃の範囲外に逃れていたガドリアは、あと一歩で死んでいたかもしれない事実に身を震わせ哀れに振る舞っている。


 逢ヶ瀬の味方であるはずのラルクとリリスすら、未だ驚愕の表情から戻ってきていない。

 人の領域を優に超えた魔術の力……否、これは祝福か、それとも……


「此方も、少しは本気でいかせてもらおうかしら」


 再度リーベは体中から白と黒の混ざった不安定な魔力を大気に放出する。

 霧のように空間を漂う魔力は、枝葉のように数十に別れ拡散していく。


 ゆったりとした艶めかしい声で、彼女は唱える。


「昇華」


 そしてそれは起こった。


 リーベにとっては見慣れた、特にここ数日で何度も発生させた現象。

 大気に舞った魔力は変貌を開始する。


 数秒後、そこに現れたのは三十を超える魔物。

 瞬き程の間で、リーベの手によって大量の魔物が生み出されたのだ。


「言ったでしょう? 私は人間を魔物にするだけじゃなく、純粋な魔力さえも、魔物に昇華させてしまうのよ」


「ありえん……」

「そんな……」


 常識を覆すようなリーベの在り方に驚き入るラルクとリリスの反応は至極当然。


「ふはは! 素晴らしい! 素晴らしいですぞリーベ殿!」


 後ろで何もしていないのにも拘わらず、自身の功績のように騒ぐガドリアの反応も、状況を考慮すれば普通の反応だ。


 だからこそ、一切の躊躇なく魔物の殲滅に意識を向けた逢ヶ瀬は、やはり異常な存在だった。


「メチス・レイン」


 光り輝く白い柱が、彼女の前方百八十度に満遍なく放たれる。

 絶大な熱量を含む光線は斜線上にある魔物の悉くを焦がし尽くす。

 三十を超える、騎士団が応戦するには同数以上の人数が必要であるほどの強力な魔物達が一切の抵抗もなくその身を消滅させていく。


 されど、それはリーベにとって想定の範囲内だった。

 障壁を張り、光線を掻い潜り、逢ヶ瀬の目の前に到達する。

 魔術の放射が止まり、敵の隙を見つけたリーベは、自身の左手で逢ヶ瀬の頬に優しく触れた。


「――――ッ」


 逢ヶ瀬の目が大きく開かれるが、もう遅い。

 さあ、もう一度、破壊しよう。


「――――還元」


 逢ヶ瀬 伶奈という存在の次元を、一段階落とす。

 先程の発動では、原因不明だが彼女は蘇った。

 故に保険を、十倍以上の遷移魔力を一心に注ぎ込む!


「ジ・ラズ!」

「レイン!」


 ラルクとリリスによって放たれた槍と光線が迫ってくるが、既に手遅れ。

 全てを終わらせたリーベは地を強く蹴り後退し、前方の床が魔術によって盛大に破壊される。


 躱しながら前方の少女の姿を確認すると、リーベの期待通りの反応を見せていた。


「あっ、あぁぁああ!」


 両手で黒髪を掻き毟り、胸を押さえ、最後には体を抱きしめる。

 変質していく自身の生命に耐え切れず、逢ヶ瀬はもがき始める。


 だけど今度こそ終わりだ。

 彼女の魂は消滅を始め、破壊という悪意しか持たぬ魔物へと存在を落としていく。


「やりましたか!?」


 後ろで騒ぐガドリアの耳障りな声を聞きながら、リーベは満足気に笑みを浮かべ――――




 次の瞬間には、腹にぽっかりと穴が開いていた。




「…………は?」


 何が起きたか、理解できなかった。


 右下腹に開いた穴自体は小さい。

 今すぐに死に至る怪我ではない。

 しかし問題は他にある。

 何故、どうして、私はこんな攻撃を受け……?


 そして気付いた。

 数メートル先に、普通に逢ヶ瀬が立っていた。


 此方に差し伸ばす右手は、少しだけ燃えていた。


「――――ッ」


 思考加速。

 状況把握。

 術式展開。


 瞬時に場の理解に努め、同時に魔力を昇華させ自身の穴を塞ぐ。

 同時、遷移魔力を外部に拡散。秒につき十の魔物を昇華、創造。

 理解理解理解理解対処対処対処対――――


「ジ・エジト」


 逢ヶ瀬の呪文の途中で、リーベが瞬間的に膝を曲げ頭を落とせたのは、奇跡という他なかった。


 舞い上がる紅髪の含む頭上の空間が、巨大な真空の刃で切り刻まれる。

 リーベは躱せたとしても、周りにいた魔物達の多くがその斬撃に巻き込まれ消滅していく。


 それだけでは終わらない。


 逢ヶ瀬は右手を高く振り上げると、小さく呟いた。



「ジ・ジ・ジ・サマシュ」



 影が、リーベを覆う。

 頭上高くから注いでいたはずの照明は何かに遮られた。

 見上げると、そこには底面が直径二十メートル、高さは十メートル程、くすんだ錆色の四角い塊が浮かんでいた。圧倒的な迫力と重圧を持つその巨塊が内に蓄積する質量がいかなるものか、想像するに難くない。


 硬く、重く、強く。

 最大限まで要素を高めた物質が、重力による引力も加味し大気を歪ませる程の勢いで落下を開始する。

 残りの魔物も、真下にいたリーベにも躱す術はない。


「――――くッ!」


 咄嗟に身を守るべく翳した両腕を容易に砕き、巨塊は隕石のような勢いで床に接触し爆発を起こした。

 床が割れ、凄絶な衝撃音が室内に木霊し、立つのが困難なほどの激しい揺れが王城全体を襲来する。

 抵抗する間もなく足場をなくした巨塊とその下にいた存在は、押し潰されたまま階下へと墜ちていく。


 矢継早に響き続ける鼓膜を破るような衝撃音の数々。

 それが終わったのは、巨塊が大地に届き、ましてや地下にまで到達するのではないかと思った時だった。



 崩壊する身体。消滅する世界。

 ああ、きっと、これがおしまいの合図。


 終わりゆくその時で、リーベは静かに“それ”を決意した。



 ――――また、私は殺した。



 最後にそんな悲しい声が聞こえた気がしたけれど。

 リーベにとっては関係のない話だった。

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