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15 宗家の威信にかけて

 棗は深夜に帰ってきた父と母とで朝食ををとっていた。父に立花の話をしていないので立花は一人で街に行っている。


「棗が結婚!」

 母から初めて話を聞いたらしい父は大変驚いた様子だ。蘇芳を一回り小さくした様な体格だが、威厳のある佇まいの父が動揺している。


「ああ、そうか……婚約が破談になったからどうしようかと思っていたが……そうか……それはよかった」

「会って差し上げるんですか?」

 母は念のためといった感じで確認する。


「当たり前だろう。礼を言わなければだな。どんな人はなんだ?」

「立花君ですよ」

「たちばな?」

「ほら、蘇芳が感じ悪いって言っていた子狐の子です」


 父には立花の予備知識が一切ないらしい。仕方がないので棗が説明する。


「パウロニア城で文官をしていて、今は領主です」

「元はどんなうちなんだ?」

「一応商家の生まれです……。子供頃に施設に預けられたそうですが……」

「そうなのか……苦労したんだろうなぁ、いい子じゃないか」

 棗の父には貧しいお家のかわいそうな子というイメージが出来上がったようだ。


 三人で話していると、足音を響かせて棗の姉が現れた。

「棗、結婚するんですって?」


 父と大変よく似た姉は顔を見せた途端にいう。

「あらあら、いらっしゃい。貴女もご飯食べる?」

 母が落ち着いて席を勧めると姉は棗の正面に座わり、とりあえず朝食を食べる。


「相手が立花って本当なの?」

 姉は噂が信じられない様子で棗に聞く。

「はい……」

「大丈夫なの?」

「何が?」

「だって、立花って、感じ悪いんでしょう?」

「まぁ、でも人によります」

「棗には感じ悪くないの?」

「えーと……よく笑われるけど……」

「どこがいいのよ、そんな奴」

「とりあえず、会って貰えると……」


「そうよ、普通にいい子だったわよ? 棗の事が面白いんですって」

 母がいう。

「棗のどこが面白いの?」

「さあ? 困った子だとは思うけど、面白さはよく分からないわねぇ」


「それに、向こうはどうなの? 棗なのよ? 面白いで何とかなるの? 棗猫被ってたとかじゃないのよね? それとも強引に言い寄ったの?」

「だから、会って本人に聞いてって……」


「何だ、立花君はあまり評判が良くないのか?」

 父はようやく立花の評判まで気が回った様だ。

「まあ、そうですね。子狐って言われてるぐらいですし」

「子狐……? 狐じゃないのか?」

「狐では、ないですね」

「うーん。よく分からん、とりあえず夕飯に呼んでくれ」

「ありがとうございます」


 こうして棗の居た堪れない朝食は終わった。自分が家族からどう思われているのか分かって何だがとても嫌な気分だ。


 とにかく結果を報告しようと立花の端末に連絡するが、一向に呼び出しに応じない。仕方なく探しに行くと立花は珍しく目立っていたようで、すぐに分かった。

 人に教えてもらった馬術の施設を訪ねると立花はおじいちゃんと言ってもいい様な年齢の男達と楽しげに話している。


「立花様!」

「あっ、棗、どうした? 終わったのか?」

「お嬢、いらっしゃい」

「お邪魔します……」

 ここは初めての棗だが向こうは棗の顔を知っているらしい。


「あれ? お嬢が連れてきた男ってのは立花君だったのかい?」

「はい……それで何してたんですか?」

 驚いた様子のおじいさんに棗が答える。

「機体のメンテだけど?」

「お嬢、立花君は凄いですよ! いい人を選びましたね」

「そんなことないです! 立花様は呼んでも気づいてくれません!」

 棗に言われて立花はようやく腕の端末に通知が来ているのに気づいた様だ。


「ごめん。全然気づかなかった」

「もういいですけど、ご飯食べましたか?」

「ご飯?」

「もうお昼なんですよ!」

 棗に言われるまでここの人達は全く気づいていなかったらしい。


「お弁当作って来ましたから、皆さんで食べましょう?」

 棗は初めから立花が一人でご飯を食べているとは思っていなかったので用意していた。メイドに渡された棗一家の二人前は、ここにいる一般的な大人五、六人分になる。


「立花様、父が夕食に招待してくれましたよ」

「へぇ〜、よかった〜」

「本当に思ってます?」

「うん。思ってる。棗のお父さん会ってみたかったから」

「ああ、そういう事ですか」

 カッコイイ大人に憧れているだけの様子の立花に棗少しガッカリした。


 そして機体のメンテを終えた立花は馬術の本を借りて二人で家に戻る。


「ここは凄いよ。何千年も前からの資料らしいよ。信じられない」

「喜んで下さって何よりです……」

 その後も立花は色々説明してくれたが、棗にはさっぱり分からなかった。



 その後立花は棗の部屋で借りて来た本を読み始める。棗が気を引こうと色々するが全く相手にされない。素晴らしい集中力だ。

 棗は諦めて立花の背中にピッタリくっ付いてため息をつく。こうなったら立花に嫌がられるまでじっくり観察してやると、立花の顔を凝視していた。


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