仮装パーティ
「いいですか? お配りしたのが要注意者のリストです。担当ごとに目を離さない様にして下さい」
凛とした女性の声に、似たような雰囲気の女達が息のあった返事をする。
長い髪をポニーテールにした女性としては背の高い浅葱を筆頭に、ミニスカートの憲兵隊の様な仮装の集団は城内の警備隊だ。奥の警備も担当しているためその殆どが女性だが、戦闘力はかなりのものらしい。どれくらいかと言えば酔っ払って暴れる軍人一人を三、四人で制圧できるぐらい、らしい。
そんな警備隊に桐生の正妻、一ノ方の侍女であるはずの棗は参加させられている。そう、棗は侍女だ。侍女の役目に警備は含まれない。棗はとても不本意だった。
「ごめんなさい。棗さん、今回は人手が足りなくて変なお願いをしてしまって……。
でも棗さんの担当は危険がないから心配しないで、人に絡んだりとか喧嘩したりはしないから、フラフラ何処かに行ったりしないように見てて……」
浅葱は申し訳なさそうにしている。話に聞いていた通り少し惚けたところのある浅葱は、棗の腕前を褒め称えてくれた。あまり嬉しくはないが真摯さは伝わってくる。見た目とのギャップもあって憎めない感じだ。
「大丈夫です。酔っ払いには慣れていますし、皆さんが心置き無く楽しめるように頑張ります」
棗は淡い笑みで答えて担当表を受け取った。そこには意外な名前が書いてあった。
『立花 格好、狐』
みんなが気持ち良く飲むために、この宴会でのトラブルを未然に防ぐことが棗に与えられたミッションだ。戦の前に仲間内で喧嘩したり、怪我をしたりしては本末転倒。つまり要注意者のリストとは酒癖が悪い人のリストだ。
立花め、何て物にリストアップされているのだ、と棗は心の中で罵る。
そして狐の立花を探して棗は会場を歩き回るが、中々見つからない。立花は男性の割には小柄なので簡単に人混みに埋もれてしまう。ざっと一周しても立花を見つけられなかった棗は、見慣れた人達が輪になっているのを発見する。きっと立花隊の人なら立花の居場所を把握しているだろうと近づいていった。
立花隊の面々は妙に盛り上がっている。不思議に思って覗き込むと、集団の中央に立花がいた。
「立花、おいで、お酒いっぱいあるよ〜」
「ほら、立花様、このおつまみ好きでしょう?」
皆口々に立花の好きそうなもので気を引いている。
「あれ、何してるんですか?」
棗は近くの人に尋ねる。
「ああ、写真を撮りたくてみんな頑張ってるんだよ」
どうやら狐の立花との写真を撮りたいが、本人に断られた立花の上司の竹杉が、大量に酒を飲ませてしまったらしい。
「それで何で、赤ちゃんがどうやったら自分の所に来るか〜みたいになってるんですか?」
「あはは、そうだね〜。立花様は理性がなくなると幼くなるからね〜」
すでにかなり出来上がっている男は、酒を求めて近づいて来た立花を捕獲して写真を撮りまくっている人を羨ましそうに見ている。
そして写真を嫌がって逃げ出した立花と棗の目が会う。
「なちゅめ!」
なちゅめ? 妙に舌ったらずな立花の声に驚いていると、立花は軽快に棗の背後に回り込んで周囲を威嚇している。
「何なんですか?」
立花はかなり酒臭い。
「知りゃない!」
プンプンと効果音が聞こえてきそうな立花の様子は腹が立つほど可愛い。
「あ〜ん、立花〜一緒に飲もうよ〜」
「キモいでしゅ!」
「キモいなんて……傷つくわぁ。涙出そう」
大黒様のような格好の竹杉がワザとらしく嘘泣きをする。
「立花様、キモいのは置いといてこちらで飲みましょう!」
何故か必死そうな様子の女性達にも棗の影に隠れたまま立花は首を振る。
「棗ちゃん……うまいこと手なづけたわね!」
酔っ払いの訳のわからない理屈で詰られる。
「いや……私何もしてないですよね……」
そこはすでに酔っ払いのカオスと化していた。
「はー。とりあえず立花様は、監視対象リストに入ってますから、ご一緒させて頂きます」
「俺迷惑掛けてる?」
「まぁ、リストアップされるぐらいですから……」
「そっかぁ、ゴメン……」
立花がしょんぼりすると周りが色めき立ってシャッターを切る。それを嫌った立花は棗の手を引いて奥のテーブル席に避難する。
お目当の立花が居なくなった集団は勝手に解散して行った。




