平和な村の事件
翌朝、どうにか寝かしつけた棗を眺めながら立花は深い深いため息をついた。棗は旅先で一人にしてはいけないらしい。面倒だ。
一度寝ると寝汚いが、寝不足には慣れている立花は朝食をもらいに部屋を出た。昨日は夕食の前に部屋に戻ってしまったので棗の第一声は容易に想像できる。
そして早朝のレストランで女将さんに笑顔で迎えられた立花は嫌な予感がした。
「奢って貰えるんですか……?」
「そんな嫌な顔しないで、あいつらも反省してるんだよ。それに都会の人と話す機会なんてないから楽しみなんだよ。少し我慢してやってくれないかい?」
「俺は別にいいんですけど……連れがなんていうか……」
口ではそう言ったものの立花は棗の返事が分かる気がする。喧嘩の原因は知らないが聞けば十中八九いいと言うだろう。しかし立花は会わせたくない。会話をすればするほど立花の存在がバレる可能性が増す。謹慎中にこんな所をフラフラしているのが知られたら絶対に怒られる。
連れに聞いてみると曖昧に会話を終わらせ食事を部屋に運ぶ。一つしかないテーブルと椅子で立花が先に食べていると、棗が目を覚ました。
眠そうな顔でベッドを抜け出してご飯を食べようとしている様だか、立花が座っているので椅子がない。立花が腕を広げると、棗は大人しく立花の膝に座って食べ始めた。食べているうちに目が覚めてきたらしい棗は恥ずかしそうにしているが、今更だ。
「えーと、姫さん?」
「はい……」
棗は恐る恐る振り返って立花を見る。
「姫さんが昨日喧嘩してた人達がご飯奢ってくれるそうなんですが、どうします?」
「ご飯?」
「そう。謝ってくれるそうです」
「分かりました……」
「断ってもいいんですよ?」
「断ったほうがいいんですか?」
「俺はどっちでも構いませんが姫さんは嫌じゃないんですか?」
「あんまり覚えてません……」
「そうですか」
立花は朝から疲れた気がした。
そして数時間後、二人は昨日の男達にご飯を奢って貰っていた。
「いやぁ〜だってお嬢さん可愛いじゃないですか、だからつい……」
「可愛い……」
棗はまともに褒められるのに慣れていないのか照れて隣の立花にしがみ付いてくる。
その様子を男達は嬉しそうに見ているが、立花は可愛いから揶揄うって子供か? と思う。見ている限りでは男達は棗と同い年ぐらいだろう。田舎の文化はよく分からない。
「私も気が立っていたみたいでごめんなさい」
「姫さん酔っ払ってました?」
酔う度に喧嘩をしているのかと気になってた立花がいう。
「あれぐらいで酔いません! ……でも、寝れなかったし、疲れてたから……」
「結局どっちなんですか?」
「もー! た、貴方の所為なんですからね!」
棗は誤解されそうな事をむくれて言う。
しかし立花はその日は疲れてすぐ寝たので無実だ。棗が寝れなかった事すら知らない。
それからも男達は機嫌をとる様にさりげなく棗を褒めるが、もの慣れない様子が微笑ましい。
立花は都会育ちで子供の頃から周りも擦れていたので、男達のその様子は何だか珍しかった。しかし棗が時々立花の名前を呼ぼうとしたり、うっかり身元が分かりそうな事を言いそうになり気が気ではない。
その度にさりげなく棗の髪や耳に触れたり肩を抱いたりして気を引いていたのだが、男達はその様子を見て顔を赤らめているようだ。
最初は意味が分からなかったがよく考えると、棗が褒められて喜んでいるのが面白くなくて、立花が気を引こうとちょっかいを出している様に見えていることに気がついた。
棗のせいで勝手にバカップルに仕立てあげられ、立花は非常に不本意だ。
面白くないので視線を移すとカウンター越しに女将さんが分かっているわよ、という顔をしている。
居た堪れなくなった立花は天気が良くなると逃げる様に次の街に向かった。




