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9 ジェットコースターフライト

 立花は移動機を三機所有している。対人の武装がないだけで戦闘機と変わらない性能の上に趣味で改造しているので立花の機体はモンスターマシンのレベルだ。今回は汎用機をベースにした一号機のデイモスに乗っている。


 棗は前後に並んだ少し上にある後部座席から運転席の立花を見下ろす形で座っている。立花と棗の間の専用席ではロブが着慣れない服を引っ掻いていた。

 そして棗はご機嫌な様子の立花をじっくり鑑賞中だ。見慣れない角度というのもあるが、後部座席は自由に動かせるので横座りにして一番前に出すと立花との距離はかなり近くなる。何かの作業に夢中になっている人の横顔を見るのは楽しい。


 立花のお顔は実にバランスがいい。多分黄金比率の配置だろう。一つ一つのパーツは小ぶりなので派手さはないが、横顔もいいな〜とか、色白いな〜とかじっくり観察すると実に美しい顔だ。無表情でも美しいが表情によって雰囲気が変わる。

 今は楽しそうな様子が少年のようだ。しかも棗が見ているのが気になるのか、横目でこちらを見ては微笑んでくれるのが嬉しい。

 何だろう。幸せで怖い。絶対にこの後恐ろしい事が起こると確信が持てるのは立花のせいだろうか。


「棗、前見て」

 立花の声に視線を移すと、今までの地下から視界が開け、梢越しに青空が見える。

「わあ! すごい!」

 棗は歓声を上げるが、恐ろしい事に気付いた。

「天気良くてよかったな〜」

「て、立花様ここ外ですか?」

「正解!」

「待って、まだ心の準備が……!」

「あ、忘れてた」

 そう言いながら立花は棗に袋を渡す。


「あの、これは?」

「お戻しになる時にご利用ください」

「なんですかそれ……そんなに揺れるんですか?」

「う〜ん。念のためだよ」

「嘘! 本当のこと言ってください……!」

 立花は楽しそうに笑っていた。




 森の上を飛んでいる間は平和だったが、森はすぐに抜けてしまい。砂漠に出ると早速砂嵐に襲われる。機体を取り巻く風と砂の音が恐ろしい。


 そしてしばらくするとロブが短く鳴く。

「ちっ、来たか。どこからだ?」

「来た? きたってなに? 何が?」

「棗、舌噛むなよ」

 棗が焦って座席に掴まると、地面が盛り上がって何か出てきた。うっすらと見えてきたのは五mほどの砂漠色の細長い蟲だ。


「なんだ芋虫ワームかぁ〜」

 立花は何故かがっかりする。

「ワームだとダメなんですか?」

「ワームは倒しちゃダメなんだよなぁ」

「なんで倒したがってるんですか? 逃げてください!」

「え〜」

 立花は不服そうだ。


 ワームは動きが遅いので比較的危険度が低いが、何か恐ろしい武器を持っている可能性もあるので侮れない。しかし立花はわざわざ速度を落としてワームを観察している。

「立花さま……あれ足がいっぱいあります……気持ち悪いです」

「吐くなら袋にして」

「違う! そうじゃなくて……」

「ああ。でもゴメン。あれ百足だったから倒そう」

「うそですよね?」


 ワームはぬしの候補なのである程度大きなものは出来るだけ保護することになっている。しかし百足は毒を吐くので狩ってもいいらしい。


「棗、あいつが立ち上がったら撃って」

「むり〜ぃい」




 数分後、二人はこんがり焼き色がついた百足から少し離れた岩陰で昼食を取っていた。全く食欲の湧かない光景だ。


「大きな蟲の縄張りは安全なんだよ」

 棗はむくれているが立花は気にした様子もない。

「トイレ行くならロブ連れていって」

「棗は初めて蟲を見たんですよ! 怖かったし気持ち悪かったのに」

「でも大丈夫だっただろ? ちゃんと倒したし」

「あんなに近かったら外す方が難しいです!」


 百足の何が気持ち悪いかと言われれば、あの蠢く無数の足なのに、噛みつこうと立ち上がって向けられた腹に、わざわざ近づいて、間近で見せつけるかのように当てやすくしてもらった棗はやけになって引き金を引いた。それだけで倒せたが、乙女として何か大切な物を失った気がする。その上トイレって……。


「もうお嫁に行けません……」

「そうなの? 何で?」

 立花に棗の気持ちは全く伝わっていない。


「立花様は姫がこんなことすると思いますか?」

「ええっと……でも、アウローラの王様は女だけど、戦争に出てくるらしいよ」

「それは姫じゃなくて女王!」

「え〜何が違うの?」


 その後立花はとりあえず天気が気になるとさっさと出発したが、砂漠はなかなか終わらない。変わらない景色は退屈だ。なので棗は不貞腐れながら質問をする。


「立花様は棗のこと本当に好きですか?」

「うん。好きだよ」

「どこが?」

「え〜と。棗は気取ってなくて可愛いよね。表情とか面白いし」

「面白い……」

 操縦はなかなかに神経を使う作業だ。そういった作業中は本心を口にしやすいと棗は城内の噂で聞いたことがある。


「鬱金様とどっちが好きですか?」

「なにそれ?」

「だって立花様は鬱金様をスカウトに行くぐらい好きなんですよね?」

「ああ、まあそうだけど。でも絶対に断られると思ったから行ったってのもあるんだよな」

「意味が分かりません」

「ん〜、人をあんまり巻き込みたくないないから……と思って。一応誰かに声掛けておけば文句言われないし」

「消極的な理由ですね、そんなんでよく引き受けて貰えましたね」

「鬱金にとってはそれが良かったみたいだけどな、退屈してたんだって」


「何か複雑です……でもそれなら棗はどうなんですか? 巻き込まれてもいいんですか?」

「だから避けてただろ? でも棗は自ら巻き込まれに来るんだよ、兄さんとか……」

「おや?」

 残念ながら自覚がある。

「まぁ、棗は何か大丈夫そうだけどな」

「そんな安心感はいらないのですが……」

 納得いくようないかないような話を聞いていると、雨が降ってきた。


 まずい、と立花は高度を上げる。

「悪いけど急ぐぞ」

 そう言って限界高度に達するとそこからスピードを上げて落ちていく。

 棗は訳のわからない悲鳴を上げた。

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