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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第一章 -二人の少女の歪な誓い-
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第十八話 昇華と還元、その名は遷移魔力

「そんな……アイガセ、さん……」


 どれだけ悲しもうとも、彼女の意識が戻ることはない。

 リリスの現実を遥かに超えた事象の全てが、彼女の頭と心の中を掻き毟り精神的苦痛を与える。


 ガドリアの裏切り。

 魔王軍幹部リーベの襲撃。

 そして、勇者・逢ヶ瀬 伶奈の突然の死。


 理解することなどできない。

 ただ逢ヶ瀬が死んだという事実だけが目の前に転がる。


 何故、どうして、何で、何が……


「これは驚いたわ。まさか原型を留めるなんて」


 逢ヶ瀬と、その前で一人絶望に暮れるリリス見ながら、実行犯であろうリーベは感心したかのように呟いた。


「貴様! 一体何をした!?」


 ラルクによる非難の叫びが響く。


「簡単なことよ」


 リーベは右手の平を上に向ける。

 黒と白が中途半端に混ざった灰色の靄が浮かぶ。

 瞬間、宿敵に出会ったかのような禍々しさと嫌な感覚がリリスの体中を駆け巡り、ハッと顔を上げる。


 それはきっと触れてはならぬ物。

 触れた瞬間に物質を構成する要素を還元する魔力の塊。


「これはね、遷移魔力と呼ぶの」


「なんだと……?」


「貴方達も不思議に思っていたんではなくて? どうして私達が魔物を発生させることが出来るかを」


「それが、その理由だとでも言うのか?」


「ええ、その通りよ」


 リーベは軽く踵を返すと、ガドリアや騎士達がいる元に歩いていく。


「どうかなさいましたかな、リーベ殿?」


「いえ、何より先に証拠を見せるべきかしら、と」


 そう言い終えると、彼女はガドリアの後ろにいた七人の騎士の前で立ち止まる。


「り、リーベ様?」

「何か御用でしょうか?」


 これまで無言を貫いていた彼らも、突然自分達の元に来たその女性に動揺したみたいに尋ねる。

 しかしそれでも恐怖感のようなものは彼らから感じない。分かっていたことだが、やはり彼らも自分の意思でガドリアに協力しているのだろう。


「ふふ、貴方達が“それ”になってくれれば手っ取り早いと思ったの」


 言いながら、リーベは灰の魔力を纏った美しい手で順々に騎士達の頬に触れていく。

 その一連の流れはまるで優美な演劇のようで、見知らぬうちに自然とその光景に見入ってしまう。


 そう、それはまるで先程、彼女が逢ヶ瀬の髪に触れようとした時のように――――


 瞬間、思い出すのは逢ヶ瀬の死と、それを楽しそうに眺めるリーベの姿!


「――――ッ、いけません!」


 我に返ったリリスは咄嗟に全力で静止を呼びかける。

 敵であるかなんて関係ない。あれは、あの行為が指し示す結末を、自分はこの目で見たばかりだ!


 だけど遅い。

 とっくに手遅れで。

 既に“それ”は始まっていた。


「なっ……」


 呆然と、その光景を眺めるしかできなかったラルクを責めることなど、きっと自分にはできない。


「そんな……ことが……」


 それほどまでに、その光景は残酷で非情で、歪だった。


「あぁぁああああああ!!」

「がぁぁあああぁぁぁ!!」

「ぐうぅぐうううるうぅうう!!」


 人間と獣が混じり合った様な、そんな現存する生物では例えられないような悲鳴が騎士達の口から漏れ叫ばれる。既に両足は地面に崩れゆき、鎧に纏われた屈強な肉体を両手で削るように掻き毟り、自身に襲い掛かる激痛に耐え切れず目から血が流れ、鎧からはみ出る全ての生身の箇所がぐちゃぐちゃに変形していた。


「おお、これが人間に直接使用した時の姿ですか! 素晴らしい!」


 自分の臣下の体中がおかしな形に壊れていく様を、ガドリアは歓喜に満ちた声を上げ喜ぶ。

 理解できない。彼の在り方も、目の前の現象に何もかもが。


 しかし、本当の絶望はこれから始まる。


「嘘です……ありえません……こんな、こんなことッ」


 変容は止まらない。

 騎士達の肉体は歪に膨れ上がり、強靭な体が鎧さえも打ち破る。

 白と黒のみで築き上げられたその姿形は既に人間の物ではない。


 四肢で地を踏み締める獣。

 人型でありながら背に翼を生やした化け物。

 腕足すらなく床に這い蹲る爬虫類のような敵。

 それらが七体。平均的な大きさはおよそ体長二メートル程度。


 そう、それはつまり魔物。

 七人の騎士達は、その身を魔物に変えていた。


「――――これこそが、私の持つ力の証明よ」


 動揺と絶望に支配されたリリス達に向け、リーベは悠然と投げかける。


「“ただの魔力そのもの”と、“魔力を基にしていながら物体として存在を確立し、魔力から完全にその在り様を変えた人間や物質”。そして――――“純然たる魔力の意思存在・魔物”。私の遷移魔力は、それらの間の変貌を可能にするのよ」


