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隣人  作者:
3/6

現象

妹から久々に電話があった。これは忌々しき事態だと思う。

妹とは5年程まともな会話はしていないし実家に帰っても俺を避けるように家に居ないし。家に居ても自室に引きこもってまともに顔を見ていない。

親父もあまり構うなというのでそっとしている。そんな妹から直々に今電話がかかっている。

親父に何かあったんだ!!意を決して…勤めて冷静に電話にでる。俺は長男だ!!こう言う時こそしっかりせねば!!

「はい!!俺。どうした?」

「…兄貴…メールアドレス変えたよね…。」

妹の声は酷く落ち着いている。むしろ怖いくらい低い。

「あ。ごめん…。」

「…」

変な沈黙が流れた。

「あのさ…いきなり電話って何かあった?」

「今日非番?」

「…うん…え?何で?」

「至急こっちに来い!!」

最後の指令を強く言い残すと奴は電話を切った。やべぇ…何かお怒り?俺何かした?いや…ここ何年と関わってないから怒りに触れるような事は…夜勤あけでふらつく体に鞭打ち地元に向かった。

何なんだあいつは…?

地元はここから電車で一時間半の場所にある。そこそこの田舎で大きい工場や研究所、大学施設そして大型ショッピングモールなどのやたら土地を広く使う産業で成り立っている。

そんな俺の実家は昔は空手道場で生計を立てていた。まぁ今は親父は引退してしまって、臨時の空手講師として各高校にお邪魔しているようだ。ちなみに母親は幼い頃に他界してしまっている。実は記憶も母親に関してはほぼない。俺が運よく警察官にパスしたのもおせっかいな親父のおかげといっても過言ではない。県警のトップがまさか親父とマブダチだった。強力なコネ!!署内では極秘事項になっているが…おかげでこれがバレないように必死だ。落ちてもいいから実力で行きたかった…。

電車に揺られ疲労から睡魔がやって来そうになる。ふと腕時計をみると午前11時。駅前でうどんをすすってからでもいいだろうか?腹が減って死にそうだ。

田舎に向かって電車が進めば進むほど乗客は降りて行き少なくなっていく。ぼーっとしてたら、妹の低い声が耳に蘇った。妹は高校卒業後すぐ自衛隊に入った。しかし朝が全くダメで向こうから退役推進されて暴れる場所を失った狼は今やゲーム廃人。意外だったのが朝がダメ以外は戦士としてスキルが高いので本当は手放したくなかったそうだ。そんな事を親父から聞いた。向こうも新人の妹だけ特別扱いするわけにもいかず色々手は考えたものの同じ隊員の目もあり惜しくも…と聞いたがあくまで親父からの話なので本当のところは分からない。最近、弁当屋でのバイトを始めたと聞いた。働かないとネットの線をぶち抜くぞと親父が脅したらしい。今の妹にとってネットの線は生命に近いようだ。クソか鬼才か…俺はクソだと思っている。

そんなクソが…何の用何だ?

駅についたら既に妹が待ち構えていた。最後に見た時はまだ高校生だったから随分変わった気がする。黒髪のロングストレートおまけに目つきの悪い事…大人の凶悪さだけ増した気がする。

「よぉ…久しぶり…どうした?」

「乗れ。」

妹は顎で車をしゃくった。相変わらず声が低い。

車に乗り込もうとすると後部座席にめちゃくちゃかわいいショートカットの女の子が居た。妹とは正反対のタイプだ。友達か?可愛過ぎる!!こんな素敵なお友達が居るなんて!!

挨拶もそこそこに近所のファミレスに連行された。

後部座席に居た可愛い子は五島なつちゃんと紹介された、珍しく後藤ではなく五島らしい。今回この可愛い女子の事でお呼び出しのようだった。妹曰く職場の後輩で年齢は一個下。大学生で実家は県外の為今年の4月から一人暮らし。夜間の大学に通っているそうだ。

朝ごはんには重いがガッツリハンバーグを頬張りながら大体の話を聞かされた。

「兄貴に見て欲しいんだけど…」

妹はそう言って自分の携帯を取りだした。

「これさ。今日バイトが終わって五島の部屋に行ったら聞こえたやつ。急遽録画した。」

妹が再生したその動画は、最初はわたわたと画面が見えずらかった。しかしすぐに画面は一人暮らしの家の飾りっけのない壁を映しだした。画面の向こうで妹が静かにというと静寂の中で薄く音が聞こえ出した。

向こうの壁を引っ掻くようなそれとも壁を擦っているような微かな音。

「これって?」

「し!!ここからなの黙って聞いて!!」

妹の指示に従い画面にまた視線を戻した。暫く壁から何かを擦りつけているような音が続いた。

『すーーすーーーすーーーー。』

その後だった、はっきり聞こえた。


『ここから だして』


微かな女性の声。そこで録画はストップになった。この後ビビりまくった妹と五島なつちゃんは逃げるように部屋を出たそうだ。車で街中まで来たら一旦冷静になろうと二人で話しあい調べて管理会社に電話したそうだ。

