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隣人  作者:
4/6

確認

「阿部君お願いね。」

朝、会社から同行命令があったので、通報のあった空き部屋に向かった。

会社からの指示は簡単だった。向こうの指示に従ってくれとの事だった。判断に困る時は一旦こっちに連絡してくれとの事。

正直行きたくない。年間のこういう警察のお願い事は数知れない。

特にうちのように小さい間取りを取り扱っている会社は何度となく協力要請が出る。

【おたくの所に違法滞在者がいるかもしれない】

【現場を押さえれるかもしれないから張り込みの為空き家を開けてくれ】

【もしかしたら被害者の証拠があるかもしれない】

かもって何だよ!!案外この国の治安組織はかもしれない?で治安を守っていると思った。

未然に防ぐとは大事だが、手助けして当然の空気は辞めてほしいと思う。

今回の同行は空き部屋に女性が監禁されているかもしれないとの事だった。前日に隣の住人から声がするとの連絡があったそうだが空き家だと言って警察に通報しなかった為、警察から要請があった。これで何か事件があればオペレーターは始末書だな。

問題のアパートに着くと既にお巡りさんが何人も待機していた。近隣住民の評判もあるから本当こういう大所帯で来るのは辞めてほしい。その中に大家の古川さんが居た。久々に会ったせいかだいぶジジイになってしまっている。

「今日はよろしくお願いいたします。D住社の阿部です。古川さんお久しぶりです。」

古川さんは父親が元地主で他にも物件を所有している。家賃収入で生活しているちょとしたセレブだ。私と目があうとゆっくり頭を下げた。そして人柄もいい。

「ご協力ありがとうございます。早速ですが事前に確認していた事をもう一回確認していいですか?」

「はい。」

「こちらは二階建てのアパートで下は全部コインランドリー。二階が住居部分ですね?住居部分は三部屋のみ。現在は203と202のみ契約済み。201は三年ほど契約はなし。」

「はい。その通りです。201は階段から上がってすぐなんですがコインランドリーのモーター音が直に響く場所のようで人気がないんです。201だけ床を厚めに変えたのですがそれでも振動が来るようで三年前に住んでいた方が最後です。」

「その後、鍵を取り換えたりしましたか?」

「いいえ。入居者が決まってから取り換えるものですので。」

「じゃぁ前の住人はまだ入れるという事ですか?」

「…鍵は返却して頂いています。」

まるで前の住人を疑っていると言わんばかりの口ぶりだ。鍵を開ける前に警察は何枚か写真を撮影しだした。まるでここが事件現場と言われているようで気分が悪い。ふと隣をみたら202のドアも何か警察が調べている。

「ちょっと!!何してるんですか!?勝手に!!」

思わず大きい声をあげた。するとさっきまでしゃがんでいた警察の男性が立ち上がった。立つとでけぇ。

「202の方から被害報告がありまして。ご報告なかったようですので言いますが…昨日女性の声がしてびっくりして避難し、こっちへ戻ってくるとドアポストから男性の精液がかけられていたそうです。201の声といい、202の嫌がらせといい。関連は無きにしも非ずと思いまして…住人の方の許可はとってます。」

「それは聞いていません。」

「まぁ202の被害に関しては直接こちらに連絡があったので」

その間にも警察は作業を続けた。開ける前にスコープで中がピッキングされていないか確認までしていた。

「ピッキングはされていないようですね。」

ドアを開けると明るい南向きの部屋らしい光が燦々と入ってきた。単身者向けのワンルームだ。荒らされている様子はなく、箱のような物のないガランとした部屋だった。警察が期待するような血や肉片…また凶器なんて一切ないただの空の部屋だ。この明るい部屋に血一つでもあったら逆に目立つだろう。

「…」

何もない事に警察は明らかに落胆した。ただ…自分だけ違和感に気付いてしまった。

長い事人が住んでない割に空気が淀んでない。普通こういう長期の埋まってない物件は消毒したのち部屋を閉じ切るので独特の臭いがする。それがまるでない。まるでさっきまで人が住んでいたような感じがする。

この違和感は多分自分しか気付いていない。

「何もありませんね。」

警察の誰かが言った。

「いちお調査してくれ。細かい変化を見逃すなよ。すいませんね。朝から。」

ここで初めて警察が下手に出始めた。恐らく収穫なしと思ったんだろうか?

「あの…ちょっと良いですか?」

この大所帯のリーダー的な男を部屋の外に呼び出し小声でさっきの違和感を伝えた。

「ほーーー。それは…物件紹介のプロのあなたにしか分からない事ですね」

男は微かだがにやりと笑った。また連絡があるとの事で一通り調査し終わると解散になった。あいつら引き上げはかなり早い。下の駐車場で古川さんと休憩しながら今日のガサの話しになった。

古川さん曰く三年前からここあたりで若い女性が失踪しているらしく。未だ死体も見つかっていないので行方不明として処理されているようだ。それは何となくニュースで知っていたが、失踪事件というのは未成年者以外はどうしても目立たない。例え連続で起こって居ても死体が見つからない限りは関連と考えるのは難しい。

どうも警察はその事件とこの女性の声がしたというのが何か関連しているのでは?と踏んでいるらしい。

さすが日本の犬は優秀だ。

今回の声は隣の202の住人はずっと苦に思っていたらしく、昼からAVを鑑賞しているのだと思っていたそうだ。最近になってどうも音がおかしいと思いだし、今回の騒動にまで発展したようだ。

