ONLY ALIVE
軽やかに走っていた立花は人混みに紛れると突然細い路地に入って立止まる。
「どうしたんですか?」
立花は棗の質問に答えないまま棗を自分の陰に隠し、耳元で囁く。
「つけられてます……」
「うそっ……」
「手配書の所為ですね。あの店に入る前からついてきてたヤツらです。もう少し走れます?」
立花は棗に例の魔女の様なコートを着せながらいう。
「大丈夫なんですか?」
「俺は慣れてますから、もしはぐれたら一人で帰って下さいね」
尾行にも追われる事にも慣れていない棗は泣きそうになってくる。立花はその様子を見て苦笑すると短剣を棗に渡す。
「武器持ってませんよね?」
「嫌です……」
「念のためですから。お上手なんでしょう?」
立花は棗のコートの袖にある専用の収納ポケットに短剣をしまう。
「実用的でしょう?」
棗は不満そうな顔をするが立花は棗を支えるように腰に手を添えて走り出した。
「なんでそんなに余裕なんですか?」
「俺、逃げるのは得意なんですよ。ロブがいないから微妙ですけどね」
立花は裏路地や大通りを縦横無尽に走るので棗はここがどこか分からない。
「今置いて行かれたら迷子になります……」
「姫さんは追われてないんだから、誰かに道を聞けばいいでしょう」
「この雨でどこに人がいるんですか!」
コートの棗はまだいいが、ジャケットの立花はすっかり雨に濡れている。叩きつけるような雨の中、普通の人は雨宿りをしていて外にはいない。
「そうですねぇ。困りましたねぇ」
立花は全く困った様子もなく突然扉を開けて建物の中に入ると、そこは泊まっているホテルのレストランだった。中途半端な時間で客はいない。
「すいません。ちょっといいですか?」
立花はここの店のマスターに何かの確認を取る。
「おやおや、ずぶ濡れじゃないか」
「ちょっとの間でいいんで、連れ見てて貰えませんか?」
「分かった」
マスターはいいながら棗にタオルを渡してくれる。
立花はそのまま入り口の壁に張り付いていると、足音と共に数人の男達が入ってくる。棗は男達を睨みながら見えないように短剣を握りしめる。
「いらっしゃい」
マスターが心無い挨拶をしていると立花は男達の後ろから話しかけるが、棗の所まで声は聞こえない。
「頼もしいな。あんたのお連れさんは」
マスターは立花を眺めながらいう。前の村の女将さんもそうだが何故か立花の評価は高い。
「何話してるんでしょう?」
「あんたら訳ありだろう? お嬢さんには聞かせたくない話もあるのさ」
「えっわけあり……?」
「あーあー言わなくてもいいよ。勝手にこっちが思ってるだけだから。でも若いねぇ、かけ落ちなんて羨ましいよ」
「かけ落ち……?」
マスターは訳知り顔で言っているが、全くの誤解だ。どこでそんな話になったのか棗には全く分からない。
棗が困惑しながら立花を見守っていると、最初は物騒な様子だった男達は何故か和やかに立花と話しながら店を出て行く。
棗の元までやって来た立花はマスターに礼をいう。
「何したんですか?」
「ん〜交渉?」
「気をつけろよ〜」
マスターは何故か嬉しそうにいう。すると立花は自分の手配書をマスターに見せる。
「俺こいつに似てます?」
「ん〜?」
立花は眼鏡をとってマスターに顔を晒す。
「いやぁ。似てないと思うけどね〜どうしたんだい、この子?」
「知りませんよ。ただ懸賞金付いてて、俺間違われてるみたいで……」
「なるほどね。でも兄ちゃんの方がずっと男前なのになぁ。この女みたいな子は偉いさんから逃げ出してきたとかなんだろうなぁ」
「なんですかそれ? そんな偉いさんがいるんですか?」
「まぁ噂だけど、ここの領主夫婦は美少年が好きらしくてなぁ……」
立花は、うぁ〜と言う顔の後、礼をして話を終わらせる。




