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拳紋


 その頃門下生の間では棗の噂で持ち切りだった。拳紋宗家でも最終兵器と呼ばれた棗は一目置かれていたが、才能を活かさず侍女になったため現在では多少異端視されている。


「おい! お嬢が男連れで帰ってきたらしいぞ!」

 厳しい男が息を切らせて駆け込んでくる。稽古場に居た人達は一瞬男に注目するがほとんどがすぐに稽古を再開する。


「聞いてるわよ。煩いわね、小さなヒョロイ男だったんでしょう? お嬢は昔からインテリ好きだったじゃない」

 中の一人の女が言う。

「お前見たのか?」

「まだ見てないけど、みんな言ってるわよ? あんた遅いんじゃない?」

「でも、でも見てないんだろ! 街にいるらしいから見に行こう!」

「えー面倒じゃない…… 一人で行ってきなさいよ……」

「いいだろ! みんな行こう!」

 結局男の言葉で棗の稽古仲間だった三人が街に行く事になった。



 棗は例の男に街を案内しているらしい。街の繁華街で棗を見つけた一同は思わず路地に隠れて様子を伺う。

 棗が手を引いて歩いているのは猟師の格好をした若い男だ。


「あれか? お嬢より若くないか?」

「多分……なんかひ弱で幸薄そうね……」

「でも、お嬢めっちゃ嬉しそうですね……」

 三人は棗と立花の様子を観察する。



 男は店の商品に興味津々で、棗は先を急ごうとしているらしい。


「あれは何?」

「籠手……」

「あっちは?」

「肘当て……ってなんで尾花様と同じ事聞くんですか!」

「兄さんも聞いてたの? まぁ見た事ないし……」

「いいから! もっと見るところがあるんです。こればっかりじゃないんです!」

「え〜ここ面白いのに……」


 棗は立花を引っ張って三人の前を通り過ぎて行く。



「ええっ! 何あれ? 超可愛い……」

「えっ? お嬢が?」

「違う! 相手の方よ! 見てなかったの?」

「いやぁ。普通だったと思うけど……なぁ?」

 男がもう一人の男に聞くと、相手も頷く。


「もう! もっとよく見なさいよ! 何しに来たのよ!」

「でも男で可愛くても……」

「誰なの? 名前聞いてないの?」

「誰か立花って言ってたんだけど……」

「立花ってあの子狐? 何処が?」

「いや、噂だから」


 棗が立花を連れてきたという話はあまり信憑性のない話としていつの間にか消えて行った。




  ▽▲▽




 翌日、棗は家族会議があるからという事で、立花はロブを連れて一人で街を観光していた。


 まずは一番門下生の多い空拳の稽古を見学する。

 素手で戦う空拳は男女比が半々の珍しい科目らしい。涼しげな格好の女性が型の練習をしている姿は、体育会系女子の脚が好きな立花には喜ばしい。

 眼福でございます〜と眺めていると偉そうなおじさんが近づいてくる。


「坊主どうした、見学か?」

「はい……ここは女の人が多いですね。」

「まあなぁ。ほとんどが婿探しに来てるやる気のない連中だ」

「婿探し?」

「ああ、商家の跡取りは婿が大事だろう? ここの男は安心できるからってやってくるんだよ……」

 困ったものだとおじさんはいう。


「なるほど、確かにここの人は根性ありそうですし、強い方が安心ですもんね……」

「まぁ。残念な理由だが女っ気があるとやる気が出るしなぁ、坊主も興味あるか?」

 いやぁ〜、と立花は曖昧に笑って誤魔化し、組手が始まると逃げる様に次の場所に向かった。




 ショウリンの街は武具や武装の店が多く、立花の知らない物が沢山有って面白い。昨日は棗に引き摺られてよく見れなかった街を眺めながら、立花は機体のメンテの為にパーツ屋を探していた。


 色々な街に出入りしている立花はなんとなく何処にどんな店が集まっているか分かるのだが、この街は立花の勘が働かず見つける事が出来ない。

 自力で探すことを諦めた立花は誰かに聞いてみようと思うが、なかなか話し掛け易い人が見つからず、ひとまず気になっている店に入ってみる事にした。


 看板には馬術、と書いてあるがこの星には馬などいない。ユニコーンやペガサス並みの存在だ。何の店か想像もつかないので恐る恐る入ってみると、商品棚とカウンターのある店内には立花が探しているものが並んでいた。


「すみません。これください」

「あいよ」

 立花がパーツを差し出すと店員は手早く会計をしてくれる。

「あの、ここって何で馬術って名前なんですか?」

「ああ? 股がるからに決まってるだろ? 股がって乗る物は全部馬なんだよ」

「へぇ……だから馬術? 普通のパーツ屋と違うんですか?」

「当たり前だろう! 母星時代からの歴史があるんだよ!」

「歴史、ですか?」


 店員の話によると拳紋は武術に関わらず、術や道がつく分野なら芸術から香道まで学ぶ事が出来る芸事のタイムカプセルのようなものらしい。拳紋についてほとんど何も知らなかった立花は改めて棗の家に驚いた。



 そして立花は店員の勧めで馬術の施設を訪ねた。この街には珍しく小柄なおじいさんが数人いたそこで、立花は馬術の話を聞きながら自分の機体のメンテをした。半分くらい独学の立花にはとても楽しく、時間を忘れて夢中になった。


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