「――――ッ」


 ありえない。そう叫びたくなる。

 人や魔物の姿を自由自在に変える力など、信じる訳にはいかない。

 しかしこうして目の前には証拠が広がっている。


「……貴女がアイガセさんにしたことはこれと同じなんですか?」


 初めてリリスからリーベに話しかける。

 それが嬉しかったのか、彼女は場に似合わない満面の笑みを浮かべながら質問に応じる。


「ええ、初めからそう言っているでしょう?」


 頷くリーベだが、それはおかしいとリリスは考える。


「ですが、アイガセさんは魔物には変わっていません」


「そうね、だから驚いたわ。さすがは祝福者、私の遷移魔力をその身に受けても魔物に変わらないなんて、どれだけ上等な魔力を保有しているのかしら……だけど、それだけ体は頑丈で変貌するには至らなくても、完全に耐え切る程ではなかったようね……故に、彼女の内部は、“魂”は壊れた」


「……たま、しい」


「結局はその程度の存在だったということ。さあ、茶番はこの程度にいたしましょう……ガドリア公爵も、それでよくて?」


「当然ですよリーベ殿。そろそろ彼らの驚き顔にも飽きてきたところです。終わらせましょう、この国と、全てを」


 ガドリアはリーベの横に並び立つと、濁った瞳をラルクに向ける。

 もうこれ以上話す必要などないという意思が猛烈に伝わってくる。


「……今の間に幾つかの術式は組み、救援も呼んだ。リリス、お前も祝福の用意をしてくれ」


 魔王軍幹部という強敵を前に、それでも引くことなど出来ないとラルクは告げる。


「……はい」


 今ここにいる戦力はラルクと自分の二人。

 さらに数十の騎士達が助けに来たとしても、きっとリーベには敵わない。


 だけど、戦わなければならない。

 当然だ。この国を魔王軍に明け渡すこと、それが指すのは世界の終わり。


 一人の勇者の死を悲しむことも、一人の勇者の助けを期待することも許されない。


「……いきなさい」


 リーベの声が静かな空間に響く。

 刹那、彼女の後ろに控えていた七体の魔物が行動を開始する。


「ジ・ラズ・アイシク!」


 その動きに合わせるようにして、透き通った水色の魔術陣がラルクの目の前に出現する。

 八つの氷の巨槍が創造され、城壁さえも貫く程の破壊力を持つ魔術が彼から放たれる。


 数コンマのラグを置き、矢継早に繰り出される巨槍が通った空間は急激な凍結反応によって巨大な氷結を築き上げる。それすらも魔術の副次効果に過ぎず、ただその強力さを示すものでしかない。砲弾のような勢いと速度で、絶大な威力を誇る最上級魔術は魔物に迫る。


「グルゥアァァアアアア」

「グシュュゥゥウウウウ」


 体格に見合わない俊敏な動きで攻撃を躱していく魔物達。

 七体中、攻撃が的中したのは二体のみ。

 歓喜に暮れる暇もなく、他の五体はラルクとリリスに駆け寄っていた。


「ジ・シウォール!」


 リリスに迫る二体の四肢型の獣は、彼女の周囲に出現した強力な透明の壁によって進行を食い止められる。リリスの持つ超高質の魔力を用いた防衛術式であれば、これだけの魔物の攻撃を防ぐことさえ可能になる。


「――――くっ!」


 しかし、それが叶うのもほんの一瞬のみ。

 当然だ、身体的なスペックが違いすぎる。


 爪が、牙が、障壁に食い込む。

 徐々に切り裂かれ、二つの巨躯はゆっくりと彼女の領域に侵入してくる。


「リリスッ!!」


 自分より多い三体を相手にしているはずのラルクから届く叫びを聞きながら、リリスは静かに決意。


 間もなく訪れるリリスの死。

 その脅威を前に、彼女は祝福を発動するべく意識を集中させ――――


「…………え?」


 その出来事に、思わず目を疑った。


 魔物が、崩れ消滅していく。

 自分の前にいる二体も、ラルクが相手する三体も、最初に氷槍に串刺しにされた残りの二体も全て。

 魔物が消え去った後に残るのは、蒼玉のように輝く綺麗な炎のみ。


「なっ!?」


「ふふ、そういうことね……これはとても驚いたわ」


 次いで聞こえるのは、ガドリアの驚愕とリーベの感嘆。

 彼らがそんな反応を見せるような何かが今この場に――ッ。


 不意に、リリスの聴覚が複数の物音を捕らえた。

 彼女の後方から服の擦れるような音と、靴が床を叩く音が聞こえる。

 その音は本当に数十センチ真後ろから発生していた。


 ゆっくりとリリスは振り返る。

 皆が注目する背後に何があるのかを確かめるために。


「……うそ」


 信じられない光景を、リリスの視界は捉える。


 長い黒髪に顔を隠しながらも、ゆらりと立ち上がる少女の姿。

 紛れもない、逢ヶ瀬 伶奈の姿を。


 確かに今も、そこに“魂魄”は存在している。


 そして、逢ヶ瀬は小さく口を動かした。

 世界を見ずに、完結した自己の心の中で一言。



 ――――ああ、また、殺してしまった。

魔力→魔物⇔人間・物質←魔力

この間を自由に操れるのがリーベの遷移魔力。


魔力にただ形がついたのが魔物や魔術。

魔力が完全に別の物質に変わったのが人間・物質。

だから魔物の身体そのものから魔力は感じますが、人間・物質から直接は魔力を感じません。内包、もしくは纏う魔力のことを作中では〜〜の魔力、などと言っています。


少しの例外はありますが、簡単にはこの程度で。作中で更に詳しく語られることも今後あると思います。主人公の魔法にも深く関係してくる設定ですから

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