物騒なスキンシップ
服を咥えたロブに引きずられて走る棗は、祈るような気持ちで人を探していた。
誰か、お願い立花様を助けて!
棗自身がどうにか出来れば良かったのだが、相手は恐らく闇の者と言われるプロだ。棗が割り込もうとすれば直ぐに立花を殺していただろう。立花が鍔迫り合いなどできたのは、ただ相手が本気でなかったからに過ぎない。
あれは完全に立花をなぶって楽しんでいた。棗に視線を向けてきたのも立花に対する牽制だろう。
足手まといにしかなっていない。悔しくて情けなくて涙が出て来る。何が宗家の威信にかけて、だ。守られたのは棗の方だ。不甲斐ない自分をありとあらゆる言葉で罵っていると立花の移動機が飛んでいく。
「立花様……」
よかった。少なくとも移動機を操縦できる状態ではあるらしい。棗が涙目で飛んでいる移動機を見ていると、突然街の方から砲撃があった。
立花の機体は砲撃を躱して飛び去って行くが、それでも砲撃は続く。
棗は全身の血が冷たくなるのを感じた。
舐めた真似を……。
人知れずつぶやいた棗は怒りで冷静になった頭で考え、それから端末で複数の相手を呼び出す。
まずは街の警邏だ。
「今砲撃している奴を捕まえて」
『了解です、お嬢!』
「いろいろ喋ってもらわないとだから、よろしくね」
棗は言うだけ言うと、次に父に連絡する。
『棗か、これは何事だ?』
「ごめんなさいお父さん。立花様が襲われて、移動機で街を出て行きました」
『立花君は大丈夫か?』
「分かりません。呼び出してますが応答はないです……」
『分かった。ひとまず帰って来なさい』
「はい」
そして最後が鬱金だ。
『棗さん? どうしました? お家に着きましたか?』
「はい……ごめんなさい鬱金様……立花様襲われて、今移動機で街を出て行って……」
『襲われた?』
「はい……」
『分かりました。他の人にも連絡しましょう』
「ありがとうございます……」
棗は話しながらも走り続けて家に戻って来た。
「ごめんね、ロブちゃん。立花様のこと心配でしょう? 頑張って助けるから……」
棗がかがみ込んでロブを撫でながら言うと、ロブは棗を慰めるようにすり寄ってくる。
「ありがとう……」
そしてロブを連れた棗が家に入ると街の主だった人と家族が揃っていた。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんが、力を貸して下さい!」
棗が頼むと皆笑ってくれる。
「宴の余興にはいいですわい」
「思う存分暴れてやります!」
屈強な男達は発言も物騒だった。
通信は鬱金、海棠、それから兄の蘇芳とつながっている。
棗が落ち着くのを確認した父が静かに話し始める。
「では、始めようか。初めましての方もおられるが挨拶は直接お会いした時にでもさせて頂くとして、棗説明しなさい」
「はい」
棗は簡単にこれまでの経緯を立花の手配書の件から先程移動機を見送るまでを話した。
『立花は無事かな?』
海棠が難しい顔で言う。
「……分かりませんが、立花様だけでは敵からは逃げられないと思います」
棗も半信半疑だ。
『鬱金さん。可能性として、ありそうですか?』
『立花様には監視が付いてますから……もしかするかもしれませんね』
「何のことですか?」
『誰か助けに入ってくれたんじゃないかってことです』
「本当ですか! でも監視って……」
『大人の事情でいろいろあるんですよ。襲撃がどこの勢力か分かりませんが、それに敵対している所もありますし立花様の評価は国外の方が高いので守ってくれる監視が居てもおかしくない……』
『問題はこれからですよね』
海棠の声は厳しい。
『あいつの事だから他に被害がいかない様に領地に戻ろうとするでしょうね〜』
「何が問題なんですか?」
『ん〜まずストームが来てる。あとはルートだな』
「確かにここから直接行くとなると、あそこを通るしかないからな」
父も難しい顔をしている。
「あそこってなんですか?」
「昔は街があったんだが、三十年ぐらい前に蟲にやられてな。今は誰も近づかない……蟲の巣窟だろう」
「……立花様はそんな所に行く気ですか? 他の街には寄らないんですか?」
『可能性はなくもないけど、襲撃側もこの情報は知ってるだろうし……手を回してるだろうから、立花は避けるんじゃないかな?』
「どっちが安全なんですか?」
『人によるだろうね、鬱金さんならどっちにしますか?』
棗の質問に答えた海棠は鬱金に尋ねる。
「……蟲、ですかね?」
「お父さんは?」
気になったので棗も他の人に聞いてみる。
「私は街に行くな」
「海棠様は?」
『俺は街』
「兄さんは、街ですね」
『いや、そうだけど……』
「……どういう人は蟲の方が安全なんですか?」
『蟲に関する知識があって、操縦が上手いこと。あとは対人が弱いなら蟲の方でしょう』
鬱金が言う。
「じゃあ立花様は蟲ですか?」
『そうだね』
海棠は頷く。
「……私に何が出来ますか?」
『……仕掛けてみる?』
海棠が悪い顔をしていう。
「はい。お礼はきっちりさせて頂きます……」
棗の言葉に海棠と鬱金が笑う。
『立花様は自分に任せて下さい。領内なら何とでもなります』
鬱金が言う。
『そうですね、立花には自分で領地まで戻ってもらって、そこからは鬱金さんに回収を頼むと……じゃあ俺は本体を攻撃しますか、棗さんは敵の牽制をお願い出来ますか?』
「もちろんです!」
海棠に棗が答える。
『手配書の方は任せて欲しい』
蘇芳がいう。
『元々治安維持は俺の仕事だし、拳紋の力を使えば早い』
「兄さん……ありがとう……」
『うん。父さんはどうしますか?』
「そうだなぁ、何処か戦力のいる所はないのか?」
『それなら棗さんとパウロニアに来てもらえませんか? 戦闘にはならなくても脅しにはなります』
海棠が言う。
「パウロニアかぁ……お前行くか?」
父は姉に向かっていう。
「もちろん。お父さんはここで指示を」
「……そうだな。一門に声を掛けよう」
『……なんか凄いことになって来ましたね……大陸中が騒ぎになりますよ?』
海棠は少し引き始める。
「うむ。日頃の鍛錬は活かさねばな!」
父の声に一門が答える。
拳紋の人々の迫力に鬱金と海棠は少し怖くなっていた。




