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罪悪感

 やってしまった。

 立花の個人情報を聞き出した後、棗は一番近い女子トイレで頭を抱えていた。

 他の人なら仲良くなるための通過儀礼の様な会話でも、立花には厳しかった気がする。周囲の悪ノリもあったとは言え、あそこ迄しなくても良かったと思うのだ。


「絶対嫌われた……」

 立花に可哀想な事をしてしまったと罪悪感が募る。

 他人には無感情な立花に怒られるのも呆れられるのも、特別な感じがして立花が心を開いてくれている様で嬉しかったのに。


 しかし、あのまま限られた情報を楓に報告したとして、やり直しを命じられるのは分かりきっている。一回失敗している以上は次の調査はより厳しくなるのは間違いない。棗の出来る範囲で立花を守ったのだ、と自分では思うが立花がどう思うかは別の話だ。

 その上これから立花のお友達にも話を聞きに行くってどんな顔をして行けば良いとのと言うのか、もう考えただけで泣けてくる。


 どれぐらい時間が経ったか分からないが多少心の整理は着いた。

 泣くのなら部屋に帰ってからにしようとトイレを出る。

 早く帰ろうすると人にぶつかってしまった。

 驚いて相手を見ると、よりによって立花だった。

 一瞬視線が交錯すると立花も驚いている様だった。

 ごめんなさいとだけ言って恥ずかしさのあまり走り去る。


「最悪……」

 走った上に自己嫌悪で息が詰まりそうになりながら自室に鍵を掛けるとズルズルと座り込む。このまま消えてしまいたい。

 しばらく膝を抱えていると端末が振動する。何もしたくなかったが、ウジウジと考えていても気になるだけなのでメッセージを確認すると立花からだった。

 驚いて喉が詰まる。

 目を閉じてメッセージを開き、パッと見てすぐに閉じようと決意をし、恐る恐る目を開く。


 書いてあったのは本当に簡素な連絡先の羅列。

 そして最後の一文。

『北に行ってくる。半月ほどで戻る』


「…………」

 一瞬頭が真っ白になるが、煩いぐらいの心臓の音と共に内容を理解する。

 棗は一度落ち着くために顔を洗ってから部屋を飛び出した。




  ▽▲▽




「やられた……」

 写真ぐらい大した事ないと分かってるのだがどうしても無視できなかった。精神的に疲れ果てて机に突っ伏している立花に鬱金が声をかける。


「そんなに落ち込む様な事ですか?」

「別に大した事じゃないのは分かっている。でも、負けた気がする」

「それは気の所為ではなくて事実でしょう……」

 立花が恨みがましく睨むが鬱金は穏やかな微笑みで答える。


「大体、何でみんな入って来るんだよ!」

 片付けをしていた椿達は立花の八当たりにも何故か嬉しそうだ。

「だって、面白そうで……」

「いや〜棗さんあんな事聞くなんて、尊敬しますわぁ」

「まぁ疑惑が晴れて良かったよ」

「なんか落ち着かなかったもんなー」

「落ち着かないって何が?」

 立花が年上の部下達にどすの利いた声で尋ねる。


「ほら、立花様は男から見ても綺麗だから……ってスミマセン。調子に乗りました」

 九十度頭を下げられ、立花は舌打ちで答えるが全く効果のないことは分かっている。普段無感情なせいか少しでも感情的になると盛大にイジられるのだ。

「あ〜も〜俺は帰る!」




 立花はイライラが抑えきれないまま廊下を歩いて行くと人にぶつかり、反動でお互いに振り向き、目があった。


「うぁっ……て棗?」

「ごめんなさい」

 一言だけ言い残して走り去った棗は赤い目をしていた。泣いていたのだろうか?

 いや、被害者は俺だよな?

 心の中でそうごちるが女の涙は破壊力抜群だ。原因が自分にあると思うだけで罪悪感が湧いてくる。


 確かにイライラしていたが、棗に対してと言うよりは、言い負かされた自分にであって棗が泣く様な事はないと思う。

 自分は泣かれる程嫌がっただろうか?

 棗はどんな様子だっただろうかと思うが写真を見せられた後の勝ち誇ったような顔以外あまり思い出せない。


 諸悪の根源は写真なんか撮った奴だ。あいつが全て悪い、と感情を掻き乱された立花は責任転嫁してロブを迎えに行くが、肝心の男はもう帰っていた。


 不機嫌にしているとロブに見つめられる。もの言わぬ瞳に罪悪感が増して来る。

 溜息を吐きながら棗にメッセージを送るとロブは尻尾を振りながら立花を見上げる。


「ロブ、俺は被害者だからな」

 当たり前だが返事はない。それ以前にロブが立花の不機嫌の理由を知っているはずがないのだが、それでも言い訳をしてしまう。


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