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10 平和な村の事件


 その夜、立花は買い物とロブを預ける為に棗と別れ猟師協会に立ち寄っていた。用事を済ませて帰ろうとすると誰かが猟師を呼びにきた。


「おい、宿屋で喧嘩だ!」

 猟師は自警団も兼ねている為喧嘩に呼ばれるのは珍しい事ではない。しかし嫌な予感がする。


 足早に宿屋へ戻り、騒がしいレストランを覗く。男達の人垣の中から姿は見えないが女性の声がした。

 この宿の女性客はかなり少ない。

 立花が人垣を掻き分けて行くと、中心では棗と二人程の男が言い争っている。


 何故だ? 一時間は経っていないのに……。


 立花はすぐにでも動けるように心構えをして棗に近づくと、立花に気が着いた男達に言い掛かりをつけられるが、無視した。それどころではない。

 そして棗が振り返り、明らかに立花の名前を呼ぼうとするので腕を伸ばして頭を抱え、自分の肩に棗の顔を押し付け棗の口を塞ぐ。


「すみません。連れがご迷惑を……」

 棗が暴れないように抱き締めて謝ると騒がしい男達はそのまま立花に何か言い始めるが、酒が回っていてよく聞き取れない。


 立花はそのまま棗を引きずってレストランを出る途中に女将さんと目が合う。立花が視線を送ると女将さんはこちらにやってきてくれた。


「ごめんねぇ。誰かが飲ませちゃったみたいで……」

「いや、こちらこそすみません。あの、これで皆さんにお詫びを」

 立花は棗のせいで不自由な手を伸ばして女将さんに結構な額の現金を渡し、謝りながら部屋へと戻った。



「ひどい! 棗は悪くありません!」

 部屋で棗を解放すると、酔っ払っているせいか大きすぎる音量で言われる。

「分かってる。一人にした俺が悪かった」

 立花は棗を静かにする為に顔を近付けて言うと、とりあえずベットに座らせて話を聞く。


「違います。あの人達が酷いんです、棗のこと変な格好って言うんですよ」

「ああ、そうだな。田舎じゃちょっと派手だったかもな」

 棗服装はパウロニアでは普通だが、それ以外では派手な部類だ。桐生達と一緒にいると華やかさがインフレを起こすので仕方がない。


「そんなことないです!」

 しかし棗は納得しない。立花は酔っ払いを説得するのは早々に諦めて、実力行使で黙らせることにしたが、棗は中々寝てくれず苦労する事になった。




  ▽▲▽




 二人が去った酒場兼レストランでは女将さんが客に酒を振舞っていた。立花の渡した金は在庫処分の酒と軽食を全員分配っても十分残る程で、女将さんは自分の直感が正しかった事に満足する。


「あんた達良かったねぇ。あの子が優しくて、普通だったら殴り合いだよ?」

「はぁ? 突っかかって来たのはあの女だろ?」

「そうかもしれないけど、よく考えてご覧。自分の女が絡まれてたらいいところ見せようとするもんだろ?」

「まあ、確かに……」

 自分達が逆の立場なら黙ってはいなかっただろう。


「よっぽど訳ありなんだねぇ。あんなにアッサリ引き下がって、その上酒まで奢っていくなんて、ちょっとないよ」

 女将さんは立花のスマートな対応に心奪われている様子だ。そして少し冷静になった男達は思う。




 一人で酒場のカウンター席にいた棗は明らかに浮いていた。一目で都会から来たよそ者と分かり、いつものノリで軽くからかった。すると村の娘たちなら嫌な顔で済ませる所を棗は男達を睨みつけて文句を言ってきた。

 その様子は世間知らずの気の強いお嬢様といった感じで珍しく、しかも棗は見た目が可愛らしいので男達は初めのうちはノリノリで言い合っていた。しかし棗はなかなか引き下がらず、面倒になって暴力を匂わて脅すと余計ムキになった。女相手に実際は手をあげる訳にはいかず、かと言って負ける訳にもいかない男達が追い詰められている所に立花が現れたのだ。


 立花の格好は猟師そのもので、小柄だったがその場の誰よりも落ち着いていた様子はもしかしたら強いのかも知れないと思わせるものだった。その男が自分達に酒を奢ってくれる理由が分からない。


「女将さん。俺らどうしたらいい?」

 男達が少し怯えた様子で聞くと、商売っ気に溢れた女将さんは言った。

「奢ってもらったら奢り返すんだよ」

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