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世は情け


 領主権限の非常用高速移動で、パウロニアに普段の半分以下の時間で着いた棗は兄に迎えられた。


「げっ! 姉さんも来たのか……」

「何か?」

「なんもないです……とにかく、みんな集まってるから」


 そう言われて着いたのは城の地下の広いスペースだ。城の地下をそのまま区切りもせずに使っているのでだだっ広いはずのそこには、城中の人が集まったような、普段考えられない光景になっていた。


「何なのこの人?」

「立花の処分取り消しの嘆願書に署名した人をみんな集めたらしい」

「こんなに……? どこが嫌われてるの?」

 桐生や奥方達など身分の高い者だけでなく、コックやメイドなと様々な人が集まっている光景を見て姉は困惑しているようだが、棗は嬉しくて涙が出そうだ。


「好き嫌いは別にしても、困ってる人はこれだけいたってことだな」


 棗はあまり知らないことだが、実は反立花派の人たちがかなり居る。蘇芳もその一人で、たまに飲みながら愚痴というか立花の悪口を言い合っていた。最初は立花がいなくなって喜んでいた彼らだが色々な業務が滞るようになり、立花が必要だと気がついたらしい。


 棗の姿を見つけた海棠が拡声器を使って喋り出す。


「あーどーも、お集まり頂いてありがとうございます。えーと、立花の事でご迷惑をお掛けした事を友人としてお詫びします。

 ではとりあえず、今分かっている状況ですが、立花が襲撃されて、それから逃れる為に安全圏を出たところで足どりが途絶えています。場所的にもかなり危険な状況なので、皆さんに協力してもらって少しでもあいつの安全を確保するのが目的です」


 海棠が簡単に説明すると騒がしかった聴衆が静まり返り、そんな中桐生が話し始める。


「あーみんなごめん!!

 実は立花の謹慎処分は、極秘任務のカモフラージュだった! 色々心配してくれたみたいで本当にごめん!

 んで、立花だが今は任務が終わって休暇を取ってもらってた。それで……えー、なんかあいつ結婚する事にしたらしい!」


 聴衆は悲鳴やら間抜けな雄叫びやらでどよめく。


「あっ、お相手は誰なんですか!!」

 一人の女性が叫ぶ。

「うん。気になるよな、相手はそこにいる棗だ!」


 桐生が棗を見るので聴衆も一斉に棗を見る。物凄い圧力だ。


「えーとまぁ、なんだ、あいつが棗と仲良かったのは知ってる人もいたと思うんだが、棗の婚約が破談になったので……そういうことになったらしい! 詳しい話はあいつが戻ってきたらみんなで聞こう!!

 という訳で、棗! 説明してくれ」


 棗は桐生から拡声器を渡される。何を話していいのか見当もつかない棗が桐生を見ると、桐生は穏やかに笑う。


「大丈夫。あった事そのままでいいから」

「はい……」


 棗は気合を入れる為に目を閉じて深呼吸する。


「立花様と、結婚、する事になった、棗と申します……。

 皆さん、本当にごめんなさい! 私は父にも立花様を守るように言われていました。拳紋の一人として情け無いです。

 次からは、私の名にかけて、立花様を守ります! だから、今回は、今回は皆さんの力を貸して下さい! お願いします!」

 棗が頭を下げると、聴衆は拍手で答えてくれる。


 桐生は感激している棗に、これまでの経緯を説明させた。それを聞いた聴衆から次々と質問が来るが、残念ながら答える事は出来なかった。



 こうして、ほぼ分かっている犯人に対する牽制は予想以上の成果をもたらした。


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