旅は道連れ
機体の揺れがなくなり、立花が目を覚ますと紫雲英が振り返った。
「ここは?」
「元境界です」
紫雲英の言葉に周囲を見ると蟲除けのネットが所々残っている。
安全圏と外を隔てるのは三重のネットで外側の二つは捕獲用、一番内側は殺蟲用で、それぞれ専用に品種改良されたスパイダーが蜘蛛の巣を張っている。
ネットがあるということはスパイダーがいるということだ。
「こいつら連れていけないなかぁ?」
「どうやって?」
「うーん」
立花は考える。
何も思いつかなかったがとりあえず運転を変わってもらった立花はネットの柱に機体を近づける。この柱も専用に品種改良された木だ。
立花は猟師仲間から聞いた話を思い出す。このスパイダーはこの木から離れられない。
「降りるけど……?」
「蟲は多分大丈夫です」
「うん……」
立花は機体を出て木から数本の枝と巣ごとスパイダーを取ってきて、機体の風が当たらない部分に挟んでみる。これで大丈夫かは分からないがこのスパイダーはかなり優秀なはずだ。出来れば役に立って欲しいと願う。
機体に乗り込み立花は操縦を始める前に紫雲英を振り返る。
「ちょっと気合い入れて操縦してもいいか?」
「……はぁ。お願いします……」
紫雲英は立花の監視らしいので知っているらしい。鬱金に二度と同乗しないと言われた立花の操縦を。
確認を取った立花は機体を低空で飛ばす。木々が林立する所を無理やり真っ直ぐに飛ぶので捻ったり機体を真横にしたりして飛ぶ。
猛スピードで障害物を避ける様子はジェットコースターそのものだ。
高度が低いので蟲に見つかり難いがとても怖い。
しばらく飛んでいた立花は機体をホバリングさせ、ドアを開ける。そこは一番内側のネットだった。ここには殺蟲効果のある木が柱になっている。立花はその枝を取ってドアを閉める。
そして木の近くに機体を停める。
「立花さま……スパイダーは無事なんですか?」
「さあ?」
紫雲英の質問に適当に答えた立花は機体の端末で何か調べている。
「通信出来るんですか?」
「いや、もう電波障害が始まってる。これは入れておいたデータ」
立花は周辺の最新データを大量に入れておくので、こういう時でも大丈夫なのだ。しかし今から向かう街の情報は放棄される以前、三十年前の物だ。あまり信用出来ない。
「どんな建物なら残ってるかな?」
「領主の屋敷に決まってるでしょう? 領主ってのは自分の身だけは守るんでから」
「だよなぁ……でもストームだし、地下の方がいいよな?」
「水が来ないならね」
「……水かぁ」
浸水はもちろん恐ろしいが水とともに魚が来ると最悪になる。
「分かった。領主の屋敷に行こう」
立花はそう宣言すると機体を飛ばす。大分風が強くなっている。今回のストームはカテゴリーは3だが範囲が広い。丸一日は足止めされるだろう。少しでも安全な所を見つけたい。
元市街地らしき場所は木造の家が朽ち果て、植物に侵食されていた。そんな中で道や一部の建物だけが原型をとどめている。そして風の音と舞い散る木の葉が廃墟の色を強める。
「立花様! あそこ蟲!!」
「煩い。分かってる」
ぎゃーぎゃー煩い紫雲英にイライラしながらも立花は器用に蟲を避けながら領主の屋敷を目指す。
「立花さま……ここ変な蟲多くないですか?」
「……芹の話だと、なんか条件を満たすと蟲は食べた物の特徴を再現出来るらしい……」
芹とは立花の部下のマッドサイエンティストだ。
「どういう意味ですか?」
「だから……チキンを食べたらチキンみたいになるんだろ……」
「う〜ぁ〜……えっ? じゃあ人間が食べたられたら人間みたいになるんですか?」
「……人間は無理みたいだったって言ってた……」
「はっ? 試したんですか?」
「詳しくは聞いてないけど、死体ぐらいならやりかねない……」
「こえぇ〜立花様の部下怖ぇ〜」
「……芹は本物だから、ハニーキラーって知ってるか?」
「あの厳つい男ばかり狙う伝説の殺人鬼ですか? 犯人も被害者も見つかってないんですよね?」
「うん……よく知ってるな」
「まぁ、ね……。
あっ見えましたよ!あれが領主の屋敷じゃないですか!!」
紫雲英は強引に話題を変えた。




