ONLY ALIVE
立花は少し大きめの黒縁眼鏡越しに潤んだ瞳で棗を見つめる。
「ダメです」
その言葉に視線を落として少し切なそうな表情で答える立花には色香が漂っている。実にあざとい。
「ダメなものはダメ」
それでも立花は諦めずに棗の口元に料理を運ぶ。棗はため息ををつきながらその料理を食べた。甘酸っぱい果実のソースがかかった肉料理は美味しい。
「美味しい?」
立花が恐る恐る聞くので棗が厳かに頷くと、とても嬉しいそうに空になった棗の皿と半分残った自分の皿を交換する。
「そんなに甘くないのに……」
「いやぁ。食欲が削れます……」
一口食べてテンションが下がった立花には半分が限界だったらしい。サラダを頬張って口直しをしている。
「ここ女の人ばっかりですよね?」
立花の言う通りこの街で大人気のフルーツ料理の店は外観も料理もフェミニン一色だ。男性はさぞかし居づらいことだろう。
「恥ずかしいんですか?」
しかし棗の目の前の男は全く違和感なく馴染んでいる。
大体立花は人から可愛いと言われるのを嫌がる癖に、自分で可愛いアピールをする事に抵抗がなさそうなのは矛盾していると思う。
「別に……ただ甘いだけです……」
「この後デザートもきますから」
立花は表情を硬くしていた。
結局デザートは食べなかった立花は甘い匂いに耐えかねて外で待っている事になり、棗が支払いなどを済ませて店の外に出ると、立花は数人の女性に囲まれていた。
やってしまったと棗はようやく気がついた。地味な立花に自分好みの格好をさせて、目立たせてしまったらしい。先程の視線は眼鏡立花に見惚れていたのだ。
「お兄さんどこから来たの?」
「この街は初めて?」
立花は口々に投げかけられる質問に実に迷惑そうな表情で答えている。そして棗の姿を見つけるとホッとした様子で近づいてきて棗の手を取る。
「いいんですか?」
「早く行こう……」
立花は敬語を忘れるくらい急いで店を後にする。棗に注ぐ嫉妬と羨ましそうな視線が気持ちいい。
「本当に女嫌いなんですね。普通喜びますよね?」
「どこが? あんなこと話して何の意味があるんだよ……」
「話すこと自体が目的なので、内容は割とどうでもいいのです。女将さんともそんな話してたでしょう?」
「あれは情報収集ですよね?」
「仕事のことならいいんですか?」
「目的がはっきり分かればいいんです」
棗にはさっきの女性達も立花とお近づきになりたいというはっきりした目的がある様に思えるのだが立花は違うらしい。
「んー? おばさんは良くてお姉さんはダメなんですか?」
「それ自己申告以外で分けると揉めるやつですね……」
立花は怯えた様子だった。過去に何かやらかしているのだろう。
それからしばらく歩くと立花は空を見上げる。
「降ってきましたね」
棗は気がつかなかったが、雨が降り出したらしい。雨期の雨は突然で激しい。
「走りますよ」
立花はそう言って棗の手を引いて走り出す。しかし棗の足元は走り難かった。




