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拳紋

 棗が立花の元に戻ると立花は肩を震わせていた。嫌な予感がした棗が声をかけると、一緒に居た門下生が慌てて去って行く。そして振り向いた立花は涙目だ。


「立花様?」

「何? もう終わったの?」

「父は今日いないそうです」

「そっか、次はどうするの?」

「まだ考えてませんけど……何笑ってたんですか?」

「えっと、昔の話を聞いて……」

「誰の昔の話ですか?」

「それは……棗の……」

 それを聞いた棗は去って行った門下生の背中を睨む。


「面白いね〜棗本当に十人抜きしたの?」

「あれは……たまたまです」

「本当なんだ……」

 立花は堪えきれずに笑い出す。


「子供の頃の話だし、ちょっとイライラしてたんです」

「いや、それで大人を病院送りって凄すぎ」

「もう、いいじゃないですか!」

「うん、ごめんごめん」

 立花が棗の機嫌を取っていると母が戻ってきた。


「貴方達今日は何処に泊まるの?」

 立花は棗を見る。

「まだ決めてません」

「そう、部屋を用意しますから良かったらどうぞ」

「ありがとうございます。あの、犬連れて来てもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます」

 ロブの滞在許可ももらった立花は棗と一緒に街を見てくるらしい。


 母は改めて立花を見て思う、うちの娘面食いだったんだわ、と。立花はイカツイ格好でも爽やかだ。体格は頼りない気がするが筋肉嫌いの棗には好ましいのかも知れない。

 そして何よりも二人で話している姿が微笑ましい。


「ねぇ立花君、本当に棗でいいの?」

「はい。棗さんは面白いです」

「そう、面白いの。」

「はい」

 立花が嬉しそうに微笑むので母は少し安心した。




  ▽▲▽




 棗には立花がロブを迎えに行っている間に終わらせなければならない事があった。そう、部屋の片付けである。

 掃除は行き届いているのだが立花に見られたくないものがある。幻想写真はあれから増えているが仕方ない。立花はモデルが自分だと気付いていないから大丈夫だろう。

 問題は城を去る時に友達がくれた狐のぬいぐるみと城内で密かに出回っている立花の隠し撮り写真だ。こんなものをプレゼントされるということは今になって思えば棗の立花に対する好意はバレバレだったのだろう。


 しかし写真というのは恐ろしい魔力のあるものだ。片付けるはずがつい見入ってしまい。立花から通信があるまですっかり夢中になっていた。慌てて適当な引き出しにしまい、立花を迎えに行く。




 棗の家は飾り気の無い和風の作りで、立花の領地の石造の家に棗が感激していた理由が立花にもなんとなく分かった。

 そして通された棗の部屋は一言で言えばアンバランスだった。和風の部屋にファンシーな家具をなんとか馴染ませようとしているようだ。一番異彩を放っているのは天蓋付きのベットだろう。


「棗は本当に可愛いものが好きなんだな」

 立花は飾られたぬいぐるみや化粧品の瓶を見ながら言う。幸いなことに他にもぬいぐるみが多くあり、狐はそこまで目立っていない。


「そうですか? 普通ですよ」

「ふーん。それよりいつまでここにいる?」

「もう帰りたいんですか?」

「そうじゃないけど、帰りの準備があるから、出来れば機体のメンテとかしたい」

「ああ、そういうことですか……特に用事もないし、ゆっくりしていけばいいのでは? それより立花様、本当に部屋はあれでいいんですか? ここでもいいんですよ?」

「大丈夫。狭い方が落ち着く」

 母が立花に用意したのは門下生が滞在する時に使うベットしかない部屋だった。


「じゃあ、街に行こう」

 立花は棗を促して出掛ける。正直棗は気が進まなかった。



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