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歌姫の詠嘆曲《アリア》

 棗の独断と偏見で部屋は和室にした。温泉らしく、湯上がり浴衣美人ぶりをアピールしようと棗が勇んで部屋に戻るが、立花は早くも布団を被っていた。


「今日はご機嫌斜めですね」

「だって棗が……」

「でもいつもはこんなに怒りませんよね?」

 立花は布団から目から上だけを出して棗を見上げる。


「だって行きたくなくなるから……」

「行きたくないんですか? うちの親は怖くはないですよ?」

「ん〜俺家族って苦手なんだよなぁ……」

 立花は寝返りをうって棗に背を向ける。


「ずっと聞きたかったんですけど、どうして立花様は学園に預けられたんですか?」

 学園に預けられたということは、親に捨てられるようなものだ。立花の家は裕福なのにと、ずっと不思議だった。


「俺が兄さんを外に連れ出した所為で兄さんが死にかけたから」

「……そんな……」

「元々父親は俺のことは無い物として扱ってたし、兄さんに会わせてもらえなくてずっと泣いてたから鬱陶しかったんだろ」

 立花の父親の記憶はいつも背中だ。声を聞いた覚えすらほとんどない。


「ひどい……」

「そうでもないと思うけど? 俺あのまま家にいたら大人になってないだろうし」

 立花の声は無感情だが、棗は切なくなった。


「嫌なこと話してくれて、ありがとうございます」

「いいよ別に、あんま覚えてないし」

「棗も、嫌なこと話します!」

 棗が立花の背中に向かって真剣に言うと立花は笑いながら起き上がった。

 浴衣姿の立花の色気は、棗の浴衣美人にダブルスコアで勝っている。完敗だ。


「どんな話?」

 立花は穏やかに笑っている。

「棗は、子供の頃は兄より少し、強かったんです」




 一つ違いの兄妹は武術の稽古は大体まとめて一緒にさせられた。棗はどんな物でも比較的器用にこなせたが、兄は不器用でいつも妹と比べられて落ち込んでいた。一応跡取りというプレッシャーもあったのかもしれない。


 兄が十才になると色々な跡取りとしての儀式が始まるのだが、その手始めの試合で棗は兄に勝ってしまった。それが兄のプライドを傷つけたらしく、兄は目も当てられないほどの癇癪を起こした。その時に女のくせにとか色々言われた棗はとても傷ついた。




「私も悪いことしたなって思ってたんです。だから言い返せなくて、それに……。兄は頑張ってました、棗よりずっと頑張ってたのに……」

 棗はその時のことを思い出して涙が出てくる。


「なんで勝ったんだろうって思ったんです。別に勝ちたくなかったし、兄が負ける所も見たくなかった……。勝ってもいいことなんて何もないし、でも負けると悔しいし……だから棗は勝負事が嫌いです。立花様はそういうの気にならないんですか?」


「勝ち負けってこと?」

「それもありますけど、女に負けるなんて嫌でしょう?」

 立花は考えるように瞬きを繰り返してからいう。


「えっと、女でも男でも負けるのは気にならないかなぁ。あんまり勝ちたいって思ったことないし。でも出し抜かれるのは嫌だし、ああ、自分の自信のある事は負けるの嫌かも。

 う〜ん。俺あんまり男が強い分野得意じゃないから、だから女の人で男よりも剣が強かったりするのはすごいと思う。その……努力的なものが」

 立花が一生懸命考えて話してくれているので棗は嬉しかった。


「棗みたいの嫌じゃないですか?」

「全然。むしろ実戦で発揮して欲しいぐらい」

「それはいや……」

 棗は言いながら立花に抱きついた。実はずっと不安だった。


「むしろ羨ましいよ。俺もカッコイイって言われてみたい……」

 立花は嘆息するように言う。

「立花様はカッコイイです」

「嘘が雑……」


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