旅は道連れ
領主の屋敷は頑丈な作りで目立った傷も無く、三十年の風雨に耐えていた。
立花は周辺を回って目立つ蟲を駆除した後、入り口を探す。
「俺降りましょうか?」
「えっ? 大丈夫なのか?」
「まぁ、多少の蟲なら何とかなります」
「じゃあ悪いけど、駐機場開けてもらえるか?」
「嫌です!」
「はぁ? だって今……」
「紫雲英お願いって言って貰わないとやる気出ないっス!」
「紫雲英お願い……」
「ダメ! もっと情感豊かに!」
「……紫雲英ぇ、お願ぁい」
立花が鼻にかかった可愛い声で言う。
「うーあー。本当にやるんですね……」
「何だよ! やれっつったのお前だろ!」
「やると思わなかったんですよ。キャラにない事しないで下さいよ!」
「これぐらいで抵抗してたら桐生軍には居られないんだよ!!」
「はぁ〜がっかりだわ!立花様がっかり……。
じゃあ、あそこの入り口開けますね」
紫雲英は扉を指差す。
「紫雲英さんお願いします……」
何だかもてあそばれた気分の立花が暗い声で返すと紫雲英は勝手に降りて行った。
程なくして入り口が開いたので機体を中に入れた立花は通信で紫雲英に扉を閉めてスパイダーを置くように頼む。
そして奥の整備スペースで機体を停めた。
「スパイダーまだ残ってるか?」
「ええ、あんな操縦についてるくるなんてすごいですね」
「……ここにも置いておこう」
立花は狭くなっている入り口にスパイダーを離す。紫雲英を無視してスパイダーの罠を設置した立花は駐機場を見回し、少しでも安全そうな場所を探す。
奥に事務室のような場所があったのでそこで休むことにする。
「俺上見てきますね~」
「気をつけろよ」
そして紫雲英が居なくなって気づく。
やばい……俺一人だ……。
ロブのいない蟲の巣窟の廃墟で一人。怖い。
立花は怯えながら機体を整備する。
立花が黙々と作業していると何かを引きずるような音が聞こえてくる。反響して音の正体も発生源もよく分からない。
「紫雲英?戻ったのか?」
返事はない。
うぁ~蟲か……?
立花は怯えながら剣を構えると、何か大きなものが飛んでくる。
「うぁっ!」
立花は泣きそうになりながら慌てて躱す。
すると音を立てて落ちてきたのはマットレスたっだ。
立花が固まっていると紫雲英がいつの間にか立っている。
「立花様……怯えすぎ……」
紫雲英はニヤニヤしている。
「うるさいよ!何で返事しないんだよ」
「いやぁ面白かったから」
立花は無言で睨む。
「まあまあ、色々持ってきましたから、これで休みましょう」
「お前先寝ろよ」
「いいんですか?じゃあお言葉に甘えて」
紫雲英はマットレスの上の寝袋にくるまって寝る。紫雲英は職業上すぐに寝れるが音だけは聞える。
立花は整備を終えて荷物を取り出し食事の支度を始めたようだ。簡単なスープの香りがしてくる。しかし立花は時々するささいな物音に怯えている。その様子が可愛らしい。
「お前何笑ってんの……」
立花が低い声で言う。
「あれ?笑ってました?」
「寝てたんじゃないのかよ」
「寝てても音は聞こえるんですよ」
「起きてるなら食べろよ」
そして立花と紫雲英は黙々と食事をして今度は立花が交代で睡眠をとる。
「寝ないんですか?」
紫雲英が尋ねる。
「寝れないんだよ!」
「怖いんですか?」
「気が張ってて寝れないの」
「う~ん。子守唄でも歌ってあげましょうか?」
「いらないよ」
そんな話をしていた時だった。
バリバリと物が裂けるような音がする。
紫雲英はすぐに臨戦態勢をとり、立花は寝袋から抜け出し機体に乗り込もうとしていると、天井から蟲が現れる。
紫雲英は立花を突き飛ばして蟲に対処する。
出来るだけ素早く蟲を処理した紫雲英が振り返るが、立花はいつまでもうずくまったままだ。
「あれ?立花様?」
立花は腕を抱えてうめいている。
どうやら怪我をしてしまったらしい。声をかけながら立花を助け起こすと腕がおかしい。
「あ~あ~折れました?」
立花の返事はないが、紫雲英は強引に治療する。
大丈夫ですか?
うん……
移動しようと思うんですが?
そと、に……近い方が、いい
分かりました。入り口の辺りに移動しますね
たのむ……
紫雲英は機体や立花やマットレスをスパイダーの罠の近くに運ぶ。痛み止めを飲ませたが腕を骨折した立花は苦しそうだ。
風も雨もまだまだ強い。嫌な夜は始まったばかりだ。




