薔薇王
数日後、領主立花主催のガーデンパーティーが交易都市アルピニアの一角で催されていた。
立花は例の薔薇王の格好で、棗もそれに合わせたドレスを着ている。立花の愛犬のロブも薔薇の首輪で着飾り、海棠と鬱金も騎士風の格好に薔薇をあしらっている。姫は青い薔薇をあしらったドレスで、他の参加者達もそれぞれ凝った格好をしている。
何故こんなことになってしまったのかと言えば、立花が適当に提案した顔見せが姫の知るところとなり、姫の演出でこのようなパーティーになっている。姫の行動力と実行力が恐ろしい。
「立花様よくお似合いです……」
ここ数日機嫌の悪かった棗も今日はご機嫌でうっとりと立花を見つめている。
「いやぁ。棗もよく似合ってるよ……」
「そうですか? 姫が色々見立ててくださったんです。すごい方です」
「鬱金もそうなの?」
「自分は……昨日突然つかまりまして……」
鬱金が複雑な表情で海棠を見と海棠は苦笑いでその視線から逃れた。
「ほら、二人は招待客に挨拶してこいよ…」
海棠に言われて二人は会場の中央に向かう。
「ロブも行っていいぞ?」
海棠が言うがロブは珍しく立花に付いて行かなかった。
「鬱金様はどうしますか?」
「適当に飲み食いして帰ります……」
「じゃあご一緒に」
二人はロブを連れて席に着くと食事を始める。
「なんというか……不思議な光景ですね……」
鬱金がつぶやく。
「立花ですか? 妙に似合ってますよね……しかもあれだけやって品がい悪くないから不思議ですね」
「確かに……」
妙に現実離れした格好の人が所々にいるパーティーは意外に穏やかだ。
「姫様の演出でしたか?」
「はい、棗さんも手伝ってたみたいですけど」
「流石ですねぇ。それで結婚相手はどうなったんですか?」
「楢葉で落ち着きそうです。一緒にいるところ見ました?」
「はい。微笑ましい感じでしたね」
「そうなんですよ……安心しました」
海棠は本当に安心したようだ。
「別に海棠様でも良かったと思いますよ?」
「勘弁してください。俺は気楽にやりたいんです……」
「そうは言っても、海棠様も領主になるなら一人だと大変ですよ?」
「え? なんで俺が領主なんですか?」
海棠が珍しく驚いた顔をしている。
「立花様が言ってましたよ? 人が足りないから幹部はみんな領主になるらしいです」
「はぁ? いや、そういうのは成りたい人がなればいいんですよ」
「普通みんななりたがるんですがね……」
「冗談ですよね? 面倒なだけなんですけど……」
「う〜ん。桐生様に聞いてみてください」
「いやだなぁ……」
海棠の苦労は始まったばかりだった。
▽▲▽
慌ただしかった顔見せパーティーも終わり棗は久しぶりにいい気分で家に帰ってきた。衣装を姫に返すついでに話し込んでしまい、家では立花が夕食を前して酒を飲んでいる。
「ただいま帰りました……」
「……」
立花はちらりと視線を向けるだけで返事をしない。
「立花さま?」
「お疲れさま……」
「はい……どうしたんですか?」
「別に?」
「ご機嫌斜めですね?」
「だって棗全然構ってくれないじゃない……」
「……さみしかったんですか?」
「別に?」
可愛い! と棗は顔がニヤけそうになるのをこらえる。
「立花様拗ねてるんですか? そんなに棗に構ってもらいたかったんですか?」
立花は横目で棗の様子を伺う。
「拗ねてないし……」
絶対拗ねてるって、と棗は思う。不機嫌な立花を見て喜ぶのもおかしいのだが、可愛くて仕方がない。
我慢できなくなった棗は椅子に座っている立花を抱きしめてナデナデする。
「立花様かわいいです〜」
「……」
「ごめんなさい。どうしたら機嫌治してくれますか?」
「俺のお願い聞いてくれる?」
立花は不機嫌な顔だが上目遣いで棗を見つめてくるのでかわいい。
「はい! もちろんです!」
棗は勢いよく返事をしたのだが、約束だよ? と立花が邪悪な顔で笑うのを見てハメられたと気がついた。




