棗なら大丈夫
「ねえ、どー思う? ねえ、どー思う?」
「二回言うな、うるさい」
棗は友達を自分の部屋に強引に誘っていた。
棗が城内で一番仲の良い柚木は身分が低いので、メイドのような仕事をしてる。侍女とは違い二人部屋で、既に寝る為に着替えていた柚木を棗の部屋につれてきた結果、パジャマパーティーのようになっている。
「で? 具体的には何が聞きたいの?」
柚木は棗が拉致されたと知って心配していたため、浮かれた様子の棗に怒っている。
「心配かけてごめんね……。立花様が笑うなんて珍しいから、つい……」
「珍しいって言っても、あんた達会ってから一ヶ月も経ってないでしょ?
しかも、あんたには始めてでも、犬には笑顔全開じゃない……」
「犬以下って事……?」
「まあ、犬と違って人は嫌でも関わらないとだから、違うかもしれないけど……」
柚木は重々しく溜息をつく。
「しっかし、棗って本当に何にも知らないのね。それじゃあ、嫌味言われても仕方ないわ」
「何の事??」
「棗は立花様の事嫌ってたからしょうがないけど……。
立花様って桐生様にとってどんな人だと思う?」
「口煩いけど、便利な人……」
棗は何も考えずに答える。
「〜っまあ、間違ってないんだろうけど……。そうじゃなくて。
いい? まず、桐生様には奥方以外に家族がいないでしょ? 男の人で身内っていうと、立花様って感じがしない?」
「そうかなぁ? 桐生様は誰とでも仲良くしてると思うけど?」
「それは、取り巻きって感じでしょう? 大体立花様は奥が大っ嫌いなのに、問題が起こると奥に呼ばれるのはどうしてだと思う?」
「それは……他に一ノ方様に意見できる人が居ないからでしょう?」
「そう。そんなことが出来るのも立花様が桐生に可愛がられてるからでしょう?」
棗はこの一カ月の立花達の様子を思い浮かべるが、立花のイメージは常に犠牲者といった感じで可愛がられてるとは思えなかった。
「可愛がられてるが、ピンとこないなら気を使われてないでもいい」
「それは思った!」
「そういうのが家族っぽいでしょ?」
「うん!」
棗は素直に頷く。
棗の家や兄の部隊のような、上下関係に煩い体育会系の組織と違い、随分と気安くて驚いたのだ。
「だから、みんな立花様の事は桐生様の甥っこ、ぐらいに見てるの。
桐生様は王様じゃないけど、パウロニアのプリンスって言う人もいるし」
「プリンス!! ……似合わない……!」
あの苦労性で幸が薄い立花がプリンスなんて、他の王子に誤った方がいいと棗は思う。
「他の人はみんなプリンスでいいと思ってるんだから、それだけあんたがずれてるって事よ」
柚木は呆れた様子だ。
「そっかぁ。それは分かった……」
棗は柚木の手前、しょんぼりした様子を装いながら、心の中で立花に教えたらどんな顔をするのだろうとウキウキしていた。
「まだ、何にも分かってないわよ?
そのプリンスには城内では不干渉の協定が結ばれているの知らないでしょ?」
「協定って、いったいどこで?」
「立花様は女性恐怖症だから、出来るだけ関わらない様に見守るのは城内の女達の暗黙のルールよ? 知らないのは身分が高くて、空気が読めないあんた達だけよ!」
「そんな……! そんな暗黙のルール聞いたことないよ!」
「言わないから、暗黙なんでしょ……。
まあ棗は派閥がアンチ立花だったからってのもあるけど、でも普通気づくでしょう?」
「じゃあ! 立花様といるとすごく視線を感じたのは……」
「そりゃあ、睨まれるでしょう……。嫌がらせとかにならないのは棗だからだろうけど……」
「棗だからってどういうこと??」
「だって、一応は領主家の姫だし? 強そうだし? 何より立花様に全く相手にされなくて面白かったし……」
「強そうって……本当に有名なのね……」
棗は最終兵器の件を思い出し、再び怒りが湧いてくる。
「そりゃあねぇ。でも、今回の件で棗の好感度は下がってないから大丈夫よ!
みんなお色気たっぷりな年増が立花様を怯えさせるのが可哀想で見たくなかったのと、立花様が無愛想過ぎて清純派の姫じゃ痛々しくなって嫌だっただけだから。
棗みたいな体育会系が素気なくあしらわれてるのは、とっても面白かったわ!!」
柚木は何故か嬉しそうだ。
「でも、立花様のお兄様と仲良くなるなんて予想外ね……家族公認なんて、恐ろしい娘!」
「柚木……眠いのね? ごめんね遅くまで……」
「大丈夫! 明日が楽しみだわ!」
こうして城内には毎日色々な噂が量産されていくのであった。




