19 男前
——Hush a bye.Don't you cry.——
無茶な飛び方をする機内。そのエンジン音にかき消されそうな、微かな歌声が聞こえる。
——Close your eyes.——
腕を骨折した立花が無意識に歌っている様だ。
——Dream a calm tender dream.——
紫雲英は普段から痛覚を麻痺させる薬を服用しているのでよく分からないが、とても辛そうな様子だ。痛みで寝る事も出来ないらしく、機体が揺れる度に呻き声も聞こえる。しかし本当に苦し紛れのその歌は不思議と穏やかな気持ちにさせてくれる。
——Come through foreboding.——
嵐が去って一斉に活動を再開した蟲に次々と襲われている、地獄の様な状態でも落ち着いていられるのはその歌のおかげだろう。
延々と繰り返される立花の歌を聞いているうちに、景色が変わる。
「立花様、森を抜けましたよ。もう直ぐ着くんじゃないですか?」
「あぁ。そうなんだけど、燃料もたないだろ?」
「えっ? ……嘘でしょ……」
残念ながら立花の言う通り、残量が少ない。
「予備タンクの使って行けるとこまで行くか、燃料集めるかだな」
幸か不幸か、燃料は森にいる蟲を解体すれば手に入る。しかし嵐の間絶食していた蟲はとても狂暴になっている。
「ふふふっ」
紫雲英は気持ちの悪い笑い声を上げる。今更後悔しても遅いと立花は思う。
「はぁ〜。お礼奮発して下さいね」
紫雲英は追いかけて来ている蟲を手頃な岩場に誘導し、機体をぶつける。後ろで立花の悲痛な声がする。
「あーもー煩いですよ! 死にはしませんから!」
「お前……覚えてろ……」
立花は息も絶え絶えに悪役の様なセリフを言う。少しはマシになって来ている様子だ。
岩陰に機体を下ろした紫雲英は静かに外へ出て行く。
その間に立花は頑張って前に移動して通信を確認する。ストームによる通信障害は解消されているが、ノイズが凄い。これで通信をすれば一発で見つかりそうだが仕方がない。
立花は鬱金に予定着時間のメッセージを送る。すると間髪入れずに返信がある。
『無事ですか?』
『二人分医者の手配を頼む』
それだけ送って通信を切ると、紫雲英が燃料を回収して戻ってくるが、その姿を見た立花は舌打ちする。
「お前……無茶しすぎ……」
背中から大量出血している紫雲英を座らせると乱暴に服を脱がして傷薬をぶっかける。
「ハイブリッドでも貧血にはなるからな!」
「ぁれ? 知ってる……んですか?」
「黙れ! お前の薬は?」
紫雲英は立花が脱がせた服から薬を取り出して飲み込む。それを確認した立花は紫雲英を後ろに押し込んで、燃料を補給して飛び立つ。腕の痛みはあまり気にならなくなっていた。




