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男前


 中庭に出てきた棗は男と向かい合う。


 特に開始の合図はなかったが相手の用意が整ったようなので棗は無造作に打ち込む。相手は難なく鞘に入ったままの剣で受け止めた。その様子を見ても男は決して弱くない。


 それからも棗は確かめるように攻撃を続けるが、相手は仕掛けてこない。



「勝てそうですか?」

 海棠がとなりで見ていた棗の姉に聞く。

「う~ん。実践なら無理でしょうが、こういう状況なら大丈夫だと思います。棗は勝つためなら何でもしますから」

「へぇ~」

 どういう意味かよく分からなかった海棠はおとなしく観戦する。



 棗は連続攻撃を仕掛けていた。どんどん速くなっていく技で、捌ききれなくなった男は棗を押し下げて距離を取る。

 にらみ合う二人はお互いの間合いを図りながら位置を変える。


『ちょっと! 解説して!!』

 映像を見ている一ノ方に言われたが海棠にもよく分からない。

「ん~相手は女の子だから遠慮してるんじゃないですか? 仕掛けてこないし」

「始まります」

 海棠が話していると棗の姉がいう。


 棗はふんわりと男の前に立つとフェイントを混ぜた上下の連続攻撃を仕掛ける。

 剣ではできない攻撃にも男は落ち着いて対処してる。

 そして足元を狙った攻撃をかわした男は隙だらけの棗に振り下ろすような攻撃を仕掛け、寸止めする。その間棗は男を睨みつけたままで視線を一切動かさない。



「うぁ~~すげぇ~~」

『なに?なんなの?』

「いや、今の攻撃顔面直撃コースなのに棗さん。避けないし、これは心理戦ですね」

「ええ。相手が撃ち込まないと思って顔で受けに行きましたね」



 女の子の顔を殴りつけるわけにいかないので寸止めしたのだが、男は今の攻防で理解した。棗が攻撃してきているのは男の身体ではない、プライドの方だ。

 普通に戦って負ける気はしないが、衆人環視のこの状況で男が出来ることは少ない。本気で戦えば”男のくせに””大人げない”などと言われるだろう。礼儀として全力を尽くすといった対応も初めの自分の態度で潰してしまっている。

 後は棗の体力が尽きて諦めるまで受けきるか、棗を傷つけずに圧倒的な実力差を見せつけることぐらいだが、棗は強い。

 防御を捨てているので一撃が鋭いし、さっきから少しだが攻撃は当たっている。体力を奪われているのは男の方だ。



「ははは、なぶり殺しですか? 棗さん良い趣味してる」

「うちで一番タチの悪いやり方をしますから、喧嘩は嫌い。勝つのも嫌とか言いながら……」

 棗の姉は呆れたようすだ。


「感受性が強いんでしょうね」

「……感受性?」

「人の気持ちが分かるから、されて嫌なことも分かっている……」

「お綺麗な言い方ですね」

 海棠は邪悪な眼差しで男を見つめて嗤っている。感受性が強いのは海棠も同じようだ。

 弟は大丈夫だろうかと少し心配になる姉であった。




  ▽▲▽




 対策室の人々はモニターを見ながら棗を応援していた。

「いけ!そこだ!!」

「あ〜おしい!」

 そんな声が聞こえる中、お調子者が実況と解説をしている様子は祭りの様だ。


「とんでもないな……」

 一ノ方の側にいた一人の武将がつぶやく。

「棗は拳紋の娘よ? 当たり前じゃない」

「いやあれは……多分拳紋のやり方じゃないです。何というか、ああいうやり方で女を武器にも出来るんですね……」

 一ノ方はよくわからないといった顔をしている。


「あんな勝負を挑まれたら勝ち方が分かりません」

 彼に限らず軍部の人間は大体立花が嫌いだ。今回は止むに止まれぬ事情の為に協力しているが本来なら立花の事など褒めたくもないのだが。


「女の趣味だけは悪くないみたいですね……」

 確かにタチの悪い勝負の仕方だが、一歩間違えば取り返しのつかない大怪我になる。棗の捨身の行動は裏を返せば相手の男への信頼でもある。



 そして群衆が見つめる中、棗は決定的な一撃を男の鳩尾に叩き込む。

 思わず崩れ落ちた男が降参すると、棗は美しい所作で礼をとる。


「男前……」

 そんな声がさざ波のように広がる。


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