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3 ハイブリッドの宿命

「嘘つき、嘘つき、薬くれるって言ってたのに、嘘つき、恩知らず、立花、くそ……痛い痛い痛い」

 夜の病室で紫雲英は痛みに耐えながら文句を呟いていた。


 すると廊下を歩いてくる気配がある。


「遅いですよ!」

 ドアが開くと同時に言った相手は予想とは違った。


「あはは〜悪い悪い。エリート様でも痛いのはダメなんだな」

 現れた桐生はヘラヘラしながら紫雲英のベットに座り、薬を紫雲英に渡す。


「なんすか、そのエリートって……」

 紫雲英は受け取った薬を飲み込んで尋ねる。


「だってお前エリート様だろ? 何番だよ?」

「……どういう意味です?」

 桐生の言葉に紫雲英は警戒を強める。


「俺みたいな初回ロットからみたらお前はエリートだってこと」

「初回ロット……?」

 桐生の話は嘘だ。何処からか得た情報で適当に話しているだけだろう、と紫雲英は思う。初回ロットのハイブリッドなど施設から出ることはおろか話すこともできない実験動物扱いなのだから。


「お前は……ああ、雲モデルか……」

 言いながら桐生は紫雲英の顔を見つめる。少し懐かしそうな複雑な表情だ。


「735……」

 なんとなく紫雲英は口にしていた。


「そっか、大分増えたな……」

「知ってるんですか?」

「俺が知ってるのは一桁までだけどな」

「どういうことですか? 貴方もハイブリッドなんですか?」

「そう。昔逃げ出したんだ」

「嘘ですね、逃げられる訳がない」

 紫雲英は冷たく断言する。


「今と違って昔はそんなに高性能じゃないんでね。薬なしで放り出せばのたれ死ぬからってんで捨てられるんだよ」

「薬なしでどうやって?」

「捨てられるって分かってたら用意できるだろ?」

 信じられないと紫雲英は桐生を睨む。


「俺の能力はそう言うのが分かる感じでな、」

「逃げ出しても生きていけないでしょ?」

「一人じゃなかったからな、二十人ぐらいかな? 今は二人になったけど……」

 桐生の表情は切なそうだ。


「それでどうやったら将軍になれるんですか?」

「たまたま、だな。ずっとヒモか盗賊みたいな生活してたんだけどな。喧嘩した相手がたまたまレオモレア王だったんだよ」


「……どうやったら二十年も生きられるんですか?」

 紫雲英は質問を変えてみる。ハイブリッドの寿命は十年程度だからだ。レオモレアで桐生の名前が売れてから少なくとも二十年は経っている。


「薬だな。拒絶反応を抑えるだけならそんな強くなくていいんだ。俺らは人数の割に薬が少なかったから……今では月一ぐらいでも平気だ」

 薬なしでは二日といられない紫雲英は唖然として桐生を見る。


「今の奴らのことは知らないからな、高性能な分キツイんじゃないか?」

 紫雲英は痛みを堪えて桐生の腕に触れる。人に触れた時と違って冷たい。自分と同じような体温だ。


「嘘だ……」

「まぁ、信じなくてもいいけどな。あの女に伝えてくれるか? 今回の事は礼を言う。でも俺の物には手を出させないってな」

 桐生は複雑な表情を引っ込めて凄みのある獰猛な笑みをみせる。


 その顔を見た紫雲英は何故か視界が滲む。

「おいおい、泣くなよ。お前出てきて何年だ?」

「八年です……」

「図体だけでかいガキだな。何ならお前も逃げてくるか?」

「?」

 紫雲英は意味が分からないと桐生を見る。


「結構いるぞ?」

「みんな知ってるんですか?」

「さあ? 逃げてるうちにここに辿り着くんじゃないか? 難民なんて大分そんなもだ」


 紫雲英は泣きながら首を横に振る。

 その様子を見て桐生は紫雲英の頭を乱暴に撫でる。


「まあそういうことだから、頼んだぞ」

 何故涙が出てくるのかよく分からないが、紫雲英には立花の気持ちが少し分かった気がした。


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