The bitter with the sweet.《甘酸っぱい》
「甘酸っぱぁ〜〜い!」
「うるさい! 棗ちゃんに聞こえるじゃろ! 落ち着かんか!」
「いやぁ〜無理! 何あれ? てか立花チューしてた? あれチューしてただろ?」
「ここからじゃ分からん! そんでおっさんがチューとか言うな! 気色悪いわ!」
「鬱金! お前はどう思う? あれチューだろ?」
「さぁ? よく分かりませんでしたが……」
鬱金も頼まれて棗を探していたのだが、途中で暇を持て余していた桐生と老師につかまり、何やら事情を知っているらしい桐生達も捜索に加わることになった。
そして棗を見つけた時には立花が棗を膝抱っこしているような状態で、それを面白がった桐生のせいで木陰から覗き見するはめになった。距離もあったし角度的に二人の顔は見えないのでチューの真偽は分からない。分からないが立花はそういうタイプではないと鬱金は思う。
「いやぁ〜甘酸っぱいわぁ。いいなぁ。俺も恋がしてぇ! 切ない恋がしたぁい!」
「やめてくれ。これ以上奥に人を増やさんでくれ……」
「何が切ないんですか?」
事情を知らない鬱金がいう。
「棗には実家が決めた婚約者がいたらしくてな、もう直ぐ帰るんだと! な? 切ないだろ?」
「確かに……」
「もったいないよな〜絶対あの二人上手くいくと思ったのに。あああ〜羨ましいぃ!」
「頼むから色々落ち着いてくれ……」
老師は近くで騒がれてうんざりした様子だった。
騒がしい桐生から逃げてきた鬱金が執務室に戻ると立花が憂鬱そうにしている。どんな表情よりも憂い顔の似合う男である。
「棗さんはどうだったんですか?」
「多分大丈夫。もうすぐ戻ってくるだろ?」
「何があったんですか?」
「なんかお父様にすぐに戻って来いって言われたのがショックだったらしい」
「それだけですか?」
立花は少し考えている様子だ。
「うーん、なんか仕事が認められてないみたいに感じたんだろ? あとは婚約者を勝手に決められたのも嫌だったみたいだ」
「婚約者、ですか、どんな人なんですか?」
「蘇芳さんの幼馴染で別に嫌な人ではないらしいけど……」
「けど?」
立花は表情を曇らせる。
「いや、城勤めの文官で蘇芳さんの幼馴染なんて俺知らないから……」
「マズそうなんですか?」
「可能性は高い……」
「どうするんですか?」
「俺に何か出来るのか? まあ時期を見る様に言ってみたけど……決めるのは家の人だろうし……」
立花は憂鬱そうにため息をつく。
「まあ、領主の結婚は時間がかかるものですから心配する事ないと思いますが、問題は棗さんですね」
「そうだな……」
棗は可哀想な人が放っておけないタイプに思える。立花の懸念もその辺りだろう。
「でも、今回の件で一番酷い目に遭うのは立花様ですからね。人の心配してていいんですか?」
「俺は慣れてるから……」
「慣れてしまってますか……」
どうも桐生はお見合いパーティをただでする気がない様だ。前回も今回も別の目的を持っている。まさかとは思うが、さっきの様子を見ていると妬ましいのかと疑いたくなる。
もはやため息しか出てこない立花の願いは一刻も早くこの状況から解放される事だけだ。パーティが待ち遠しい。
そして棗は立花の言葉通り準備を済ませると実家に帰っていき、現地で準備をしていた立花とは会うこともなかった。




