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創造世界の英雄譚 ~魔法使いへ祝福を~  作者: 八又ナガト
第一章 -二人の少女の歪な誓い-
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第八話 魔物を倒すには蹴りで十分


 ◆


「アルダード砦より伝令! 勇者様一行が現地に到着、直ちに魔物の討伐に移るとのことです!」


「心得た。下がっていいぞ」


「はっ!」


 玉座の間にて騎士からその情報を聞いた国王ラルクは臣下に対してそう言い渡すと、大きな期待と小さな不安を感じさせる表情を見せる。


 そんな彼のすぐ側に控える少女――――リリス・ジオ・ルミナリアは、ラルクとは違い無表情のまま思案していた。彼女の脳内に今いるのは、二人の勇者についてだ。


「さて、彼女達は私達の助けになってくれるだろうか……リリス」


「はい、お父様」


「彼は、今日一日だけ私達に協力してくれるとはお前から聞いてはいるが、その実力は確かなのだろうか? 勇者として召喚した此方が言うのは失礼であろうが、彼からはそこまで強い魔力を感じなかった。彼女とは違ってな」


 その言葉を聞き、リリスは思考を片方に寄せていく。


 父の言うことは正しい。魔力感知に秀でたリリスからしても、彼……白崎 修から感じられる魔力の質・量はそう優れたものではなかった。というよりも、彼の魔力はどこか朧気で、上手く把握することが出来ない。


 もう一人の勇者、逢ヶ瀬 伶奈は彼とは違い凄まじい魔力を保持していることは瞬時に把握していた。それらを考慮し、戦闘手段が魔術だけであると仮定するなら間違いなく逢ヶ瀬の方が優れていると言うことが出来る。


 だけどそんな家庭が無駄であることも、リリスはきちんと理解していた。


「魔術ではシラサキさんはアイガセさんに敵わないでしょう。ですが彼らには祝福があります。ただそれだけで、その全ては引っくり返ります」


 祝福。個々に与えられ一人一人異なった力を持つそれは、魔力を利用し発現されていると考えられているが、だからと言って魔力の良し悪しだけで語ることは出来ない。


 能力の純粋な効果。干渉可能範囲。燃費の良否。

 規則性の一切を排除したそれらを前にしては、想定は無駄に終わる。


 例えばリリスの祝福は効果と範囲は非常に強力だが、燃費の悪さは知っての通り。しかし中にはその全てがリリスより優れた者もいれば、劣る者もいる。百を各要素に平等に振り分けられるのではなく、人によっては全ての要素に三百が振り分けられるような偏りも存在するのだ。


「確かにそれもそうだな。せめて祝福の名称くらいは聞ければよかったのだが」


「自分から話してくれるのを待つしかありませんね、それを他人が尋ねる訳にはいきませんから」


 そこで二人の会話は一旦断ち切られる。必要以上に会話をするには、ここは適した場ではない。


 だからリリスは、その後も彼について考えていた。


 確かに自分は言った。祝福者の実力を外見や魔力から見抜くことは出来ない。


 それなのにどうしてだろうか。リリスは彼が相当の実力差、それこそ世界最強の災厄、魔王に匹敵するのではないのかという期待を抱いてしまっていた。


 その理由なんて、自分には分からないけれど。



 そのまま待つこと十分。


 リリスは、二人の勇者が今回の作戦で勝利してくれることを疑ってはいなかった。

 二人が祝福者で相当な実力があることが分かるから。それも大きな理由の一つだが、一番は別の理由。

 どうしてだろうか。彼の言った自分の役に立ってくれるという言葉を思い出すことで、リリスは無条件にその事実を信じられる気がした。


「緊急! 緊急事態です国王陛下!」


 そんな彼女の思考を遮ったのは、息を切らし玉座の間に入ってきた一人の騎士。


「どうした、何があった!」


 その焦燥と恐怖に満ちた表情に気が付いたラルクは声を上げて事態の把握に努める。理由を知らなければならないのはリリスも同じ、彼の言に耳を傾けなければ――――


 ――――ッ、いや、これは。


 何故彼がそこまで焦っているのか、驚愕の表情を浮かべているのか。その理由をリリスは違和感として捉え、遂には確証に至る。それとほとんど同時に、その騎士は叫んだ。


「魔物が! 魔物が王城の周りを取り囲むように出現、その数――――二百です!」


「なんだと!?」


 気配がした。

 身に入り込んでくる異質な感覚。

 魔物独特の嫌な魔力の流れ。


 騎士の言っている内容が事実であることは、リリスがよく理解していた。


「何故だ! 魔力濃度調整魔道具と、魔樹の効果は――いや、今は一刻を争う事態。緊急命令だ! 王都に滞在する騎士、兵士に伝えよ! 直ちに魔物を駆逐し我らの平和を壊させるな!」


「はっ!」


 命令を下すラルクの側で、リリスは焦りを感じながらも流れるように原因を追求すべく思考を張り巡らせていた。


 この感覚、魔物はどこかから来たのではなく今この場で出現したのだろう。

 しかし王都、中でも王城は様々な対策を取り魔物が発生するリスクを最大まで減らしており、過去十年は王城付近で魔物が生まれた例など存在しないはずだ。それがこんなタイミングで、さらにこれだけの数が発生するとは考えにくい。


