5 結婚式
その日、レオモレア国の交易都市アルピニアでは街を挙げてのお祝で浮かれていた。
前日は名物料理の座争奪祭の大賞が発表あり、今日は招待客を集めての結婚式と披露宴だ。
青空に花火が上がる。街の放射状に伸びた道の中心にある広場には舞台が作られ、周囲の道々は人で溢れている。
上品なレース使いのウエディングドレスを着た棗は白いタキシードの立花に連れられて舞台に向かう。その途中には特に親しい招待客がいる。
棗は友人から祝福を受けながら道を進むと、立花の友人の清白が女の子に囲まれて嬉しそうにしている。その取り巻きの中には棗の友達の柚木もいる。
次に立花の幼馴染の海棠が浅葱を連れている。領主への就任が決まった海棠は浅葱に結婚を申し込むだらしい。
二人を見た立花は良かったね、とニコニコ笑う。海棠は少し気まずそうで、浅葱は恥ずかしそうだが嬉しそうに笑っている。
更に中央に近づくと棗の一家が窮屈そうな盛装で二人と記念写真を撮る。
日光を完全に遮断するビニールハウスの中には立花の兄が居て嬉しそうにしている。何か言われたらしい棗は心配そうに立花を見上げている。
そして道の反対側には立花の部下達と上司の上杉や桐生がいる。みんなとても嬉しそうだ。
そして立花と棗はようやく舞台の上に上がると周囲から歓声が上がる。
見届け人代表の夫婦が何か言って、立花と棗は装飾された大きな紙にサインをする。
それを受け取った見届け人は集まった人々に紙を見せる。
人々は拍手を送り、お祝の歌の合唱が始まる。
「もっと近くで見たかったんだけどね?」
金髪碧眼に怜悧な顔立ちで神話の登場人物のような容姿の男は新郎がかすみそうな豪華盛装で言う。
「大国の王に何かあっては責任が取れませんので、こちらでご容赦下さい」
立花の副官の鬱金がやけに畏まっていう。
「まあまあ、虎杖様ここなら全部見渡せますから」
桐生の妻達がお酌をして話しかける。
「だけど君達の旦那は向こうじゃないか。次期王はいいのかい?」
「あれは言うことを聞かないんです、それにいざとなったら誰よりも早く逃げてくるのでご心配なく」
正妻の楓が有無を言わせないように力強くいう。
主賓の中でも特に身分の高い人達は会場が見渡せるバルコニーから見下ろしている。
聞こえていた祝歌の合唱が終わると誰かが大声でキースー! キースー! と囃し立て、その声を聞いた楓が顔を歪める。
声の主を発見した立花が相手を睨んでいるが、キスを求める声はどんどん大きくなっていく。
棗は顔を赤らめて俯いているが、諦めた様子の立花が死角を作る様にして棗にキスしたらしく、周囲からは悲鳴と歓声、それにカメラの限界に挑む様なシャッター音がする。
それから二人はオープンタイプの移動機に乗りゆっくりと上昇して群衆の上を飛ぶ。その機体からは色とりどりの花弁が雪の様に舞い落ちる。とても美しい光景だ。
「中々いいセンスだね」
「お褒め頂きありがとうございます。ほとんど棗様がお決めになったものです」
虎杖の言葉に礼を言った鬱金は微笑ましい気持ちで二人を見る。
「もっと豪華な物でも良かったんじゃない?」
「あの二人ならあれぐらいでいいと思いますよ」
「なんかメルヘンチックねぇ」
「可愛らしくていいじゃないですかぁ」
桐生の妻達にも概ね好評の様だ。
そしてしばらく飛び回った機体はバルコニーに横付けされ、二人が降りてくる。
棗の手を引いてバルコニーに降りた立花は、人々に向かって軽く手を振ると虎杖の元にやってきた。
「虎杖様……お出でいただきありがとうございます……こちらが、妻の棗です」
多少言い難そうに棗を紹介した立花は鬱金に”本当に来たんだ”という顔をする。
「初めまして、大国シュラバナの王虎杖だよ」
「棗と申します! 戦神にお会い出来るなんて光栄です!」
棗はとても嬉しそうに虎杖を見つめているが、立花は早々に話を切り上げてもう一人の主賓にして置物のように気配を消していた太めの中年男性に声をかける。
「ご無沙汰しております。遠くまでありがとうございます」
「いいえ。立花様の結婚式なら参加させて頂くのは当然です」
色黒で南方系の顔立ちの男はレオモレアの南にある連合国の首長の一人だ。
連合国はレオモレアとは休戦中で国交はないはずなのだが、近くに領土がある一部の首長は別らしい。外交官でもない立花との関係性は棗にはよくわからなかったが、金に国境は関係ないと言っていたので、まあそういう事だろう。独断専行もほどほどにしないと反感を買うが立花には今更かもしれない。
一通りの挨拶が済むと室内での食事会という名の披露宴が始まる。下にいた桐生と二人の家族も参加して一見和やかに宴は進む。




