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隣人  作者:
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仮説

私は女のくせに背が高い為に目立った。

また長い事空手をならっていたせいで微妙にあちこちが厳つい。バイトで着る白の作業着は目以外出ていないので体格だけで男と間違われる事が多々あった。

今のバイトは弁当工場での深夜作業だ。流れてくる弁当に指定のおかずを詰めていく。簡単すぎる作業だが深夜の為すこぶるお給金がいい。そしてお弁当の賄いもでるので私にとっては都合がいい。だいたい作業スタッフはおばちゃんばっかりだがたまに苦学生や借金に追われているヤバイヤツが来たりする。

私は借金に追われているわけでもないし、苦学生でもない。

葉山はやまさんは何でここで働いてるんですか?」

横で着替えている同じ女性の五島ごとうに聞かれた。彼女は私とは真反対だ。

細くて華奢で背が低くヘッドカバーを取った顔も小さくて色白でか弱い感じがした。横に並ばれると同じ日本人で同じ女で年齢も近いという事が疑わしくなる程の見た目の差だった。

だからあまり関わりたくなかった。五島は大学生だと言ったがこんな夜中のバイトを選ぶなんて間違えなく苦学生。

「親の作った借金返済の為。」

「え!!そうなんですね。」

嘘だ。本当は朝起きれないくずだからだ。人と関わるのも面倒であまり同世代の居ない所で夜の作業を探したらここに行きついた。昼はずっとゲームをしているとんだクズでクソだ。なのに五島は私に憐れむような目線を投げかけて来た。

「五島は?」

「私は学費と生活費を稼ぐ為です。ここって賄いもでるし、時給がホントいいし、すごく都合がいいんですよね」

ぱはり苦学生か。

「へー。苦学生ってやつ?」

「苦とは思ってませんよ」

五島はにっこり笑った。

「大学どこ?」

「ここの近くのN薬科大です」

「五島は頭いいんだ…」

「そんな…」

っといいつつも五島はそのショートヘアを照れくさそうに撫でつけた。顔も小さいが、頭も小さい。ショートヘアが似合うのも彼女が全体的に小柄だからな気がする。いつも思っていたがヘッドカバーがかぶるとかなり余る…可愛い姿がかなり不格好になる。

「こんな深夜の作業で昼間授業きつくない?」

「あ。夜間なんです。夜間だと授業料がかなり安いので講義受けてからこっちに来てます。」

「あーね。」

大体の時間割が一瞬で把握できた。まぁ希望を持ち明日に疑いを掛けない将来有望な苦学生だな。

私のようなゲーム付けで半ニートとは全然違う。そのひがみが顔に出ないようにヘッドカバーとマスクをすぐに被った。残念ながら私には作業着もヘッドカバーも余らせる隙間はない。

ロッカーを閉めると作業場に向かった。パタパタと同じシフトの五島が後ろから来ている。

「葉山さん…空手ならってたんですよね?」

「は?」

「ごめんなさい。パートのおばちゃん達に聞いて…」

おしゃべりクソババア共め。

「瓦とか割らないからね。」

「すいません。聞いちゃって…ちょっとその…相談があって…今日の作業終わりちょっと時間頂けないでしょうか?お願いします!!」

そう言うと私の前に回り込み大袈裟に頭を下げた。小さい五島がさらに小さく見えた。ドワーフか何かを思うくらい小さい。昨日やったオンラインゲームの小さい人々を思い出した。アイテムをくれた小人…良い奴だったな。

「…いいよ」

私は昨日小人にアイテムを貰ってなかったら多分ここでいいよとは言わなかったと思う。まだ続きのゲームが待ってるから早く家に帰って続きをしたいのに自分でも他人に時間を割くとは珍しいと思った。

「ありがとうございます!!」

ドワーフ五島は目を輝かせていた。

その日のバイトもいつも通りに終わった。いつもと違うと言えば工場の談話室に五島と居座っている事ぐらいだ。まだ朝5時…いつもならさっさと家に帰っている。コーヒーを片手に五島の話しに耳を傾けた。

五島はしきりに必殺技を教えて欲しいと言って来た。意味が分からない。

大男でも一発で仕留めれる技を知りたいそうだ。変なヤツとは思っていたがやっぱり変な奴だ。

ちなみにそんな技なんてない。どの技も手加減次第だ。実践的なものなら空手より柔術やテコンドーの方がいい。空手はどちらかというと型の美しさが基本だ。あまり実戦向きではない。

「倒したいヤツがいるの?」

あまり人前で煙草を吸うなと言われているが、我慢できずに火を付けた。

「……いえ…その…いざって時の護身としてです。」

「…いざ?護身?狙われてるの?」

「……まだ狙われていないんですが…そのいづれ私に?…」

「は?」

五島は頭が良い割に説明が下手だと気付いた。

「えっと…えっと…」

ショートヘアを撫でくりまわしていた。おかげで髪はバサボサになっている。その時何かを思いついたようでリュックから携帯を出しとある画面を見せた。画面はとある掲示板で悩み相談が書かれたあった。