 そんな風に答えを求めるリリスを待ってくれるほど、今は余裕のある状況ではなかった。


「……なんだ、これは」


 騎士達に指示を出し、より良い手段を考えていたであろうラルクが零したその言葉は、あまりにも間抜けな音をしていた。


 それも当然だ。見上げたリリスはそこにある光景を一目見ても理解することが出来なかった。


 禍々しい黒だった。

 魔力が収束し、悪意が集う。

 もぞもぞ、もぞもぞと、玉座の間の中心に現れた人一人を飲み込めそうな大きさの球体は、意思を持っているかのように脈動する。


 呆然とする室内にいるラルク、リリス、数人の近衛騎士達。

 その現象の答えに真っ先に辿り着いたのは国王本人だった。


「これは、まさか魔物の発生か!?」


 それを聞いた全ての者が、記憶の奥からその知識を引っ張り出してきたかのように目を見開き確信を得る。


 そう、これはまさしく魔物が発生するときの現象そのもの。

 しかしこれだけの禍々しさと大きさを誇る例など記憶にはない――――



 そして、それは現れた。



 一瞬だけ強力な黒い光を発したかと思えば、次の瞬間にはそれは膨れ上がっていた。

 メキメキと嫌な音を立ててその体積を増大していく。


 黒の鎧を被った四肢で地を踏みしめる獣は高さ三メートル、全長はその倍近くにまで至る。

 大繩に絞められたように隆起した筋骨は猛々しくその存在を主張する。

 鋼鉄をも貫き切り裂く牙と爪に、一振りで大地を歪ませてしまうだろう巨大な尾。

 そして何より魔物にも関わらず強力な意思を感じさせるような、黄色く鋭い眼光が皆を襲う。


 その姿が露わになったとき、この場にいる全員が既に理解していた。

 この魔物は、自分たちの敵う相手ではない。現在国内にいる騎士団を総動員してやっと対等に渡り合える相手だと。


「援軍を呼べ」


 故に、ラルクが臣下に命じたのは更なる手。


「え、援軍とは?」


「アルダード砦から、勇者達に援軍を頼め! 今すぐだ!」


「っ、しかしあそことの距離を考えれば間に合うか分かりません!」


「構わん! 今この場の戦力で敵わないのだ! 僅かな可能性にでも縋るしかない! 伝令用魔道具で要請を頼め!」


「ッ、はっ!」


 ラルクの命を聞いた騎士は頷き行動を開始する。


 この時点でリリスと、そしてきっとラルクも騎士の言う通り勇者が間に合わない可能性が高いであろうことは理解していた。

 アルダード砦までは馬車で六時間。一切休憩せず急いでも四時間半はかかる。


 それでもリリス達が期待したのは勇者単独の実力。

 彼らが単独で動くのであれば、馬車の十倍の速度をも出せるかもしれない。


 希望的観測を含め、三十分……いや、二十五分。

 それだけの時間を稼ぐことが出来れば、この危機を脱することが出来るかもしれない。


「皮肉なものですね」


 修がリリスに告げた、作戦に参加する代わりに役に立つという台詞。

 もし彼がそんな意思を見せず王城で休んでいたのなら、その後半部分は叶っていただろうに。


 不意に頬が緩む。

 可笑しなものだ、普段はあまり表情が変わることがないと自認しているくらいなのに、こんなので簡単に笑えるなんて。


 リリスは気を引き締め目の前の敵に集中する。

 実のところ、今この場で戦闘の支柱は自分だ。

 祝福……勇者召喚で大量の魔力を消費してしまったため、発動できるのはきっと一、二回。

 そのタイミングさえ間違わなければ、足止め程度なら――――


 そんなことを。

 悠長に考えているのがいけなかったのだろうか。


 瞬きをした瞬間、目の前には魔物の顔があった。


「…………え?」


 頭の中が真っ白になる。

 何が、今の一瞬で何が。


 ああ、簡単な話だ。

 その一瞬で、この魔物は自分に接近し――――


「リリスッ!!!」


 父の声がする。娘の危機を案じる親の声が。

 そうだ、対応を。動揺している暇はない。今すぐ祝福を発動する。


「【空か――――】」

「グルゥゥァアアアアア!」


 間に合わない。

 それが分かった。


 自分の一生は、そんな容易く散りゆくのだと。

 眼前に迫る脅威を最後に、私は――――



「はいどーん」



 刹那、何かが激しく壊れる音がした。

 みしりと、鋼よりも固い肉体が容易く押し潰され、旋風と共に巨大な物質が空を駆ける風切り音。

 最後に鼓膜を震わせたのは魔物の巨体が壁に激突し両方が激しく粉砕される衝撃音。

 強固な生命を呆気なく奪うであろう現象が息を呑む間もなく連続して発生する。


 そしてリリスは、先程まで自分の命を奪うであろう魔物がいた箇所に佇む一人の少年を見た。

 彼は右足を前に伸ばした状態のまま、リリスを一目見て口を開く。


「まあとりあえず、これで一度は役に立ったってことで」


 そう言って、白崎 修は不遜に笑った。

主人公以外の視線になるときは、今回のように三人称風でやっていきます。

主人公不在時は勿論なんですが、主人公の戦闘シーンは半分くらいは他者視線で語っていきます。

戦闘の描写がしやすくなるのが一つ、そして何より戦闘中の主人公の心情を書きたくない時が多いためですね。そんな感じでよろしくお願いします。

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