男前
その頃棗は対策室と名付けられた地下の空間で色々な所から集まってくる情報をまとめていた。
大陸中の拳紋から集まってくる内容は三ノ方が国外へ手を伸ばしているというもので、几帳面な所は全ての証拠を残していた。
「これだけあればすぐに殴り込みに行けるんですけど?」
「早くしましょう!」
海棠とその秘書官の女が目を輝かせていう。
「まぁ、待てって」
桐生は何かを待っている様子だ。
その時棗の端末に鬱金からのメッセージが入る。何も考えずにメッセージを開いた棗は大きな声で言う。
「鬱金様に立花様からのメッセージがあったそうです!」
おおっ! と対策室の人々がどよめく。
「他には何て?」
「二人分医者の手配をってあったそうです!」
「そうか。一人じゃないんだな。よかった」
海棠は心からほっとした様子だ。
そして集まった人が口々に桐生の名を呼ぶ。
「分かった! 行こう!!」
そして桐生と海棠、棗兄弟が三ノ方の元へ急ぐ。
対策室のモニターには五人の様子が映されるらしい。
棗は愛用の棍を握りしめて走る。
対策室で色々と聞いたことで棗にも事件の黒幕が分かって来ていた。
どうやら三ノ方の護衛をしている男が元締らしい。姫育ちの三ノ方には裏へのコネがない。この男が裏への橋渡しをして、三ノ方が表の権力で後ろ盾をしていた、ということらしい。目立った悪事を働いている訳ではなかったが、国外に桐生軍の内部情報を渡したりもしていた様で、情状酌量は出来なさそうだった。
そして辿り着いた三ノ方の住まいは不気味なほど静まり返っていた。事前にここを訪れたニノ方の話では三ノ方は憔悴していて食事もまともにしていないらしい。
先頭の海棠が勢いよく扉を開けると中にいた数人の男たちが慌てた様子で立ち上がる。海棠は構わずに罪状を読み上げ、桐生が何か言っているが、棗は一人静かに座っている男を見据えていたので全く聞いていなかった。
拳紋の教えに、己の強さを弱者で測るなというものがある。手合わせの申入れは常に弱い方からでなければならないという掟だ。だから拳紋ではお互いの実力を見極める事が重要視される。棗の見切りでは、男の強さは海棠と同じくらい。兄と姉よりは弱いだろう。つまり拳紋のルールでは手合わせの申入れが出来るのは戦う気のあるの者中では棗だけになる。
棗は海棠と桐生の話が終わったので、その男に話しかける。この男は子供の頃の立花をいじめていたと聞いているので棗は視線に殺気が混じってしまわない様に気をつける。
「勝負してください……」
「女相手にしょっ」
棗は相手の言葉を遮って棍を振り下ろして机にヒビを入れると、そのまま相手の喉仏に突きつける。
「無抵抗に這いつくばりますか?」
「…………」
男は棗にのまれた様子で立ち上がり、剣を構える。
「やだぁ。男前ぇ~」
「桐生様冗談言ってないで向こう確保してきてくださいよ」
「え~俺も見たい~」
海棠に睨まれた桐生は蘇芳を連れてしぶしぶ三ノ方の部屋へと向かう。
「棗は男前だなぁ」
「はぁ、怒らせると大変なんです。どんなことをしても仕返ししてきますから」
「それは怖いな」
二人が話しながら部屋につくと廊下にいた侍女が道を開ける。
「邪魔するぞ」
桐生は言葉と共に部屋に踏み込むが、三ノ方の姿はない。リビングの隣のベットルームにいるようだ。扉の外で桐生はいう。
「聞いたか?」
三ノ方からの返事はない。
「立花から連絡があったぞ」
ベットで丸くなっていたらしい三ノ方が顔を上げる。
「嬉しいか?」
「……べつに……」
掠れた小さな声が返ってくる。
「そうか。まあ、どうでもいい。お前にはここから出て行ってもらう。離婚だ」
「そう……」
「おう。んでお前の次の旦那が今中庭で戦ってるから、興味があったら見ろ」
「けっこうよ……」
桐生は適当な相槌のあと部屋を出ようとして、一旦止まる。
「ああ、相手は立花の奥さんだから」
そう言い残した桐生は後ろを一切気にせずに歩き去った。




