7 雲隠れ
立花は桐生の命令通り、持ち込んだ物資と交換で王の証とも言われる生剣をいくつかもらい、往復と滞在を合わせて一ヶ月半ほどして立花達は領地に戻った。
そして立花はする事がなくなった。やりたいことは色々あったのだが、謹慎処分なので待てと領地を任せていた昔からの部下に言われた。
そこで立花は軍用犬の訓練をして過ごすことにした。領地で雇った訓練士はかなり若い男で彼の手伝いをしているうちに、いつの間にか立花はパウロニアから手伝いにきた訓練士のリッカさんになっていた。
なんとなく領主相手ではやりずらいだろうと偽名を使い、面倒なので髪を伸ばしただけで、隠れたつもりは一切なく普通に今日まで生活していた。
「誰にも気づかれなかったんですか?」
「みんな気づいてて触れないだけかと思ってたけど……」
棗と立花は目を見合わせる。
立花は髪が長いだけで随分と雰囲気が変わっている。お堅いイメージが強かったのでよく知らなければ立花とは思わないだろう。
「まあ、いいんだけどね。そういえば一昨日ぐらいに武者修行の人が来るからってみんなで見に行ったんだよね。行ったらもう終わってたけど、もしかしてあれって……」
「知りません」
棗は音速で顔ごと立花の視線から逃げた。
「ふ〜ん。棗の知ってる人? 凄く強かったんだって?」
「知りません」
「ふ〜ん」
言いながら立花は棗の荷物を見ている。流石に棍は隠しようがない。
「そんなことより、結婚するならご挨拶に行かないと!」
「何それ?」
「いや、これから家族になるのでよろしくといったご挨拶をですね……普通はするのです」
「そうなんだ、俺普通の結婚式とか全然分からないから」
レオモレアに限らず一般人はあまり結婚せず、フリースタイルの恋愛が多い。領主や後継が必要な商家以外の人は子供が生まれてから考える形で、片親しかいない子供も多い。だから立花の関わった結婚式は桐生の物ぐらいだ。
「あれ? 挨拶って俺も行くの?」
「まぁ……」
「棗のウチに?」
「はい……」
「そうかぁ」
流石に立花でも面倒くさいとは言わなかった。
「なんか手続きとかあるのかな?」
「さぁ? 棗は見たことしかいないですから、そういうのはよく分かりません」
「う〜ん。誰かに聞けばいいかぁ」
そして棗は雨だから行きたくないという立花とロブを引き連れて尾花の家に来た。雨期に晴れ間など探していては、いつになるか分からない。
「結婚するの? そう。おめでとう」
「それだけ? なんかもう少しありませんか?」
二人の報告に興味がなさそうな尾花に棗は食い下がる。
「え〜、じゃあ……君上手くやったんだね。泣き落としでもした?」
「何故そうなるんですか?」
「だって君、立花こと結構前から好きでしょう? だから婚約も嫌だったんじゃないの?」
「そうなんですか?」
「知らないよ、自分のことだろ? でも君以外はみんな思ってたんじゃない?」
「そうなんですか? 立花様も?」
棗が振り返って少し離れた立花に尋ねるが、立花は曖昧に笑っている。
「立花はこんな女のどこが良かったの?」
「ちょっと尾花様!」
(なんでそんな空気読めないバカップルみたいなこと聞くんですか! それも本人の前で!)
棗は側の尾花にだけ聞こえる声でいう。
(君は聞きたくないの?)
(そりゃあ聞きたいですけど……なんか勘違いしてるみたいじゃないですか……)
「棗さんは普通に可愛いですよ」
「普通?」
二人の様子を見ていた立花が当たり障りのないことをいうが、立花以上にデリカシーのない尾花は余計な一言に食い付く。立花は少しだけ眉を動かした。少しは我が振りを直せばと棗は思う。
「でもこの娘立花の半分も可愛くないじゃない」
「え〜! 何それ、ひど、い?」
ちょっと待て、と棗は立花を改めて見る。これの半分……。
「もぉ〜尾花様ぁ。褒めるなら、もう少し分かりやすく褒めて下さいよぉ〜。勘違いしたじゃないですか!」
「半分が褒め言葉以外のなんのさ! そこら辺の女は十分の一だよ!」
「いや、それ誰も褒めてないと思うんですが……」
立花の言葉は誰にも届かなかった。
「で、普通って何ですか?」
棗は気になって聞いてしまう。
「あ、結局自分で聞くんだね」
尾花も興味深々だ。
立花の隣に控えていた老紳士も身じろぎする。
「棗さんは……素直で、天真爛漫で、見た目は普通に可愛いと思います」
逃れられない状態の立花は必死に無難な言葉を探す。
「だから、普通って……?」
棗は解説を求めて尾花を見る。
「見た目は可愛いってことだろ?」
「見た目、は?」
「性格は面白いよね?」
尾花が立花に確認すると立花は笑顔で頷く。
「君良かったね。容姿は衰えても性格は早々変わらないから将来も安心だよ」
「アリガトウゴザイマス」
女子平均の十倍可愛い兄弟に言われるのは複雑だ。
「君は立花の何処が一番良かったの?」
「一番ですか?」
「どうせいっぱいあるだろ?」
「ソウデスね。ええっと」
確かいっぱいあって悩むかもしれない。
「立花様は、可愛いくて、意外に優しくて、良い人で、知的で美形で爽やかで……」
結局一つに絞れなかった棗が思う順に上げていくのを尾花が嬉しそうに頷いて聞いている。
なんだか自分の事とは思えず、親バカってこういう人達なのだろうと立花は冷静に思った。




