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兄心

 蘇芳は桐生軍の武将の配下である。大臣の部下の立花とはどちらが立場が上かと言われると悩むほど普段から関わりがない。今回は蘇芳が任された仕事を立花が手伝う事になったが、数日経っても必要最低限しか話していない。


 蘇芳の執務室に立花が居るときは大抵妹の棗が一緒で、立花と話す必要がある事は全て棗に奪われる。


「立花様元気ないですね?」

「えっ? そんなことない……疲れてるだけだ」

「嘘ですね?」

「なんで?」

「立花様が疲れてる時に疲れてるなんて言うはずないです」

「いや……」


 いつものように立花に興味津々な棗の様子を見て蘇芳は思う。

 おまえ、絶対立花(そいつ)の事好きだろ……と。思うことは思うのだが妹のために何かしようと思うほど二人は仲良くない。


 蘇芳は三兄弟の真ん中で棗の他に年の離れた姉がいる。棗とは一歳違いで幼いころから武芸の才能があった棗には何度も負けたことがある。今でも油断ならない好敵手ぐらいの認識だ。ここでも度々言い争いをしている。




 この日も言い争いが起こりそうになったのだが気を利かせた立花が棗に用事を頼んで部屋から出した。

 ほとんど初めて棗が居ない時に立花と一緒になった蘇芳のいたずら心がうずく。余計なことを言って棗に蹴られるのはごめんだが多少揶揄(からか)いたい。そこで蘇芳は思い出した。


「立花さん。これまだ選んでないですよね?」

 蘇芳はソファの立花にお見合いの招待客リストが入った端末を差し出す。

「ああ、そうでした」

 自分が参加者である事をすっかり忘れていた様子の立花は端末を受け取りリストを見る。参加者が多すぎるのであらかじめ話をしたい人を五人ほど選んでおく事になっている。


 さりげなくソファの端に腰掛けた蘇芳は立花の操作する端末を覗き込む。それとなく妹に教えてリアクションを見たい。


 立花は多過ぎる参加者を絞るために条件を指定する。真っ先に”家柄”の項目から”領主”を除外した。

 はい。棗一発で消えた〜と蘇芳は少し嬉しくなる。それから立花は”年齢”の項目から自分より年上を除外。次に”性格”から”穏やか”を選ぶ。


 領主以外。年下。穏やかな性格。年下以外棗には当てはまらない。かわいそうにと思いながらも口元は笑みを堪えている。

 しかし立花はリストを見るだけで一向に選ぶ気配がない。


「選ばないんですか?」

「いや……見た目では分からないとは思うんですが……」

 リストを見た蘇芳は立花が何を言いたいのか理解する。


「穏やかそうではないな」

「これ自己申告ですか?」

「さあ? ……もう適当に選べばいいじゃないですか」

「でも話をしないとですよね?」

 立花は深刻そうな顔で蘇芳を見る。


「話なら……趣味とかで話が合いそうな人を選んでは?」

 蘇芳のアドバイスを受けて立花は”趣味”の項目を表示するが、そこは女性らしさをアピールするような趣味ばかりで共通の話題など見つけられそうもなかった。




 後日。立花が居ない時に蘇芳は棗にもリストの相手を選ばせていた。


「なんで見てんの?」

「別にいいだろ? 兄ちゃんがアドバイスしてやる」

 蘇芳は既婚者であるためお見合いには参加しない。


 隠すのも癪なのか棗は見せつけるように端末を操作する。

 棗の最初の条件は”領主”。そこから棗は人よりも領地を見ている様子だった。


「お前何で選んでんだ……」

「だって、どうせ行くならいい所の方がいいでしょ?」

「いや、だからって場所で選ばなくても……」

「誰選んだって一緒でしょ?」

 棗は夢も希望もないことをのたまう。


 二人は消極的な所だけは似ていた。




  ▽▲▽




 うちの妹夢がないわぁ〜と嘆いていた蘇芳は実家に棗のお見合いの事を伝えるのを忘れていた事を思い出し、慌てて両親に伝えると怒られた。


『あの子が領主とお見合いなんて何考えてるの!』

 母は焦った様子だった。

「いや、あいつも大人になって大分落ち着いてるし大丈夫だって」

『なんかあってからじゃ遅いのよ! 大体領主なんてまともな男がいないんだから!』

 母は自らの家の事は棚に上げていう。


『あの子をおかしな男と同席させたら絶対喧嘩になるでしょう!』

「まぁ……でもまともな相手かもしれないし……」

『心配だわ! 私から一ノ方様にお知らせします。貴方は棗に伝えてちょうだい。婚約者なら決めてあるんだから』

 母の言葉に何だか大変なことになってしまったと蘇芳は思い、棗に同情した。




 それからも気まずさの為しばらく棗に伝えられなかった蘇芳だが、とうとう父から連絡が来た。直接棗に言うつもりらしい。


 蘇芳は申し訳ない気持ちで棗に事情を説明し、父の連絡を取り次いだ。居た堪れなくて部屋の外で待っていたのだが、しばらくすると棗が部屋を飛び出して行った。

 何があったのか父に尋ねると、なだめろとだけ言われた。棗をなだめるなどという事が蘇芳に無理な事は父にも分かっているはずだが、苦々しい様子に何も言えなかった。


 仕方がない。頼みたくはないが蘇芳は他人の力を借りる事にした。


 それは、雨期に入ったばかりのお見合いまで二週間に迫った日の事だった。

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