12 海老で鯛を釣る
棗は立花を探して城内を歩き回っていた。
昼食用にお弁当を作って立花の執務室へ行ったが、秘書に何処かへ行っていると言われた。
連絡を取れば早いのだが、出来れば使いたくない。
お友達になったとはいえ、奥で侍女をしている限り偶然の出会いなどない。立花には棗から会いに行くしかないのだが、鬱陶しいと思われるのは嫌だ。
ロブが城内に居るので立花は外に出ていないと思うのだが、お昼時に食堂に居る立花など想像もつかない。
忙しそうな裏口を避けて普通に城内に戻ろうとしていると、ようやく立花を発見した。
どうやら他の隊の三人の男達と話しているようだった。
邪魔になるとは思ったのだが進行方向なのでそのまま近づいていくと話し声が聞こえた。
「立花様は相変わらず余計なことに首を突っ込みますね〜。少しは遠慮したほうがいいのでは?」
「外交は立花様のような方には向きませんよ、今回だってこちらが出すだけ出して見返りはないのでしょう?」
「まあまあ二人とも、それぐらいにしろよ。あそこは交渉が難しいので有名なんだから、立花様でも厳しかっただけだろ?」
差し色が濃い緑の軍服の三人は外交担当の隊らしい。
立花はこちらに背を向けて立っているので表情は分からないが楽しそうには見えない。
「どうなんですか、立花様? 何か言ってくださいよ」
「何かと言われても、俺は言われたことをやっただけだ」
「もしそうだとしても、担当が違うと断ればよかったのでは?」
「そうですよ。姫は姫らしく城で大人しくしていればいいんです」
姫とは立花のことだろうか? 聞いていたよりも嫌味っぽい言い方になっている。
「そうだな、大人しくしていられるものならそうしていたいが?」
「何が言いたいんですか?」
「いや、特に何も?」
立花も嫌味っぽい言い方関しては負けていない。
「あまり出過ぎた真似はしないほうが身のためですよ?」
「親切に忠告して差し上げてるんですから、少しは感謝して頂きたいですね?」
「何かあるんですか?」
棗は思わず口を出していた。
立花以外の三人が驚いた顔で棗を見る。立花はチラリとこちらを見るが背を向けたままだ。
「誰だよあんた?」
「侍女の方には関係ありませんから……」
「でも、何かあるから忠告していらっしゃるんですよね?」
三人は棗と話しているうちに驚きから立ち直ったのか、バカにしたような顔をする。
「女性にはお分かりにならない、少し込み入った話ですので……」
「あなた方は私のことをバカにしておいでですか?」
「まさかそんな、ただその……適性というか、専門性のことで……」
三人のリーダー格の男は棗のことか、身分に心当たりがあるらしく出来るだけ穏便に済ませようとしているようだ。しかし他の二人は侍女の恐ろしさを知らないらしい。
立花から棗への口撃に移ってきたことを感じて、立花と男達の間に入って三人を静かに威圧する。
「城内で何かあるとしたら部外者などおりません。私でも! わかるようにご説明くださいませ?」
「城内でとは言ってないだろ?」
「あら? では立花様個人に……と言うことですか? 何故そんなことをあなた方がご存知なのです?」
「いや……あの……それは……」
リーダー格が言葉に詰まっていると、他の二人が矛先を変えてくる。
「立花様? こちらの侍女はお知り合いですか? 女性の後ろに隠れているなんて恥ずかしくないんですか?」
「俺は男女平等に扱いますから……」
棗の背後から聞こえる立花の声は若干震えている。
「それなら、三人がかりで一人に言いがかりをつけるのは恥ずかしくないのですか?」
「言いがかりではない! 忠告だ!」
「内容も説明できないのに?」
「うるさいな! 大体あんたには関係ないだろ! なんで突っかかって来るんだよ?」
「それは……」
棗の中では立花はお友達だが、なんとなく口に出すのは憚られる雰囲気だった。
「……なんだか、お可哀想でしたし」
棗が苦し紛れに言うと、後ろで立花が吹き出す。先程から笑いをこらえているのは分かっていた。
立花のそんな様子に三人の男達も遠巻きにしていた周囲も様子がおかしい。
立花が笑った! というので衝撃を受けているのだろう。人が少なくて良かったと棗は思う。
「立花様……笑いたかったら笑えばいいじゃないですか……我慢するから余計に面白くなるんですよ……」
棗が振り返って呆れた顔をすると、立花は棗の顔を見て笑いだす。失礼だ。
「可哀想って……棗が一番ヒドイ……」
立花は笑いをかみ殺して喋ろうとしているが、あまり上手くいっていない。
「立花様がひ弱そうなのが悪いんです! 見てて心配になります!」
「だから、本人に言うなって……クククッ」
「もお、立花様が珍しいことするから、みんな引いてるじゃないですか……」
「それは……申し訳ない……」
立花は顔を隠して本格的に笑っている。
絡んでいた男達は戸惑った様子で去っていくし、周囲は唖然として立ち竦んでいる。
何だか居た堪れなくなってきた棗は立花を促して裏庭に行く。




