我輩は犬である
ピンクばかりと思えば些細なことで喧嘩をする。今日は移動機の中で立花の呼び名で揉めているのである。
「何で二人なのに名前呼ぶんだよ? 名前言わなくても分かるだろ?」
「だって、つい……」
「じゃあ何か呼びやすいの考えろよ……俺はもうあんなバカップル扱いされるの嫌だ」
「う〜何がいいですか?」
「知らないよ、棗が呼ばなきゃ意味ないからな!」
立花は珍しく色が見えるほど怒っているのである。よっぽどそのバカップルが嫌らしいのである。
「そうですね〜、じゃあ、よっ……じゃなくて、フェ……じゃなくて、子狐ちゃん……? でもロブちゃんと被りますね、じゃあ……カブ君!」
「…………」
立花は棗を見ようともしない。
「ダメですか?」
「いいよ、それで間違わないなら何でもいい……」
立花は疲れた声で答えたのである。でもカブとロブ似てるのである。間違わないで欲しいのである。
それから我輩達は二つ目の街に着いた。そこはふんわり美味しい匂いのするいいところだった。立花は夜通し操縦していたのでとても眠そうだったが、晴れてる内にと棗を連れて果樹園に来たのである。
花の香りに包まれたそこは色とりどりの花が咲いているらしいのである。我輩には花の色は良く分からないがいろんな甘い匂いがしていたのである。
「すごい……」
感動して涙ぐんでいる棗見て立花は満足そうだ。
「花はこの時期が一番らしいです。ここは白とピンクだけど、あっちは青い花で綺麗でしょう?」
「はい……」
いろんな種類の花が咲き乱れる果樹園は風が吹くと花びらが散って楽しい。
我輩が嬉しくなって走り出そうとしたら立花に呼ばれる。低くてはっきりした声はダメの声だ。見上げると立花は我輩を見ていう。
「この木にはご飯になる実がなるんだ。だから穴掘りはダメ。分かったか?」
そうか、ご飯か、では仕方ないのである。穴掘りよりご飯が大事なのである。
我輩が大人しくしていると立花は適当な芝生に横になる。眠そうな立花はそこら中に咲き乱れる花を見るのにクルクル回っている棗を見て嬉しそうなのである。
雨期の晴れ間の気持ち良さで眠気に勝てなくなったらしい立花が目を閉じていると、棗がやってきてそばに座る。
「寝ちゃうんですか?」
「ん〜」
「膝を貸してあげます」
立花は片目で棗を見上げると、言われるがままに大人しく膝枕で寝はじめた。棗は立花を撫でながら嬉しそうにしている。
あ〜ピンク、ピンクがすごい。我輩はピンクから逃げるために走るのである。
我輩が果樹園を走り回っていると嫌な匂いがやってくる。物騒な色で二人に近づく三人の男を警戒して我輩は隠れながら近づくのである。
「おやおや、お熱いですね〜」
「お姉さん俺らにも膝枕してよ〜」
「何かご用ですか?」
棗が珍しく冷たい声でいう。
「いやいや用って程じゃないんですがね? ここいらは俺らの島なんで、入場料を頂きたいんですわ」
「そんなもの聞いたことありませが、ここの果樹園の方ですか?」
「そんなもんですよ。で、ニーチャンそろそろ起きてくれよ〜」
男の一人が立花に触ろうとするので我輩はその腕に噛み付く。もちろん甘噛みである。それでも驚いた男は悲鳴をあげて尻餅をつく。
近くで大きな声を出された立花はその声から逃げる様に棗の腰に腕を回す。
「なんだ、この犬は」
「おいおい、怪我したんじゃね〜か? これは治療費も貰わね〜とだな」
「聞いてんのか兄ちゃん?」
立花は嫌々起き上がって男達を見るが眩しそうに顔をしかめると、棗に抱きついて肩に顔を埋める。
「た…コブくんどうしましょう? お引取り頂いてもいいですか?」
「ん〜何…?」
「お金が欲しいみたいです」
「ん〜なんで?」
「えっと……なんのお金でしたっけ?」
「治療費だよ治療費!」
「ああ〜ロブちゃんに噛まれたそうです」
立花はひどく面倒くさそうな様子で我輩を見る。
(甘噛みである!)
我輩が吠えて訴えると立花は何とか目を覚まして男達を見る。
「金ねぇ……何にいくら必要なんですか?」
「はぁ? だから治療費だって言ってんだろ!」
「うちの犬が本気ならその腕ついてませんよ。何なら、取ってみますか? そしたら払いますよ。治療費」
立花は言いながら気怠そうに立ち上がって振り返る。
気配は薄く、表情はない。虚ろな様にはこの世のものとは思えない不気味さがある。ネムネム立花に恐怖を感じたらしい男達は少し怯んだのである。
「そういう事ならお手伝いします!」
棗もやる気満々な様子で立ち上がる。立花はよりかなり物騒な感じである。
我輩も臨戦態勢で唸ると、男達は今日の所は勘弁してやると言って逃げていった。我輩達の勝利である。
しかし立花はまだまだネムネムだったのでホテルに行く事にしたのである。




