15 兄心
何も進まない仕事を目の前にして棗は項垂れていた。昨日立花に手助けをお願いしたかったが話を切り出せず、最早希望がない。どうしよう、と頭を抱えたくなる事態なのに兄は部屋のトレーニングマシンを使って筋トレをしている。その労力を他に向けろと叫ぶ気力もない。
そんな腐りかかった空気の漂う室内にノックの音がして人が何人かやってくる。
「失礼します。立花様がお見えです」
「お邪魔します。桐生様から手伝いをする様に言われて来ました。こちらは俺の部下です」
立花は無感情に五人の部下の紹介をすると簡単に挨拶を済ませる。
「立花様……」
「ああ、棗さん、今度は俺がお手伝いします。まずは何を?」
「それを教えてください……」
棗は安堵のあまり涙腺を緩めながら立花を見つめるが立花は淡々と状況を確認していく。何も出来ていない事を怒られると身構える棗達に立花は何も言わず、ただ日程が一ヶ月後に決まったとだけ言った。
「ごめんなさい。何も出来ていないのです……」
「まだ一カ月あります。まずは場所を決めましょう。失礼ですがこちらでも調べて来ました」
その言葉に立花の部下は既に調べてあるらしいリストを見せながら場所の説明を始める。最終決定は蘇芳にさせる気らしい。
「場所が決まれば後は警備と宿泊施設、交通手段の確保ですね」
立花は棗達が進めていた料理などはそのまま採用してくれた。まるで暗闇に光が差し道が見えて来たようだ。棗は初めて終わるかもしれないと思う事が出来た。
「ではこれで取り掛かります」
「お願いいたします!!」
立花の言葉に棗が礼を言っていると、蘇芳の部下達が集まって来た。
「お嬢! 自分達は何をすればいいですか?」
「ああ、そうですね……」
威勢の良い声に棗は困って立花を見る。
「お嬢……?」
「! 立花様それは気にしないでください。この人達は実家から来てるのでアレなだけですから。それより!何をして貰えば良いですか?」
棗は力一杯尋ねる。
「ああ、それなら——」
立花は脳筋の蘇芳の部下にもできるような仕事を割り振っていく。立花に反感を持っていたはずだが、基本的に真面目な蘇芳の部下たちは目の前に仕事があるのに出来ないという苦痛から解放して貰えて嬉しそうに仕事に取り掛かった。
「で、お嬢ってなに?」
「立花様忘れてください!! 実家でそう呼ばれただけなんです! ウチは色々独特なんです! お願いだから触らないで!!」
「かっこいいのに……」
立花の呟きに他の人達も頷いている。
「じゃあ、蘇芳さんは何て?」
「若です!」
何故か聞かれた男はドヤ顔で答える。
「若とお嬢……」
立花は何故か嬉しそうな様子だ。
「やめて、お願い、やめてください……ウチは族じゃないんです……」
棗は真剣に訴えた。




