世は情け
「どう言う事なのよ?」
「ええっとぉ……」
「立花ちゃんは?」
急いで戻って来た桐生は海棠達と合流する前に一ノ方とニノ方に捕まってしまった。
「あの〜、棗と結婚したいなぁってあいつが言っててぇ」
「なんで私が知らないのよ! 棗からは立花と会ったとすら聞いてないわよ!」
「棗ちゃんとケッコン……?」
一ノ方がますます不愉快になって行く横でニノ方は何かを必死に考えている。
「多分。決まってからにしようと思ってたんじゃないか? ほれ、断られたら恥ずかしいしな……」
桐生の説明に一ノ方は怒りに満ちた視線を向ける。
「棗ちゃんと立花ちゃん……まぁ、そうね、そんなに……悪くないかもね」
ニノ方は震える声でなんとか受け入れようとしている。
「いやいやいや、お似合いだって! 俺はあの二人は絶対上手くいくと思ってた!」
桐生は無理矢理大きい声で一ノ方との会話を終わらせる。
「ええ……性格はね、いいのよ。問題は立花ちゃんの子供よね……」
「気が早くないか?」
「いいえ、一刻も早く、出来るだけ多くです!」
立花そっくりの子供が見たいニノ方にとって棗は不満らしい。
「あっ! そうか、女の子かも知れないんだな!」
桐生も何故か目を輝かす。
「そんな事より、行方不明の情報を重ねられても困るわ……」
誤魔化しきれなくなった桐生が苦笑いしていると、やっと海棠と蘇芳が現れた。
「すいません。新しい情報が入ったもんで」
「何が? 新しいも何もなんも聞いてねぇんだけど!!」
ようやく怒りをぶつけられる相手に会えた桐生が息巻く。
「じゃあ説明お願いします」
何故か海棠に振られた蘇芳が簡単に棗から聞いた経緯を話す。
「で? 新しい情報ってのは?」
「はい。ウチの連中が立花を撃ってた奴らを捕まえまして、そいつらが口を割りました」
「三ノ方の護衛の男の子の名前入り証書が残ってました」
蘇芳の説明を海棠が引き継ぐ。
「……そうか、こっちの事は分かった。で立花は?」
「……えー棗の話では一人では逃げられなかっただろうから、誰か助けた人がいんじゃないかって……」
「そいつが今も立花と一緒にいると思うか?」
「それは……」
「俺なら付いていかない。危険すぎる。だから街に出られるように、あいつの仲間を捕まえて圧力をかけよう」
「はい……どうやって?」
「それは棗が来てからだ。俺にも少しは勿体つけさせろ」
「それはいいけど! 立花ちゃんは大丈夫なの?」
ニノ方が我慢できずに叫ぶ。
「立花は……大丈夫ですよ。俺より先に死なないんで……」
海棠が慰めるが、抽象的な内容に絶望感がつのる。
「私、三ちゃんのところに行ってくるわ!」
「えっ? なんで?」
ニノ方の突然の発言に桐生が戸惑ったように言う。
「三ちゃんの所には別の情報があるかもしれないし、それに……あの子泣いてると思うから……」
「なんで、自分で殺そうとして泣くんだよ? 逃げられたからか?」
桐生が低い声で言う。
「こんなはずじゃなかったと思ってるわ。悪いのはあの子だけじゃないの……」
美しさは罪なのよ! と捨て台詞を残してニノ方は行ってしまった。
「圧力をかけるにしても立花は謹慎処分でしょう? 問題にならないの?」
一ノ方が暗い声で言う。
「それはヘーキ。実は極秘任務でしたって指令書があるから」
桐生が静かにいう
「最初っから貴方の都合で呼び戻すつもりだったのね、……私はこんな物まで集めてたのに……」
一ノ方が恨みがましく、嘆願書を出す。そこには立花の処分取り消しを願う署名がかなりの量あった。
「へぇ。こんなに……」
海棠は嬉しそうに言う。
「こいつらも明日集めましょう」
「なんか役に立つの?」
「圧力になりますよ」
海棠は珍しく普通に微笑んでいた。