『201から女性の苦しむような声がする』っとストレートに。彼女らはあくまで穏便に事を済ます予定だったものの背に腹は代えられないと管理会社に事のヤバさを伝えたそうだ。すると管理会社からの答えはこうだ。

『201は空き家です。三年程入居者はいません』何かの勘違いではないか?そんな風にあしらわれたという。全身に嫌な悪寒が走った。

妹のドリンクはもう氷が溶けきってオレンジの色が二層になりかけている。

「すいません。発端は私なんです。巻き込んでごめんなさい。お兄さんも折角のお休みなのに。」

「あ。いや…頼ってくれて嬉しいよ。あのさ…今からでもいいから警察に電話したら?」

妹はかっと目を見開いた。

「だって誰も居ないんだよ?警察に電話しても結局管理会社に連絡して…空き家なんですけどとか言われたら…!!」

「本当に居ないのか?これ見る限り本当に壁を擦ってないか?」

「だろ?兄貴もそう思うよね?いや絶対居るよね?」

妹は苛立ちながら煙草に火を点けた。吸い方が親父にそっくりで引いた。

「兄貴の権限でどうにかならない?中確認できない?この動画証拠として渡すから。」

「いや…お前何も聞いてねぇみたいだから言うけど…俺…刑事じゃねーのよ。派出所勤務のお巡りさんレベルなのね?しかも今日非番だし。ここ管轄区じゃねーし。」

「…」

ものすごいじっとりとした目で見られた。無言の圧力がすごい。さすが自衛隊上がりは目力が違う。

「分かったよ…妹の大事なバイト先の後輩なんだろ?」

「お兄さん!!」

「兄貴!!」

「五島さん…一旦おうちに戻るけど大丈夫?」

「はい!!」

「理恵…うちの実家空き部屋いっぱいあったよな?親父は?」

「空いてる。親父は今日から組合の連中と鹿児島旅行。」

「一旦、隣の様子を可能な限り確認する。ついでに五島さんには荷物をまとめて暫くうちで過ごしてもらってもいいかな?」

「え?まじかよ?うち?」

「勝手に首突っ込んどいて…途中で責任を放棄するな。ちゃんと彼女を保護しろ。仮にも空手はお前師範代だろ?元陸自だし…ちゃんと守れ。」

「え!!葉山さん…親の借金苦って…実家…そんなに広いんですか?空手の師範代?りくじ?」

妹は自分のクズぶりを隠す為にとんでもない事を言っていたようだ。妹の運転でアパートまで向かった。アパートに向かえば向かう程二人は車内でどんどん重い空気を生み出していた。相当怖かったのだろう。妹のハンドルを握る手が力が入り過ぎている。

二人には言わなかったがひとまず二人を安全な所へ隔離して落ち着かせる必要があった。確認はするだけして一旦隔離し、後日上司に報告し翌朝一番で管轄の署員に確認してもらうのが筋かなと…。

まぁ確認した所で何もでないとはちょっと思っていた。

俺の勝手な想像だが…手の込んだ悪戯のように思う。昔にこういう案件があった。特に若い女性はターゲットになりやすい。あまりにも手口が安い気がする…。恐らく近所の中学生か高校生が可愛いお姉さんをからかったというあたりだろう。

しかし、アパートについてそれは急にこっちに牙をむいた。それは五島さんが階段をあがりドアに近づいた時だった。彼女は小さい悲鳴をあげた。

「何これ…」

201を凝視していた俺と妹は五島さんの声にびっくりして振り返った。

五島さんは鍵を持ったまま震えている。そのドアをみるとドアポストからべっとりと粘度の高そうな白い液体が流れていた。匂いですぐに分かった。

「精液だ…」

五島さんを妹に渡した。全身がふるえていた。

「お前先に五島さんと車に戻ってろ。絶対彼女を一人にするな。」

「分かった!!」

迷わず自分の上司に電話をかけた。中々出ない。その時だった。階段を軽快にあがってくる音が聞こえた。

サングラスに白い杖をもった初老の男性だ。スーパーの袋を提げている。

「こんにちわ」

優雅に頭をさげた。あまりの優雅さにあっけにとられ声が出なかった。

「あ…こんにちわ…」

男性は少し驚いたリアクションを見せ軽く首をかしげながらこう言った。

「五島さんの声ではないですね?」

「あ。親戚です。いつもお世話になっています。」

どうも視覚障害者のようだ。

「そうなんですね。こちらこそいつもお世話になっています。」

そういうと老人は俺の横をすり抜けて行った。すれ違い様に頭を下げた反動だろうか…老人から変な薬臭がした。歳も歳だがら薬漬けなのだろうか?良く見るとサングラスの端から古い傷跡が見えた。障害ではなく事故で視力を?203へ入って行く老人。ドアが閉まるその直前に老人にとっさに聞いた。

「あの…!!お名前は?」

「……」

聞こえないふりしてドアを閉じられた。冷たい隣人め。



隣人【現象】→【疑惑】へ続く。

続きます。

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