17 旅は道連れ
「どうすればいい?」
「街を出ましょう」
立花の問いに男は迷わず言う。
「分かった……」
そして立花の機体は安全圏の外側へと向かい、境界の辺りで機体を下ろした立花は後部座席を振り返る。
そこには目立たない格好をした天然パーマの男がヘラヘラ笑っている。
「ありがとう、助かった……」
立花が礼を言うと男はニコッと笑って立花を乱暴に撫でる。
「いいから降りろよ」
「えっ!」
「え、じゃなくて、ついてくる気か?」
「一人で行く気ですか? 死にますよ?」
「何でお前が一緒だと死なないんだよ!」
「いやいやいやいや、だって立花様弱いじゃないですか?」
「蟲相手なら人間はみんな弱いだろ!」
「はぁ〜」
男はわざとらしくため息をつく。
「いいですか立花様? 俺あんたに死なれると困るんですよ、いろいろと」
「そうだとしても自分が死ぬよりいいだろ?」
「そうでもないです」
「えっ?」
「金がないなら生きてても仕方ないです」
「ああ、そういうことか、じゃあ、礼はするから名前を教えろ」
「紫雲英です」
「へっ?」
聞いておいて教えてもらえると思っていなかった立花は聞き返してしまう。
しかし出身地の分かりづらい名前だ。レオモレア周辺なら植物、東なら天気や時間、北なら生き物といった風に名前には出身地の特徴があるのだが紫雲英は全てにありそうな名前だった。一級品の偽名と言えるだろう。
「げ、ん、げ。よろしくお願いしますね~」
言いながら紫雲英は勝手に立花の手を取り、握手する。
「分かった、礼はするようにしておくから」
「立花様から直接貰いますから」
「本気なのか?」
「はい。俺の任務、立花様を守れってのなので!」
「じゃあ……よろしくお願いします……」
面倒くさくなってきた立花が了承すると、紫雲英は立花の服の襟を猫のように掴んで引っ張り、後部座席に座らせる。立花は安心して気が抜けたらクタクタになっていたので無抵抗だ。
「よく頑張りましたね、ヨシヨシ」
立花の頭を撫でた紫雲英は操縦席に座る。
「何処に向かいます?」
「帰るしかないんだろ?」
「まぁねぇ……でも直行って……」
「だから死にたくないならついてくるなって言ってる……」
「あれ……立花様……この通知、なんですか?」
紫雲英が恐ろしいものに気づいた様子で言う。
「ストーム警報……」
「……どんだけついてないんですか?」
「俺が知るか……」
「あーあ~、じゃあ、行きますよ」
紫雲英はゆっくりと機体を動かす。
立花は疲れたような息をつく。
怖かった……、守らなければならない人が一緒にいると言うだけで、一人の時の何倍も怖かった……、もう気が抜けて力が入らないし、ものすごく眠い。
▽▲▽
疲れ切って眠ってしまった立花の様子を見て紫雲英は微笑む。立花は変わっている。初めて顔を見せたのは立花がこの旅の準備をしている時だった。
一度完全に巻かれて、後のない紫雲英は立花に話しかけてみた。
こちらはとてもよく知っているが、立花は紫雲英の事は何も知らない。どんな反応をするだろうと楽しみにして、機体を弄っている立花に近づく。側にいたロブが紫雲英を見るが、ロブは紫雲英の存在を認識しているのでチラリと視線を向けただけですぐに興味を失う。
手が届く距離まで近づいて立花を観察するが、しゃがんで作業している立花は全く気がつかない。
しばらくして、工具を取ろうとした立花がこちらを向き……紫雲英を見て驚いて尻餅をつく。
「これですか?」
紫雲英は立花が取ろうとしていた工具を差し出して言う。
「ああ……ありがとう……だ、誰?」
「いつもお世話になってる者です〜。で、立花様今度は何処に行くんですか?」
「えっ?」
「前回みたいに消えられると困るんですよ〜」
紫雲英の勢いに押された立花は目的地とルートを教えてくれた。礼を言って帰る紫雲英を見送った立花はロブに何か抗議している様子だった。
本当に変わっている。紫雲英は闇の者と言われる暗い仕事を生業としている。大抵の人は闇に偏見があるので姿を見せると嫌な顔をされる。もちろん礼など言われた事がない。
名前を聞かれたのも礼を言われたのも初めてだ。こうなったら是非立花に名前を呼んで貰わねばならない。紫雲英は謎の決意を胸に立花の操縦し難い機体を飛ばした。




