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9 不吉な招待状

 浅葱は現在パウロニア城の警備をする部隊の長官をしている女性だ。立花や海棠の剣の師匠らしい。


「立花と浅葱さんは似てるからさ、安心するんだよきっと」

「海棠様がですか?」

「立花が! 真面目で努力家で自分の事を普通だと思ってるから、他の人が嫌味だとも思うとこも普通に受け止めてくれるんだよ」

 確かに立花が自分を普通と思うのであれば、会話の端々で馬鹿にされていると感じる言葉も分かるような気がする。


「それじゃあ浅葱様も嫌な人なんですか?」

「浅葱さんは抜けてるから、嫌味には聞こえないな。立花に小さい可愛いを連発するような人だ」

「確かに立花様が可愛いに過剰反応するのはすぐに分かりますね。と、言うことはつまり立花様の好みは、真面目で努力家が世の中の普通と思ってる人ですか?」

「俺の話聞いてた? 安心する人だって……」

「立花様が安心する人ですか? どんな人です?」

「あいつが言ってたんだろ? 穏やかな人って」

 穏やかで安心する人って、まるでお母さんみたいと棗は思った。



「分かりました。では立花様の趣味はなんですか?」

「機械弄りじゃないか? あいつの乗り物は全部清白と二人で作ってるし」

「なるほど、後は女性不信とお兄様の件でしょうかね〜」

「何が?」

「いえ、一ノ方様からは結婚に障害になりそうな事を調べろと言われてまして。他に何かありますか?」

「別に女性不信じゃないけど? 外で会ったら普通だよ。軍に入る前にマナーとか色々教わってるし」

「それは困りました。立花様は優良物件だから出来るだけ障害をあげろと言われてるのですが……」

「そのお兄様が全てだと思う」

 海棠は諦めたような表情で言う。



 しかし棗には立花の兄と会う手立てがなかった。

 話を聞いただけでも積極的に会いたいわけではない。だから立花取説は親族に注意ぐらいの記載で終わらせることにした。



 しかしその数日後、棗のもとに不思議な招待状が届いた。


『夕刻お迎えにあがります。 尾花』


 差し出し人にも心当たりがなければ場所も書いていない。悪戯と判断した棗はすっかり忘れて過ごしていた。


 その日の夕方、棗が街で買い物を終えた帰り道、棗の進路を塞ぐように黒塗りの機体が止まる。見慣れない高級そうなドアが開き、身なりのいい老紳士が降りてきて、丁寧なお辞儀をする。


「棗様でいらっしゃいますね? お手紙を差し上げた尾花の使いでございます」

 朝眺めただけの手紙の差し出し人など全く記憶していない棗はとりあえず誘拐を疑う。

「ええっと、スミマセン。どちら様でしょうか?」

「これは、申し訳ございません。私は繋屋しげやの者でごさいます。棗様には立花がご迷惑をおかけしたようで、主がお詫びも兼ねたご挨拶をしたいと申しております」

 そう言って老紳士は腕の通信端末を操作し、棗にIDを見せる。それは間違えようもなく大陸最大手の通信網を持つ大企業の物だった。


「その、立花様とはどう言ったご関係なのでしょう?」

「はい。立花は我が主、尾花の弟でございます」

「あぁ、左様でございますか」


 棗は力無い笑みを浮かべて時が過ぎるのを祈る事しか出来なかった。




  ▽▲▽




「疲れた……」

 魂が抜けたような立花の様子に鬱金はおかしそうに笑う。

「良かったですね、無事に戻ってこれて」

「なんかあったら俺の事捨てていくつもりだっただろ?」

「まああれですよ、何事も経験です。それにいいお土産を貰ったじゃないですか」

 立花が恨みがましい目をしていると、メッセージが届く。


『夕食に可愛らしいお嬢さんを招待しました』


 立花は一瞬目の前が暗くなった。


「どうしました?」

「イヤ、兄からだ……悪いけどすぐに帰る」

 立花は鬱金の返事の待たずに急いで家へと向かうが、その途中過去の嫌な思い出が次々と浮んで来る。



 桐生に拾われてすぐの頃、桐生と一ノ方を交えて行われた、話し合いという名の精神攻撃。

 女友達がある日突然よそよそしくなった時の事。そしてその女友達の話を生い立ちから遡って兄に聞かされた数時間の苦行。

 近しい友達が出来る度に繰り返されてきた素行調査とその報告。


 少し自分と仲良くするだけで、本人すら知らなかった両親の不義やら若気の至りの恥ずかしい出来事を調べ尽くす兄。それを立花に話すだけで止めておけばいい物を何故か当の本人にまで伝える為、立花は周囲から危険人物扱いされている。

 正直、立花は被害者を出さない為に人と関わることを諦めている。


 憔悴しきった棗の姿が目に浮かぶようだ。しかも棗の家は領主筋だ。心の底から余計な事をしないでくれと祈る。

 兄の事だ棗は一ノ方に言われてのお役目としての行動だという事も調べてあるだろうに、何故夕食に招待するのか。


 慌ただしく帰宅した立花は家令の老紳士に兄の元に案内させ、深呼吸をしてから扉を開ける。

 そこは思いもしない光景が広がっていた。


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