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主な仕事は餌付け

 パウロニア城内は三交代制で、常時誰かが働いている為それに合わせて食堂もやっている。メニューはさほど多くないが、日代わりで色々なものが食べられる。

 奥の華やかものとは違い、広い食堂には色々なテーブルが統一感なく雑然と並んでいて、気を張らずに落ち着けるようになっていた。



 立花と並んで食堂に入ってきた棗は、周囲の視線が気になる。

 侍女の服を着た者は他に一人も居ないから目立つのは当たり前だが、それだけでもないような気がする。


「好きなもの頼めば?」

 立花は全く気にした様子がない。

「立花様は何にするんですか?」

 全く考えていなかったというか、食べる気すらなかったように困っている。

 目立つ二人が固まっていると声をかけられた。


「あれ? 立花? 珍しいなこれから飯?」

「……海棠かいどうも?」

 食べるかどうかすら決めかねている様子の立花に、海棠と呼ばれた背の高いスラっとした男が近づいてくる。


 海棠は立花の同期で武官として有名な男、棗も知っているが実際に話すのは初めてだ。

 こちらは? と爽やかに棗に向かって微笑む。

 流石は女性人気ナンバーワンと言われる男、色気が半端ない。


「一ノ方様の侍女で、蘇芳さんの妹の棗さんだ。しばらく俺の手伝いをしてくれる」

 棗には全くの無感情にしか思えない立花の言葉だが、海棠は全てを悟ったように頷く。


「へえ、じゃあここは初めて? 俺が頼んでくるから二人は先に座ってなよ」

「いや、俺は別に……」

「いいから! あそこ席取ってるから!」

 強引に発言を却下された立花はよろよろと席に着く、だいぶお疲れのようだ。


 程なくして海棠が器用に三人分の食事を運んできた。

「すみません、海棠様のお手を煩わせるなんて……」

 棗が恐縮しているが海棠は気にした様子もない。


「気にしないで、蘇芳さんの妹君とご一緒出来るなら当然です」

 そう言って棗の真向かい、立花の隣に座る。

 全員同じ物にしたようだ。立花が不服そうに量が多いとぼやいている。確かに棗にも多めだった。


「普通です。立花は棗さんが余ったらそれも食べるように」

 無理だよ~と情け無い声で立花は答え、しぶしぶ食べ始める。


「いつから手伝って貰ってるの?」

「今日、さっき」

 海棠の問いに立花が答える。

「へ~、それは大変そうだな。蘇芳さんは何て?」

 何故か海棠は棗の兄の様子を気にする。


「いえ、突然だったのでまだ誰にも」

「ふーん。それにしても全然似てないね」

「はい、私は母に似たので。父に似なくて良かったです」

「そうなの? 蘇芳さんは厳つくてカッコいいと思うけど」

 なあ、と同意を求められた立花はもくもぐと食べならがら頷く。


 一生懸命食べている様子の立花の皿に、先程から海棠は自分の皿の野菜を入れている。嫌いなものをと言うよりは立花の好きな物を入れているようだ。


「お二人は仲が良いんですね」

「まあ、子供の頃からずっと一緒だったし」

 海棠は当然といった様子だ。


「なんだか兄弟みたいですね」

「棗さんとこは仲良いの? 蘇芳さんは面倒見良さそうだけど?」

「全然! いつもいじめられてました!」

 身内に有名人がいると大体人はその話をしてくる。そんな訳で棗は今まで会話を人に任せていれば良かったのだと気がついた。


「そう言えば、立花髪型変えたんだな〜」

 海棠は何か意味ありげに微笑んでいる。

「何と無く、気分だ」

 立花は気まずそうだ。


「なんか悲しいわ。

 別に前髪が有っても無くてもいいけど、むしろ有る方がお前には似合ってると思うけど、人に言われて変えるとかなんか裏切られた気分だ」

 立花は前髪を気にしながら海棠を睨んでいる。

「別にいいだろ、なんでも!」

 そうだけどね~と海棠は周囲を見回す。


 その様子に棗は思わず口を挟む。

「なんか、凄く視線を感じるのですが……」

「あー、立花がいると大体こんなもんだから、しかも髪型違うしみんな興味津々なんだろ?」

 なるほど、だから立花は気にしていなかったのかと納得する。


 食事を終えたらしい立花はコーヒーを飲み始める。

「もういらないの? これだけ食えよ」

 海棠はお肉を立花の口に運んでやる。立花は嫌そうな顔をしながらも大人しく餌付けされている。

 海棠に食べらせられた肉が大き過ぎたのか頑張って咀嚼している姿は、頬袋をいっぱいにしている小動物のように可愛らしい。

 ツンデレね、立花様はツンデレだったんだわ!

 棗が新しい発見に目を輝かしていると海棠が言う。


「それにしても、さっき会ったばっかりで立花を食堂に連れてくるなんて、棗さんは良い仕事するね」

「はい?」

「イヤ、立花は空腹中枢とか壊れてて胃が痛くなるまで絶食するから、誰かが見張ってないと心配なんだ」

「なんですかそれ?」

「んーまぁ、とりあえず、こいつに餌を食べさせるだけでもみんなに感謝されるよーって話かな? どうせ桐生様もそのつもりで頼んだんだろうし」

「子供じゃないんだから必要ない」

 立花は不満らしい。


「いや、子供だって一人で飯ぐらい食うから、なければ食べる努力するし、子供以下だお前は!」

 立花の渋い顔を一瞥した海棠は棗に言う。

「そんな訳で飼い主になったつもりで餌付け頑張って下さいね、棗さん」

「はぁ、そんなことでよろしいのですか?」

「うん、こいつの所はそれ以外ほっといても誰かやるから大丈夫」

「わかりました。それなら私にも出来そうです!」

 棗はどうにか自分にもできそうなことが見つかりほっとする。


 これなら立花様から情報を聞きだす事も出来るはず、と棗は心の中で拳を握る。相変わらず何を調べていいのかさっぱりわからないが、そのうち何とかなる、はず。




 棗がこれまでの経緯を報告し終わると楓は深い深い溜息をつく。

「とりあえず、棗は立花とも普通に話が出来てるみたいで安心したわ」

「どういうことですか?」

「あの子狐は差別が激しいから、人選を間違うと会話すら出来なくなるのよ。」

「差別……ですか」

「そう、後は立花の行動を調べて、特に交友関係とプライベートを」

 はい、頑張ります、と返事だけは威勢良く楓との会話を終えた。

 交友関係にプライベート? そんなものプロにでも頼んで! と思いながら。


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