「…隣人がうるさい?」

「その投稿私なんです。説明しきれないのでそれを読んで頂けると分かりやすいかなと思って…」

火を消すと一気に読んだ。どうも五島は隣の男と思わしき住人のAV鑑賞に困っているようだ。

「で…必殺技って…この住人とトラブったの?」

五島は顔色を変えて横に振った。

「まだ管理会社にも連絡していません。引っ越しの費用を溜めたらそっと出て行こうと思って…」

「へーー。何で?」

「何か…最近…気付いたんですけど…AVと思っていたんですが…もしかしたら違うかもって…」

AVではない?と言う事は…

「生?」

「そんなはっきり言わないでくださいよ…」

五島は顔をしかめた。他の言い回しが思い浮かばなかった。

「管理会社に電話しようと思った日…講義が急遽なくなって夕方頃も自宅に居たんです。そしたらその…弱弱しく壁を撫でるような音がして…今までの激しい生活音と明らかに違うんです。」

談話室には私達しかいないのに五島は声のトーンを落とした。

「まるで壁を伝って出口をそっと探し回っているような…」

「女が監禁されていて毎日慮辱されているとでも言いたいの?」

どんな映画だよ…。

「毎日ではないんですが…何て言うか…声がいつも悲鳴みたいで…そういうAVと思っていたんですが…何て言うか…あえぎ声と思ってたんですが…何かこう上手くしゃべれていないような…」

「呻き声ってヤツ?」

五島は激しくうなづいた。

「そのような類のものです。もし…もしですよ?隣がとんでもない殺人鬼とかだったら…私いつ狙われるか…。」

「警察に電話してみたら?」

「逆恨みが怖くて…ほんとに殺人鬼とかだったら?」

「……血の匂いとかする?」

「え…いや?」

「何かが腐敗するような匂いは?」

「…いやぁ?」

「他に住人は変な事言ってない?」

「私の隣が…老人が住んでるんですが…たまに顔を合わして挨拶する程度で…。」

正直他人に興味はない。けども…五島の隣人のクズぶりには興味が沸いた。

「今日今から行ってもいい?」

「え?」

「五島ん家。」

「いいんですか?」

「ちょっと現場検証してみたい」

この時なんであんな事を言ったのか自分でも分からなかった。一つわかる事は珍しく興味があったのと大概が大袈裟に騒いでいるだけのパターンが多いからだ。大した事はない事の方が多い。

警察官の兄から色々話しを聞いているので、女性の一人ぐらしは被害のほとんどが勘違いだと聞いていた。

例え隣が頭の可笑しい野郎が出てきても勝算はあった。

長い事空手で鍛えて来たのと…半年前まで自衛隊に居た経験を活かせると思っている。


五島と五島の自転車を私の軽自動車に乗せると五島の噂のアパートへ向かった。向かう途中いちお忠告だけしておいた。

「五島のアパートは高確率で場所が特定されるからその書き込みもう遅いかもだけど消した方がいいよ。」

「え?そうなんですか?」

「あまり外に出ない私ですらその場所分かったもん。一階がコインランドリーで二階に三部屋しかないとか…それ見る人がみたらバレるよ。しかも大学生とか書いてるなら尚の事大学近くの物件で絞れば一発。」

「そんな…」

五島はリュックを抱え青ざめた。春の朝焼けが追いかけるように伸びて来た。逃げるように車を走らす。朝の誰も居ないこの時間はゴーストタウンのようでワクワクする。

「まぁ書かれて一週間も経ってないようだし…今のうち消したら?」

「すぐ消します!!」

五島はリュックの中をかき回しだした。小難しい本やら筆記道具が車内に溢れだした。その一冊が私の膝に零れた。

「すいません。携帯。携帯。あ!!」

携帯を見つけきれたのだろうか?間抜けな声を出した。

「何?」

「ちょっと止めてください。」

五島の目線の先に老人が太陽に向かうように白い杖を小刻みに震わせながら歩いて来た。目には色の濃いサングラスを掛けていた。白杖にサングラス…。

「隣に住んでいる太田さんです。全盲で時々ヘルパーさんがいらっしゃってるんですよ。たまに私もお手伝いしてて。」

「あー。悩み相談に書いてた隣の静かな老人ね。」

「そうです!!」

五島は窓を開け大きめの声で挨拶した。

「大田さん!!おはようございます!!」

老人は杖を止め声のした方に顔を向け頭を下げた。それからゆっくり顔をあげ口を大きくうごかしながらはっきり話した。

「その声は五島さんですね。おはようございます。」

「どちらに行かれるんですか?」

五島は私と違ってとても社交的だと思った。

「朝と夕方はいつも散歩に出てるんですよ。私は見えませんが陽の明るさは感じる事ができるので散歩は日課なんです」

老人の話し方はとても紳士だった。

「そうなんですね。」

「五島さんこそこんな時間に珍しいですね。」

「あ。ちょっと友達と朝ごはん会しよーかな?とか思って。」

「そうなんですね。見えませんがお隣の方はご友人ですか?素敵なご朝食を…」

そういうと紳士はぺこりと頭をさげた。サングラスの隙間からみえた古い傷にゾッとした…。傷は深く目に向かって走っている。

「五島…私…一言も発してないのに…さっきのじーさん私の存在気付いてたね。そんなものなの?」

「あー見えない分微かな音に敏感らしいです」

「微かな音…」

それから数分でアパートに着いた。



隣人【仮説】→【現象】へ続く

続きます。

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