心配
数日間の準備を終えた出発の日、立花がなんだかガラの悪い格好で現れたので棗は笑ってしまった。決して日頃の仕返しではない。
「立花様どうしたんですか? そんな格好しても強そうに見えないですよ」
「うるさいな! 猟師はこういう服なの!」
立花はフードつきのライダージャケットに同じような素材のボトムスにブーツで、インナーと腰に白っぽいシャツを巻いていなければ全身真っ黒だ。
「棗は、それで行く気か?旅行じゃないんだけど?」
棗は雨で足元が汚れるからと素足にミュールにスカート姿だ。
「ダメですか?」
「いや、別にいいよ。上にこれ着て」
立花のジャケットと同じ素材のローブを渡された棗はとりあえず着てみる。
「魔女見たい……」
「濡れるよりいいだろ?」
棗は少し不満だった。
そして二人が駐機場にやってくると、棗が見たことのない人も含めてここにいる立花の部下が全員集合していた。
「みんなどうした?」
「いやぁ〜、立花様が結婚するって聞いて、相手どんな方なのか気になって」
「ね〜そしたら普通に可愛らしいお嬢さんで、まぁ〜良かった。本当に良かった。どんなキッツイお姉さまに押し切られるのかと心配してたんですよ」
「お前分かってないなぁ。あのお兄様がいるんだから結婚自体厳しかったんだよ。絶対無理だと思ってた」
「立花様は普通の子が好きなのに普通の人には好かれないから……」
部下達は思い思いに立花の結婚を祝っている。
「棗さん、うちの立花の事をよろしくお願いします……いい子なんです。ちょっと面倒臭くて、融通がきかな」
「もういいから!ありがとう、心配しててくれたんだな。俺も嬉しいから、だからもう戻って」
「そんな、もう会えないかも知れないのに……」
「大丈夫、死ぬ前に帰ってくるから、約束するから」
立花は彼らが余計な事を言い出すのを警戒して話を終わらそうと必死だ。
「心配だなぁ。絶対に立花様ってバレちゃダメですよ! いいですね! 誰にもですよ!」
「分かった、分かったから」
「本当ですか? ちゃんとお互いになんて呼ぶか決めてるんですか?」
「えっ、いるか? 二人なんだから名前呼ばなくても何とかなるだろ?」
「ダメダメ、そういうのは決めとかないと! 今は何て呼んでるんですか?」
「いや、普通に名前を……」
「つまんねー、ハニーとかバニーとかないんですか!」
「棗、何がいい?」
立花は部下達に口々に言われすっかり疲れた様子で棗に振る。
「えっ? タッちゃんとか?」
「ちゃんはやめろ、でないとお嬢って呼ぶぞ」
「ええ〜! じゃあ何がいいんですか?」
「あれでいいよ、リッカで、」
「分かりました……」
「棗は何がいいの?」
「えーと、」
棗はかなり真剣に考える。
「よし、ロブ。これ着ろ」
時間がかかりそうだと思った立花はその間にロブに服を着せる。ロブは片目を怪我していて目立つので、念のための変装だ。
「何でゼブラ柄なんですか?」
その様子を見ていた鬱金がいう。
「カッコいいだろ?」
「ゼブラって草食ですよ? タイガーの方が良くないですか?」
「あれ黄色いからヤダ」
「あんまり変わらなくないですか?」
「全然違う」
立花の感性は鬱金には良く分からない。
立花がロブに服を着せ終わってもまだ棗は悩んでいる。
「何でもいいと思うんだけど……」
「じゃあ、姫はどうですか?」
部下の一人の女性がいう。サムイなぁと立花は思った。
「もうそれでいいや。姫さんね。よし、姫さん行きますよ?」
流石に恥ずかしかったのでさん付けで立花は話を終わらせる。
「なな、なんで姫さん? なんで敬語?」
「もういいから、出発してからも時間あるんで、それからにしてもらえます?」
こうして立花は鬱金達に見送られて棗の実家に向けて出発した。
棗は立花と部下達の家族のような様子が見れてなんだかとても楽しかった。