「あ。だったら203の太田さん何か言ってなかったですか?確か視覚障害者ですよね?人一倍音は敏感なはず。」

「あぁ太田さんね。彼昼間は居ないんだよね。」

「そうなんですか?」

「何かボランティア団体の…なんだっけ?あの穴ポコ開ける作業に行ってるみたいで。」

「あーー点字!!」

「そうそう。早朝と夕方は散歩、水曜と土曜日はヘルパーさんが来るんだって。」

「案外ルーティン決まってるんですね。」

「警察はそのルーティンを絞って何か聞きませんでしたか?って聞いてたよ。阿部さんが来る前かな早朝。」

「え!!また勝手に…太田さん何て?」

「一切聞いていません。って…隣のお嬢さん方が昨日朝から悲鳴を上げたくらいしか聞いてないと…昼頃そのお嬢さんの親戚の男性という方がドア前に居ましたよ?ってさ。」

「精液はそいつが犯人じゃね?」

「それが…その男性が警察関係者だったみたいで…今回の騒ぎになったみたいでね。」

「はーーなるほど。」

「他警察は他に何か言ってたかい?」

「あー三年前に引っ越した前の住人を疑ってましたよー。」

「前の住人は…確か…」

「女性ですよ。調べました。ちょいちょい電話かかってくるから有名だったんです。」

「あれまっ!?」

「ランドリーのモーター音がうるさいってのと…ドアポストから覗かれているとか深夜にドアノブを回している奴がいるとかで…うちは管理会社なのに警備会社のように扱われて…。まぁでも結婚を期に早々と退去されましたね。その時に太田さんの事も言ってましたね。」

「え?あの静かな太田さんに何て?」

「不気味で気持ち悪いって。」

「酷い女だねぇ…。」

「曰く付きのお部屋になったりしませんよね?」

「阿部さんやめてよぉ…いちお私の所有する物件はまだ一度も事故物件出した事ないんだから。」

「ですよね。契約頑張ります!!」

「お願いね」

そんな話をし本社に戻る所だった。交差点近くの信号待ちで目の前を太田さんが通った。背を曲げて白い杖で足元を確認する姿はとても弱々しく見えた。

彼はとても耳がいい。本当に何も聞かなかったんだろうか?声をかけるか迷いつつも目の前の老人を見送ってしまった。あとでお騒がせしたお詫びのお菓子を持っていかなければならない。

本社に戻るとねぎらいの言葉よりもあいつらどうにかしろと言われた。目線の先にはゲストルームに小柄でショートカットの女性と外国人風の厳つい黒髪ロングの女とこれまた厳つい男が居た。

「誰ですか?」

上司に確認すると202の住人とそのお友達と今回連絡してきた警察関係者の彼氏だそうだ。

「うわーーー超厄介。超クレーム言われんのかな?彼氏もお友達も厳ついんだけど…」

「仕方ねーだろ!!事が大袈裟になってんだから…引っ越し費用意外は何とかできなくもないが…なるべくひっぱれよ!!阿部ちゃん頼んだ!!」

上司に最低ラインの線引きをされ、肩を叩かれた。全面ガラス張りのゲストルームに入るとコーヒーの香りがした。

「はじめまして…D住社の阿部です」

本日二回目…自己紹介…。三人は食いつく事もなく頭を下げた。案外良識的なやつかもしれない。

私達が警察みたいな事をする事もできず…ただ淡々と契約についてのご案内を進めた。上司から言われた通り引っ越しを検討されているなら当物件間であれば今回敷金礼金は省きます、ただし引っ越し費用はもてませんと伝えた。特に返事はなかった。契約者はショートヘアの小柄な子のようだ。名前は五島なつ。大学生なのでここから近い物件で家賃が近いものを何個か案内した。イマイチ反応はない。

「五島さん?」

「すいません。ちょっと寝てなくて頭がぼーっとしちゃって…。これって今日中に決める感じですか?」

「いいえ。まぁでも早い方がいいですね。」

「そうなんですね。ちょっと考えてもいいですか?」

「え。あ。はい。」

五島さんは丁寧にお辞儀をすると社を後にした。普通の良い子じゃないか…っと思うとちょっと可哀想に見えた。見送った後上司に報告をした。報告の途中で大きなため息をつかれたので休憩にしないかと提案した。上司の疲労が半端ない。

「さっきの五島さん可哀想だよね。こっち来たばかりでさ。」

「はぁ。」

「うちにも娘がいてさ。今年大学受験なわけよ。なるべく家から通ってほしいよね…」

そっちの心配かい。

「阿部君はまだ結婚とかしてないから分からないだろうけど子を持つ親は常に心配なワケよ」

「五島さん他何か言ってましたか?」

「んーーーー?長い事卑猥な音声に悩まされてたみたいよ?それが昨日壁のガリガリ音だからね…しかも住人は居ない。怖かったろうね。」

「あーーー。それすごい悲鳴あげたんでしょう?」

上司は固まった。

「え?」

「え?」

互いに顔を見合わせた。

「それ誰から聞いたの?」

「え…いや…203の太田さんが朝方隣のお嬢さんの悲鳴を聞いたって…。」

「…」

上司は缶コーヒーを握りしめたまま険しい顔で黙り込んだ。

「それはおかしいぞ…だって…さっき五島さん達は壁の擦過音聞く前に外へ出る太田さんとすれ違ってるらしいんだ。彼女らの悲鳴を聞くわけないじゃないか…」



隣人【確認】→【暗闇】へ続く

続きます。

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